夏休みが近づくいつも通りの日常。朝のHRで教壇に立った相澤先生が、先日のショッピングモールに死柄木が現れた件をその場に居なかった生徒たちにも分かるようにざっくりと説明し、朝から少し不穏な空気が流れる。


「………とまあ そんなことがあって、敵(ヴィラン)の動きを警戒し例年使わせて頂いてる合宿先を急遽キャンセル。行き先は当日まで明かさない運びとなった」

えーーー!!


先日まで予定されていた合宿先や行動プランが書かれていたのであろう紙をなんの抵抗もなくビリビリとみんなの目の前で破いて見せる相澤先生にクラス中に驚きの声が響く。


「もう親に言っちゃってるよ」

「故にですわね……話が誰にどう伝わっているのか学校が把握出来ませんもの」

「合宿自体をキャンセルしねえの英断すぎんだろ!」


瀬呂くんの呟きに八百万ちゃんが応える。確かにその通りだ。生徒自身は家族だけに伝えたつもりが家族の誰かから職場や学校など様々な世間に知れ渡ってしまう可能性は計り知れない。人の口に戸は立てられないというやつだ。そもそも例年と同じ場所であるならば雄英生でなくとも特定は容易いだろう。
それでも峰田くんの言う通り合宿を中止せずに行う雄英もそれなりに危険を覚悟しているということだし、それほどにこの合宿で自分たちに力をつけて貰わなければならないのだろう。仕方ない決断と言えばそうだし、現時点で雄英の意志と敵の行動を考えた上ではきっと得策だ。


「てめェ 骨折してでも殺しとけよ」


相澤先生の突然の予定変更にザワつく教室内で傍の席に座っていた勝己から小さな声が飛んでくる。振り返る素振りもなく吐き出されたその言葉は、明らかに出久に向けられているであろう事が分かる。飛んできたその鋭利な言葉に当の本人である出久は思わず息を飲んだ。


「ちょっと爆豪 緑谷がどんな状況だったか聞いてなかった!?そもそも公共の場で"個性"は原則禁止だし」

「知るか。とりあえず骨が折れろ」

「こら」


言い返せない出久の代わりに傍の席に居た葉隠ちゃんが少し身を乗り出すようにして勝己に反論する。そんな言葉すら受け付けないとばかりに続けて吐き捨てた勝己に思わず止めなさいとばかりに短く渇を入れるとチラリと私の方を振り返って「ケッ」と零し、再び前に向き直って大人しくなった。
きっと勝己があの場に居たならどうにかして死柄木を捕まえようと…いや、殺すつもりで飛び込んでいっただろう。でも、何だかんだ言っても彼も分かっているのだ。出久が置かれていた状況も、彼が下した判断も対応もベストだったことも。小さく「かっちゃん……」と零す出久の顔がいつになく暗く見えて、出久は正しい判断をしたんだよと微笑めば、少し出久の表情が和らいだ気がした。


―…こうして、あまりに濃密だった前期は幕を閉じた。



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