穏やかなる侵蝕
潮風に当てられた髪の毛はより明るくなってしまった。この島に来て、早二年。潮風は老いを早くする。
一方のルッチはというと、依然として黒い色は保っているもののその毛先は荒れていた。
「傷んどる」
呟いて、その一束を口に放った。
「やめろ」
ルッチは心底鬱陶しそうな顔をしている。
これ以上変なことをしたら機嫌を損ねることなど目に見えていたので、すぐにその一束を吐き出した。
「しょっぱい」
一日中潮風に当たっていたせいもあるが、ルッチ自身から発せられる汗のせいでもあるだろう。
涼しい顔をしていても、やはり身体の根本は人間なのだと再確認した。
「この島は潮風が強いから、傷むのが早いのう。鉄なんかすぐ錆びて使いモンにならんようなる」
船を作る上で必要なネジや釘、そしてあらゆる道具がこの島ではすぐに使い物にならなくなる。島の隅々まで潮が蔓延しているのだろう。
「なぁ、ルッチ。わしらのこの枷も、いつか錆びてくれるじゃろうか?」
四肢を捕らえる見えない鎖を振って見せた。
「すまん。やっぱりなんでもない」
なにも答えてはくれないルッチの傷んだ髪の毛を撫でた。
END