RAの終わり







熟れすぎて地上に落ちた果実を踏み潰した。途端に広がる甘ったるい匂いに顔をしかめた。
果物の楽園。この島はそう呼ばれている。暖かな気候が適しているのだろう。だがそんな楽園にも嵐は訪れる。
頬を撫でる風が、いつもと違っていた。
台風が近付いているのだ。
今年は嵐が多い。
島に潜入して二年が経つが、どの年に比べても今年は嵐が多い。島人たちは口々に海の神の怒りだと言う。
海の神は鉄を嫌う。もし海に鉄を落としてしまったら、命に代えてもそれを拾わなければならない。そうしないと神が怒ってなにを仕出かすかわからないからだと。
島人はそれを信じ、決して海に鉄を落としたりはしなかった。だが今年は誰かがうっかり落としてしまったのだろう。だから海の神が怒っているのだと信じている。
どの土地に行っても必ずそういう類いの迷信はある。
この島に伝わるそれもまるで信憑性のない伝説だ。外部から来た人間にとっては実に馬鹿馬鹿しく感じられる。
なにが神だ。
この世の中には神が多すぎる。

潮風に髪を揺らした。
すでに果実は遠くなっていた。







「今年は島の果物が全滅じゃと。嵐のせいじゃろうなぁ」

部屋に戻ると、聞いてもいないのにカクはべらべらと話し始めた。

「今年だけでもう10回も来とる」

知ったことか。
10回だろうと100回だろうと関係ない。任務に支障がなければ問題はないのだ。

「なぁ、知っとるか?海のカミサマは鉄が嫌いなんじゃと」
「迷信だろう」
「そうかの?わしは案外本当じゃないかと思っとる」

なぜと問う前に、カクは答えた。

「鉄は血の味がするじゃろ」
「……逆だろ」

鉄が血の味ではなく、血の味が鉄に似ているのだ。

「どっちでもえぇ。とにかく、鉄は血に似とる。じゃから嫌いなんじゃろうなぁ。人の血ほど、忌々しくて汚いものはないからのぅ」

こいつは理解しているのだろうか。俺たちにだってその忌々しく汚ならしい血液が流れていることを。

「カミサマ、怒っとるじゃろうなぁ。もうすぐ、本物の血が流れ込んでくるんじゃから」

じきに楽園は終わりを迎える。
構うことか。どうせ今年の収穫はゼロなのだ。



END
『RAの終わり』
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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