空と海の標識は赤く
常春の島は数日間滞在しただけでも頭がおかしくなりそうなくらい、穏やかだった。どこまでも青い空と、境界線をなくした海。飛ぶ鳥の白が鮮やかなコントラストを作る。
そんな島の港で見知った船を見つけた。ユースタス屋の船だ。なるほど、やはり俺たちは赤い糸で繋がっているらしい。笑いが込み上げてしかたない。
偶然を装って接触を試みた。そうまでして一人の人間に固執するなど、今までの自分ならあり得なかったことだ。
自嘲気味に笑って、砂利道を蹴った。
どこまでも続く青い空が、たまらなく自分には不釣り合いに思えてまた笑ってしまった。
「よォ、ユースタス屋ァ」
対峙したユースタス屋はすこぶる嫌そうな顔をしている。
「なんでテメェがいやがる」
「そりゃこっちの台詞だ」
俺たちの方が大分前からこの島に滞在しているのだから。
「それより、いい島だろう?まぁ退屈すぎて頭がイカレちまいそうだが」
「テメェの頭は元々イカレてんだろ」
吐き捨てて通り過ぎようとするその腕を掴んだ。
「待てよ、ユースタス屋」
「あァ?」
極悪人面が俺を睨む。
「退屈なんだ」
「知るか」
「なぁ、付き合えよ」
「適当に女でも引っかけてろ」
「俺はユースタス屋がいい」
「ふざけんな」
「ふざけてない」
じとりと、掴んだ手が汗ばんでいく。
「なぁ、ユースタス屋」
どこまでも続く青にいい加減飽々していたんだ。
「俺はお前がいい」
もう一度呟くと、「イカレてる」と言いながらついに腕を振り払われてしまった。
「待てよ」
「ついてくんな」
「俺に命令するな」
砂利道を進む背を追いかけた。
「ユースタス屋」
「ついてくんなっつってんだろ」
「嫌だね」
どこまでも青い島だ。お前を見失うはずがなかった。
END