第一章1


Homesick Street

2015/05/23

第一話



シャルロット・シィーラ。それが緑の髪と目を持つ色白の少女の名前。母親アリサの緑眼、父親グローラの緑髪を引き継いだ彼女の容姿は素晴らしく美しかった。勿論父親の緑髪は地毛では無く、魔法で変えたもので元は金髪だ。しかし魔法で根元の色素遺伝から変えてしまったので、そのままの異変色素を持ったまま彼女は生まれた。父親は酷く喜んだらしいが。
彼女が特別であるのはそれだけではない。シャルロットの両親は純血で、ホグワーツで名の知らぬ者はいない程の魔法使いだった。更に言えば2人ともスリザリン生である。まだ入学前のシャルロットは、もはやスリザリンも同然だ。両親からもそう言われたシャルロットはいい加減に嫌気が差していたが、そんな彼女にも人生の転機が訪れる。

11歳の誕生日から1週間ほど過ぎた日、シャルロットは両親に動物園に連れて行かれた。特に興味のある訳では無いが、自分の事にほぼ無関心な両親が自分の為に連れて来てくれた事が少なからず彼女は嬉しかった。しかしそんな事はお構いなしに、両親は座っているから見て来なさいと言った。その言葉を聞いたシャルロットは愕然としたが顔には出さず、寧ろ微笑みながら頷いた。
傷ついた心を隠すように早足で歩き、自分の感情を無視して歩き出した。どれだけ可愛い小動物を見ても、どれだけ大きく恐ろしい動物を見ても、彼女は何も思わない。歩き回るだけで、いい加減疲れたとシャルロットが足を止めた時、後ろから声が掛かる。最初の声で分かってしまったシャルロットは顔を顰め、拳を握った。この声はいつも自分を虐める奴らの声だ。

「おいっ!あれ、シィーラじゃねぇか!」
「あ…、」
「おいおい、魔女のシィーラがこんな場所で何してんだよ!」
「あーあ、お前まだこんな髪してんだな!気持ちわりぃ!」
「ぎゃはは!!」
「…っ、」
「…おい、何か言えよ!」
「っ!!」

押されて尻餅を着き、そのまま蹴られて殴られて暴言を浴びせられ、髪の毛を引っ張られてシャルロットはいつもより酷い虐めを受けた。叫び声を上げる訳でも無く、ただ頭を抱えてじっとしているシャルロットに詰まらなくなったのか虐めっこが声を荒げた。
足を振り上げられて、彼女は咄嗟に目を閉じた。しかし何時まで経っても足は振り下ろされず、代わりに虐めっ子の叫び声が聞こえて来た。何事だと目を開けば、潰れたり膨らんだりした空き缶が虐めっ子に浴びせられていた。沢山投げつけられているのにも拘らず、シャルロットには一つも当たっていなかった。その事を不自然に思ったのか、虐めっ子の一人が空き缶が当たったのであろう頬を押えながらシャルロットに向かって叫んだ。

「おい!お前何したんだよ!」
「私は何もしてないッ!」
「!?…く、くそ、覚えてろよ!」

いつもは喋る事も、ましてや叫ぶ事などしないシャルロットの否定の言葉に虐めっ子の一人は目を見開いた。一瞬後には三流映画に出て来そうなセリフを吐いて、空き缶の嵐の中を去って行った。
去って行く虐めっ子の背中を見つめながら、シャルロットは座り込んだまま溜息を吐いた。一体何だったのだろうか。若干混乱したままの頭で立ち上がろうと足に力を入れたシャルロットに、差し延ばされる手があった。その手に驚いて顔を上げると、そこにいたのは優しそうな顔をした眼鏡の少年だった。誰だろうかと思いながらもお礼を呟き、そっと控えめに手を取って立ち上がった。服に付いた汚れを払い落としていると、少年が控えめにシャルロットに声を掛けた。容姿はどこか貧相なのに、少年の目に見える力強さにシャルロットは気が付いた。

「あの、大丈夫だった?」
「…もしかして、さっきの空き缶って」
「うん、僕だよ。ごめん、迷惑だった?」
「迷惑だなんて…あの、ありがとう、助かった」
「ううん。…僕もよく虐められるから、まあ、理由は分かってるけどね。キミはどうして?」
「えっと…私は、その、」
「あ、ごめん…聞いちゃいけなかったよね」
「そんな事…、」

ない、とは言えなかった。今こそ彼は助けてくれたが、次には気味悪がるかもしれない。シャルロットは言い淀んだ。言ってしまっても、いいのだろうかと。落とした目線を上げて、少年の目を見たシャルロットは、小さく溜息を吐いた。諦めでは無く、安心したのだ。この少年には、今まで見て来た妙な目線と思考を感じなかったのだ。
シャルロットは一度深呼吸をして、しっかりと目を見て言った。彼女にとっては初めてのまともなコミュニケーションだ。

「私の、」
「え?」
「私の髪の毛と目だと思う」
「髪と、目…?」
「私のこの色、父親からの異変遺伝で…珍しいでしょう?これでも地毛なの」
「そうだったの!?」
「うん、貴方も気持ち悪いって思う?」
「まさか!寧ろ地毛って聞いて凄く感動してる」
「…感動?」
「だってこの色でこんなに綺麗な髪だなんて、中々いないよ!そっか、天然だから綺麗なんだよね…本当に、凄いや」

束ねていない透き通るような髪を手に取り、目を細めて少年は微笑んだ。その表情に、シャルロットは彼が本当に感動している事が分かり、何だかその場に立っている事がむず痒くなった。触れられていない方の髪を手に取り、シャルロットは考えた。天然だから珍しく、綺麗なのかと。そんな事を考えた事も無いどころか、父親を恨んでもいたのに、少年の言葉でシャルロットの自分の見方が180度変わり始めていた。
そんなシャルロットを知ってか知らずか、少年はふと目を見て言った。「目は僕と同じだね、お揃いだ」そう言って、優しく微笑んだ。
驚いて思考が止まっていたシャルロットは言葉の意味を理解して、目を大きく見開いた。その反応と目を見て、少年は小さく「あ、綺麗」と口の中で呟いた。

「そんな事、言われたの…初めて」
「そうなの?でも本心だ」
「あ、の、…ありがとう、」
「っう、うん、…あ、僕もう行かなくちゃ!またね!」
「あっ…また、ね…」

会ってから初めて見せたシャルロットの笑顔に、少しだけ心臓を跳ねさせた少年は誤魔化すように声を上げた。何故か慌てて走り去っていく少年の行き先から「何をやっているんだい!!ハリーッ!」と、甲高いおばさんの叫び声が聞こえた。恐らく彼の母親だろうと何となしに思い、シャルロットも帰ろうと足を逆に向けた。
しかし、シャルロットには何か引っかかる事があった。気にしている訳では無いのに、頭に反響する「ハリー」と言う名。

「……、…ハリー?」

何度か呟いて、どこかで聞いた事があると感じる名前に、違和感を覚えた。一体どこで聞いたのだろうか、彼とは初対面のはずなのに。と、歩きながら呟いて、座っている両親を目にとらえた瞬間、シャルロットの口からその名前は自然と零れ落ちた。後ろを振り向いても、あの場からかなり離れた場所では当然彼は見えない。

「ハリー、…ポッター?」

小さく呟いた言葉は、誰にも拾われる事も無く消えてしまった。見開いた目も、渇いた喉も、全てを肯定するように震えていた。


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