As
餌を与えている。
与えないと死んでしまうからだ。
なにもない空間に、餌を与えている。
それが習慣だからだ。
主のいないその水槽は、撒かれた餌で濁っている。
「…………」
無言で餌を撒くその後ろ姿を、ルッチは怪訝そうに見つめていた。
「狂ったか」
ぼそりと呟かれた一言に、カクは振り返って答えた。
「いつかまた現れる気がして、」
だから餌を撒くのだ。
「死んだら生き返らねーよ」
何度教えれば納得するのだろう。
「ルッチは生き返ったじゃろうが」
「俺は死んでない」
「死んだ。わしが知っとるルッチは、あの時確かに死んだ」
その目があまりにも真剣で、訳のわからない苛立ちが募る。
「でも生き返った。……好きじゃ、」
与えられる度に、細胞が一つずつ死んでいくような気がした。
「好きじゃ」
餌を与えている。
与えないと死ぬからだと言う。それが習慣だからだと言う。
その餌は毒の味がした。
END
As…ヒ素の元素記号。