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▼ 赤い星を見た日



「不死身って噂、本当だったんだ……。」

S級8位のヒーローに助けられた少女は、そのヒーローの腕の中で、赤い瞳に映る自らの赤に染まった姿を見つめながら呟いた。そんな彼女の瞳にはヒーローと彼に対する憧れと悔しさが揺らいでいた。








それは雲ひとつない、空が薄い水色に輝いている朝のことだった。
香るのは晴れの日のいい匂い。最高の休日。
なまえは中学の頃に使っていたジャージに身を包んで、体力作りのためにジョギングをしていた。


なんて清々しい朝だろう。
ちょっととばして走ってみようかな。
走り始めたばかりなので、まだ疲れは溜まっていない。なまえは笑顔で軽快にスピードをあげて走り出した。


調子に乗ってスピードをあげたのもつかの間、尽く体力のないなまえは二十分走っただけで疲れてしまった。近くの公園で口の中をすすぎ、休憩をするために木陰のベンチに座る。



「(思ってたよりはやくバテてしまった……)」



ぜぇぜぇ言いながら体を反らせる。そこではじめて気がついた。向かいの道路から人間の形をしていない、異形のものが歩いて近づいてきている。おそらく怪人だろう。大砲のような形をしていて、煙がその体からあがっていた。

かなり大きな音を鳴らしているのにどうして今まで気がつかなかったのだろう。


「ぽん!!ボクは怪人ポン菓子砲だぽん!!ポン菓子製造ラインから降ろされた可哀相な怪人だぽん!!」



そう言いながらドゴンと音を鳴らしてポン菓子を爆発させる。人々の悲鳴もだんだんと近づいてくる。舞い散るポン菓子。漂う香ばしい香り。なんじゃこら、と心の中でつっこんだ。

信じられない光景になまえは目を疑った。なまえはテレビを通して怪人を見たことはあったが、生で見るのは初めてだった。怪人ポン菓子砲によって、周りには熱風が巻き起こされているにも関わらず、それを上回る焦りと緊張でなまえの体は冷えているように感じた。


なまえはベンチから動けずにいた。気づかれたら殺されるかもしれない。こんな疲れ果てているときに逃げ切れる気はしなかった。


近づいてくるな!!むこうに行って!!

緊張で上がる心拍数、暑さによる多量の汗。開く瞳孔。

「ぽーん?そこにいるのは誰だぽーん?」

気づかれた。

なにが「誰だぽーん」だ。わたしの名前知ってなんになるの!!名前なんか知っても知らなくても殺すんでしょう!

ドスンドスンとポン菓子怪人が近づいてくる。そいつが歩いたコンクリートの地面にヒビが入っている。余程の重量があるようだ。動きはあまり機敏じゃない。



「ぽーん、怪人になった身としては人間は生かしておけないぽん!」
そういうと怪人は自身の大砲にポン菓子の素を入れ、ガシャンと蓋を閉めた。ポン菓子が打ち出されるまでしばらくかかるだろう。
大砲がなまえに向けられる。ポン菓子怪人がどのように人間を攻撃するのかはわからないが、釜から打ち出される高熱のポン菓子をまともに食らうと全身大火傷を負ってしまうだろう。


なまえはなけなしの力を振り絞って公園から飛び出し、道路へ出る。人間がいないのはみんな避難していて、怪人の進行方向にわざわざ進む人がいなかったからだろう。好都合だ、遠慮なく自分の身を守らせてもらおう。



向かうはドラックストア。店員は避難したようだ。こちらだって緊急事態。心の中で謝りながら、整髪料や制汗剤のスプレー缶を数本手にとった。

そのまま怪人の視界に自ら飛び込んでいった。


「そこかぽん?!」

怪人は人間のほうから自分の射程範囲に飛び込んでくるとは思わず驚いていたようだったが、思ってもなかったチャンスににやついていた。
ポン菓子砲を打つために、釜の蓋が開く。
ドゴン、と熱風が巻き起こった。





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