同じネジ
「人間って壊れたら治らんのかの?」
透き通った水槽を曇った瞳で見つめながら、カクが言った。
水槽では魚が一匹だけ、悠々と泳いでいる。
「……壊れる?」
「うん」
「なんの話だ?」
「人間の話」
漠然とした答えに、目眩がした。
「怪我でもしたのか?」
「ううん」
そうじゃないと呟いて、カクは水槽に映った俺を見つめた。
「もしルッチが壊れたら、わしの部品をあげる」
「部品?」
「内臓全部あげてもいいよ」
「だからなんの話だ?」
「人間の話じゃろ?」
「そうじゃなくて、」
「じゃぁ、息の根が止まった瞬間の話かの」
伸ばした手は魚を掴む。
鈍い音がした。
「いつかルッチの息の根が止まったら、わしの中身をあげる」
「……いらねーし、」
どんどんと水槽が濁っていく。
「おい、カク、」
濡れた手から、生臭いそれを奪った。
壊れたら、治んねーんだよ。
そう言い聞かすのに、手間がかかりそうだ。
END