▼ 鼻血と女子高生
鼻に違和感を感じ、鼻の下に手をあててみると、手に血がついた。
驚いて体を起こす。
「え……これ……」
さっきスライムの液体が鼻に入ってきた際に、粘膜を傷つけてしまったのだろう。いわば『プールに入ると鼻血が出やすくなる現象』である。
とめどなく流れてくる血液。ジャージを赤く染める。
「よかった、中学のときのジャージで。」
ポタポタと、怪人のせいで濡れたジャージに滲んでいく。
「おい、鼻血出てるぞ。ぼーっとしてるけど大丈夫かよお前。」
女子高生が鼻血を流している状況は不審だろう。しかも真顔で。
男の人はわたしの方へ歩み寄って、腕の中にわたしの頭を収めてコートで鼻血を拭った。
ごしごしとなかなかに強引だ。女の子相手なのだからもうちょっと優しく拭いてほしい。手荒すぎる。
「き、汚いですよ。」
「仕方ねぇ、我慢しろ。」
「汚いのはコートじゃなくて、わたしの血です……。」
「あ?ああ気にすんなどうせもうこのコートは着ない。」
ひらひらとコートを振ってみせた。生乾きの血。血の質量が重たそうにコートが鈍く揺れる。
見ればコートは穴だらけだった。ちらりと見える黒のタンクトップにも穴は開いていたが、皮膚に穴は開いてなかった。傷一つなくなっていた。
本当に、修復してる。
顔を男の人に向けてみる。彼の瞳は赤色だった。
「不死身って噂、本当だったんだ……。」
S級8位のヒーローに助けられた少女は、そのヒーローの腕の中で、赤い瞳に映る自らの赤に染まった姿を見つめながら呟いた。そんな彼女の瞳にはヒーローと彼に対する憧れと悔しさが揺らいでいた。
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