どうせ僕らは、
放課後、もう誰もいないだろうと思っていた教室に、人影が揺れていた。
軋む扉を開けば、学年一の問題児が煙草に火をつけていた。
「……学校では吸うなって言ってんだろーが」
そう言う俺の口元にも、煙が立ち上ってはいるのだけれど。これとそれは別問題。大人と未成年。先生と生徒。立場が違う。
「うっせ。帰れよ、変態」
面倒そうに、ガキは言う。
「センセーに向かってなちゅー口の聞き方してんだ。襲うぞ」
間近で顔を覗き込むと、心底嫌そうな顔をされた。
その顔、いいね。
「ユースタス屋、お前さぁ、」
少しばかり説教でもしてやろうと思って口を開いたのだが、その瞬間タイミングよくケータイが鳴った。俺のじゃない。
「……チッ、音切っとけよ、」
肩透かしを食らった俺は、居心地悪く煙を吐いた。
当のユースタス屋はククッと喉を鳴らしながら笑うと、ケータイを開いてメールをチェックしている。
「あー、もう、ホントめんどくせーな」
開いた窓にもたれながらそう溢すと、「じゃぁ教師辞めろ」と一蹴された。
「言うねぇ…」
もう苦笑しか出来ない。
見上げた空には、飛行機雲が線を引いている。
「ユースタス屋、お前さぁ、」
その雲を見上げたまま、俺は尋ねる。
「生きてて、楽しい?」
その質問に、ユースタス屋はまた喉を鳴らして笑う。
「教師がする質問じゃねーな」
そんなのわかってらァ。
「楽しいの?楽しくないの?」
「さァなぁ…、」
どっち付かずな返答をするユースタス屋の声は、少し楽しそうだった。
「どっちだよ」
「どっちだって構わねーよ。どうせ生きてんだから」
「……ちげーねー、」
見上げた空は、俺には到底理解出来ないくらい、青かった。
END