▼ ループするおわり*(流血)
※グロ表現あります。
彼を『殺す』ときはいつだって気分が悪い。
まず、彼から斧を貸してもらう。種も仕掛けもない本物の斧を。
ヒーロー協会で借りた無機質なコンクリートの空き部屋に二人で入る。彼はいつもの格好。ただし、危ないので武器はすべて外してもらう。
わたしは汚れてもいいような格好、できるなら捨てられるような服を着て挑む。
「頼むぜ。なまえ。」
「うん…頑張るから。」
なんだってこんなことをしているのだろう。
斧を彼に向かって振りかぶる。
目指すは腹部。心臓を狙うには肩が邪魔だ。
刃に肉が触れる瞬間、ひゅうっと背筋に緊張が走る。次の瞬間には刃は腹部の肉に巻き込まれていて、彼のタンクトップに染みが広がる。
まただ、また止まってしまった。
所詮、女性の力では一発で人間の体を断つことなんてできないのだ。
ぐいぐいと斧を動かす。肉か内臓の弾力かはわからない。筋肉を切っているときは、プチプチと腱が切れるような音がするのでわかりやすい。
彼の顔は苦痛に歪んでなかった。それはとても穏やかだった。
一方で、なまえの顔は酷く苦痛に歪んでいた。
いつまでたっても慣れないこの感触。
切り終わったあとに見える内臓を見ると吐いてしまう。それを壊したのは何者でもない自分だという事実受け入れ難い。すべて吐き出してしまおう。
恋人に自分の汚い姿を見せたくないがために、壁際に寄って嘔吐する。
口の中に胃酸の痛々しさが残るまま、ゾンビマンの方を振り返る。
彼は何事もなかったかのように再生していた。
それは視覚的な安心感を引き起こすと同時に、終わることのない苦痛を思わせることだった。
「なんで……なんでなの、ゾンビマン、あなたは自分が殺される実験が嫌いじゃなかったの。」
「悪りぃななまえ。辛い思いさせちまって。」
「答えて。」
「俺は、どうしてもお前に殺されたいんだ。」
最後になまえの姿を脳に焼き付けて逝きたい。
そう言う彼の頬はほんの少し赤く染まっていた。
2013/05/03
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