かげろう
海鳥の声を聞きながら目を瞑った。
防波堤には太陽を遮るものなど一切なく、じりじりと皮膚が焼けているのがわかる。どこからともなく吹き出した汗が、額を滑り落ちた。
「こんなところで寝てると、死んじまうぞ」
不意に頭上から落ちてくる声に目を開けると、そこにはトラファルガーの顔があった。
「あぁ、白い肌が台無しだ」
やや焼けた頬を愛しそうに撫でながら、ため息混じりにそう呟く。
「俺の勝手だろ」
その手を払った。
「つーか、何しに来た」
「別に。お前が見えたから。こんなところで昼寝なんてしてると、熱中症で死んじまうよ」
「わざわざ忠告しに来たのか、お人好しだな」
「俺は紳士だからな」
「どこがだよ」
笑いながら顔を背けると、トラファルガーも笑いながらすぐ隣に腰を下ろした。
以降、会話らしい会話も続かず、ただ空と海との境界線を眺めていた。
時折吹く風は生ぬるく、磯の香りを絶えず運んでいた。
この島は太陽との距離が違い気がする。手を伸ばすとほら、今にも届きそうじゃないか。
「ユースタス屋?」
ぼんやりと宙に手を伸ばした俺を、トラファルガーは不思議そうに見る。
「今にも掴めそうだ」
ぼんやりと呟いた一言に、苦笑された。
「お前の手には余る代物だよ」
焼けた皮膚が痛い。
伸ばした手は、行き場をなくしてトラファルガーを緩く殴った。
「痛いよ」
「そんな強く殴ってねーよ」
行き場をなくした感情を吐き出すように、もう一度殴った。
「ドSだな」
「テメェはドMだろ?」
「違うね。俺もドSなの」
振りかざした腕を掴まれ、覆い被さるように俺を跨ぐ。
西日がその背を照らした。
「今からユースタス屋を苛め倒してやる」
「イイ趣味してんな」
「だろ?」
首筋に這わされた舌がくすぐったい。
「太陽に手を伸ばすくらいなら、俺にすがればいいのに」
耳元で囁かれたその言葉に、背中が粟立った。
「俺にだったら、お前の短い手も届いたのに」
背中に回した腕をもう一度だけ太陽に延ばし、そしてその背を緩く殴った。
「痛いよ」
そう言いながら、トラファルガーは笑う。
「やっぱりドMじゃねーか」
「ユースタス屋がそう言うならそうかもしれねーな」
背中にある太陽はもう沈みかかっていた。
END