指先の鼓動に従え。
魚の眼
煙草の香りの染み付いたワンルームに響く、水槽のポンプ。
静かに静かに、ただ漂うアロワナ。
「なにがしてぇの?」
俺を押し倒した男の喉元に指を回した。
なにがしてぇって?そりゃこっちの台詞だ。
「テメェこそなにがしてぇんだ?」
「俺はただお前を抱きたい」
目眩がした。
「気持ちワリィこと言ってんじゃねーよ。退け」
喉元の指先に力を込めれば、男は笑って「それ以上やるとマジで死ぬ」と言った。死にかけのくせに笑ってんじゃねーよ。
「死ね…っ!」
思い切り蹴飛ばしてもやっぱり男は笑う。
あぁこいつはどうしようもない変態なんだ。
「ハハッ!いいぜ、ユースタス屋ァ!」
黙れ変態。なにがいいものか。
「いずれお前は俺に惚れるぞ」
黙れ変態。なにを根拠に。
「俺はお前の指先を信じてるからな」
黙れ変態。
黙れ変態。
黙れ変態。
煙草の香りの染み付いたワンルーム。
青く濁る水槽。
静寂を切り裂くポンプ。
二人の行く末に苦笑する、アロワナ。
END