序章


Homesick Street

2015/05/23

序章



スリザリンに所属する、最も疎まれている存在であるドラコ・マルフォイ。彼は最近、似合わない悩み事を抱え込んでいた。まさに悪に育てられた彼からは想像も出来ない様な、ある意味では年相応と言える悩み事。
それは所謂、恋愛であった。純血の彼には将来それなりの純血かもしくは半純血の魔女が生涯の相手として用意されるだろう。しかし、マルフォイ家であっても恋愛は(相手が純血に限り)自由である。それを知っているドラコは、自分の想いを寄せる相手がグリフィンドールであっても、純血で素晴らしい才能の持ち主で良かったと心底思った。相手の意見はお構い無し。
ドラコにはいつも絶対の自信があった。自分の申し出を断る事の出来る相手など、居る訳が無いと。しかし、彼は一目彼女を見た時から気が付いていた。彼女は金でも、父親でも、家系の名でも揺らぐ事は無いと。何せ彼女はハリー・ポッターと仲が良いのだ。グリフィンドールの生徒で正義感も強く、逆に自分など嫌われている対象だ。
ドラコが考え事をしながら授業が行われる教室へ向かえば、曲がり角から出て来るその想い人と、ハリー・ポッター、ロン・ウィーズリー、ハーマイオニー・グレンジャー。その姿を認めて近づきながら、ドラコは更に考える。マグルのグレンジャー等と絡む意味が全く分からず、首を傾げるばかりだ。

「やあ、ポッター。今日も呑気にお仲間とお喋りか?」
「何だよ、キミには関係無いだろ」
「……はぁ、」
「何だいシャルロット?何か言いたそうな顔だな」
「別に、…何も無い」

ドラコとハリーが言い合いを始めた途端に溜息を吐いた彼女――シャルロット・シィーラは、自分に声が欠けられると一層声を低くし、敵意現れる瞳でドラコの顔を睨んだ。その顔に満足したのか、ドラコは一瞬ニヤリと笑うと「じゃあな、ポッター。精々楽しめよ」嫌味を全開にしてその場を後にした。楽しそうに笑いながら、ドラコはずっとそのままで居てくれとシャルロットに願った。間違っても、金持ちのマルフォイ家に媚びるような事をして、失望してくれるなと。そんな事は無に等しいが、それだけが今の彼には気掛かりだった。教室に入り、彼女の視線から完全に消えても、背中に残る視線の感覚だけは消えてくれなかった。

シャルロットはドラコが教室に入るまでその背をじっと睨み続け、姿が見えなくなるとやっと肩の力を抜いた。たった数秒のことが、妙にゆっくりと流れていたような気がする。そんなシャルロットに、ハーマイオニーは小さく、ハリーやロンに聞こえない程度の声で話しかける。

「ねぇ、シャルロット」
「どうかした?ハーマイオニー」
「最近、貴方よくマルフォイに話し掛けられてない?」
「そう?と言うか、よく分かるね…数えてたの?」
「いつも一緒にいるんだから分かるわよ」
「ハーマイオニーがそう言うならそうだろうけど、気が付かなかった」
「全く、シャルロットはいつもそうよね。無防備なのよ」
「大丈夫、むしろ危ないのはハーマイオニーだと思うけど」

心配そうに諭すハーマイオニーに大丈夫だと手を振りながら、シャルロットは自分の心配を相手に投げかけた。興味の無い事には無頓着なのがシャルロットの良い所でもあり、悪い所でもある。こうしてマルフォイの話をすぐに横に投げる辺り、彼の事に興味が無い証拠だが、ハーマイオニー以外は気が付かない。
そうは言ってもシャルロットも何も考えずにハーマイオニーが危ないと言っている訳では無い。自分より危ないと思っているのは事実で、頭もスタイルも完璧で可愛く強い。そんなハーマイオニーは誰もが憧れると信じている。
本心からそう言っていると分かっているハーマイオニーは溜息を吐き、そして微笑みながら呆れた様に言った。

「本当、無頓着よね…」
「私が?」
「貴女以外に誰が居るのよ、もっと周りに興味を持ちなさい」
「周り…」

言われた通りにシャルロットは周りを見渡すが、特に周りに特別な人はいない。グリフィンドールの生徒と、忌まわしきスリザリン生がいるだけだ。何に興味を持てが良いのか分からないシャルロットは、視線をハーマイオニーに戻して肩を竦めた。

「何も分からないけど…」
「そういう事じゃないんだけど…まあ、いいわ」
「でも私、グリフィンドールの皆の事は好きよ?」
「ええ、知ってるわよ。スリザリンを毛嫌いしてる事もね」
「…ここは、ホグワーツは、私の家なの。だから好きよ」
「シャルロット、」
「ここは本当に、良い所だから…」

小さく、声に出したのかも不確かな声で「だから、もう壊したくない」そう最後に小さく呟いた言葉を、誰に誓う訳でも無くシャルロットは心に留めた。蔑まれたあの日に戻る事は無いが、二度と経験したくない思いでだから。そう考えて、一度深呼吸をした。
一瞬足を止めたシャルロットを不思議そうに見るハーマイオニーに微笑んで、シャルロットはもう一度歩き出した。

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