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▼ とわにグンナイ

「いらっしゃいなまえ」
「こんにちはジーナス博士」

そこは奥の座敷のようにいつもの和やかな雰囲気ではなかった。薄暗い照明が積み重なる機械の輪郭をぼんやりとうつしだし、空気も質量をもつようだった。

「こんな地下室があるなんて知らなかったです」

外から見ても全然わからなかった、と彼女はつぶやく。呟いた声は部屋中に鈍く反響して、地下室が閉鎖的な空間であることを強調する。手前の方に研究で使っているのであろうデスク、奥の方でかすかに赤や緑のランプの灯りが見える。

「まあ内緒にしていたからね。ゾンビマンにでもバレたら破壊されるだろうし」

机の上を片付けながら口を動かす博士を、なまえは、焦点のあってない目でみつめた。
(そうだ。この人はゾンビマンさんにいくつもの酷な実験を行い続けた人……。)
今までは、”ジーナス博士”という人物と、たこやきの家の博士の存在が重なっていなかったが、同一人物だったことが判明した。それはつまり、目の前の人物が極悪非道で、人の心を持たない人体実験をする人物だということが明らかになったということだ。
(ゾンビマンさんの言うこと聞いといたほうがよかったかなぁ……)
少々恐怖心が湧き上がり、帰ろうかどうか悩んでいると、片付けをしていた博士が顔をあげた。

「大丈夫、これからすることは、そんなに難しいことじゃないよ。方法が確立されてるから、苦しくもないし、とても穏やかなまま終わる」
「ほ、ほんとに……?」

見透かされたようなことを言われ、なまえはどきりとした。

「ああそうだよ。あ、不死身の体にするためには、カプセル装置でしばらく横になってもらわないといけないんだ。そこに置いてある水で、水分補給をしておいてくれないか?さっき、注いでおいたから」
「え、あ、ああ!ええとわかりました、これですね」

透明なプラスチックコップに八分目まで注がれた水に目をやる。

「そう、それ。カプセルの中は暑くはないけど熱中症になるといけないからね」

なまえはその水を一気飲みした。「コップ、捨てるゴミ箱どこでしょう」
「あ、いいよ。捨てとくから、そのまんま置いておいてくれ」少しバタバタと準備しながらジーナス博士は言う。「誰かが邪魔しに来る前に始めないと」
「え、邪魔って誰が……」
「そりゃ、66号以外いないだろう!そいつだけでも厄介なのに、それ以外もいたら厄介だ。」

はい、横になったなった、と急かす博士に押され、なまえは靴を脱ぎ、カプセルに横になる。

「スカートのホックとかきつかったら緩めておいてくれ。襟元もね」

なまえは、急にきた眠気にあくびを大きくした。目も自然に閉じて来る。
「グッドナイト、いい夢を」


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