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▼ 意思のゆくさき

リミッターのことをなまえにきちんと説明したうえで、なまえにどうしたいか聞く。
それが最善だ、と考えまとまったゾンビマンはすっくと立ち上がった。ジーナスの元へ向かおう。
念のためにと、コートに収納してある武器を点検し、弾は補充した。羽織ったコートは重く、この体をこの世にしっかりと押さえつけ、繋ぎ止めてくれているようだった。



たこやきの家に着くや否や、すぐさま座敷に飛び込んだ。部屋を見回すが、なまえと博士の姿はない。タコの足を採ってきたらしいアーマードゴリラが現れた。白い皿の上にまだ色の悪いタコの足が乗っている。

「ちょっと!土足で座敷に上がらない!」
「すまない、アーマードゴリラ……ジーナスはどこだ?」
「博士なら地下で、なまえちゃんといるはずだ」
意外にもあっさりと教えてくれるものだ、と気が緩んだが、続く言葉に再び気を張り詰めた。
「66号、いやゾンビマンなら彼女を助けることができる。急ぐんだ、なまえちゃんの命が危ない」

「わたしも”作られたものとしての立場”という枷がなかったら」とアーマードゴリラは俯いてタコを見つめた。「どちらも大事なんだ、博士もなまえのこと気に入って、情が湧いてるのかと思ったけれど、よくわからなくなってしまった。博士はいったい何をしようとしているのか」


地下室へのエレベーターは、長い長い時間、下へ落ちていった。こんなにも地下奥深かったら怪人探知機にも引っかからないだろう。下降の際の浮遊感が消えないうちに目的階に到着した。エレベーターのドアが開くとすぐ、視界にジーナスが映った。

「ジーナス」
人質は相手の手のうちにある。
「なまえはどこだ」
慎重に、冷静に。

相手を挑発してはいけない、武器には”まだ”手をかけないでおこう。
お互い視線ははずさない。カツカツと音を立てながら近づいていく。

「なまえはね、そのカプセルの中で眠っているよ。穏やかにね」
「薬で無理やり眠らせたな?」

動揺を博士に見せたくない。今すぐにでもカプセルに駆け寄りたい気持ちをおさえて、目線だけちらりとやる。ここからだと表情まではよく見えない。カプセル近くのモニタにはバイタルサインが正常だと出ている。嘘ではなく、本当に生きているのだろうと安堵する。

「なぜこんな真似を?」

「最初は、なまえを騙して眠らせて、周りに助けがいない状態で目を覚まさせ、極限状態で命を危険に晒すことで、無理やりなまえのリミッターを外そうかと思っていたんだ。ギリギリな状態であればあるほど、過去の思い出やトラウマの走馬灯がトリガーとなり、リミッターが外されやすい。例の怪人狩り・ガロウもそうだった」

「クソ……!なまえの意見を無視して勝手にリミッターを外そうとするんじゃない!」

「最初は、そう思っていた。しかしこの寝顔を見てるうちに、それは私のエゴであって、なまえのことを何も考えてないなと気づいたんだ。情が湧いてしまっていたんだね。共感も。老いることを恐れたわたしと人生の終わりを恐れたなまえ。似ているんだよ。わたしなりに、この子を恐怖から救いたいと思ってしまった」

ジーナス博士は今までに見たことないくらい穏やかで柔らかい視線をカプセルに向けた。中身の『年相応』の人格が孫に向けるような視線だった。そのまま口を開いた。


「今ここで、眠りに落ちているままなまえの命を絶ったなら彼女は幸せに生涯を終えるだろう。誰も憎まず、自分も不死身になれると信じたまま死ねるんだ。
死んだらもう恐怖も感じることはない。合理的だろう?」

まるで”正義”であるかのようにメガネの男は微笑んだ。



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