実技を終え、リカバリーガールに軽く治療されてから教室に戻される。見事に惨敗に終わった結果に少し肩を落としながらも落ち込む切島くんと砂藤くんと共にどうにか教室に辿り着くと殆どのクラスメイトが帰った後だった。というのも本日は試験が終わった生徒から随時帰宅することになっていて、タイムリミットまでかかっていた自分たちのチームや同じく未だ教室に戻ってきていない生徒以外…つまり無事に終わった生徒たちは既に帰っていたのだ。
空っぽの机と無くなったバックを横目に自分たちもさっさと帰り支度を始める。こういう日はさっさと帰って家で休むに限る。疲れ切った体をあともうひと踏ん張りと小さく気合を入れながらバックに物を詰め肩にかけ、スマホを開く。ピタリと動きを止める私。


「あーだりィ…」

「おーい、眞壁ー。帰ろーぜー」

「…ごめん2人とも」


スマホから顔を上げ、前の席を見る。中身が入ったままのカバンが置いてある。教室に帰ってきたらそのまますぐに帰れるように既に用意していたのだろう。そんな彼がまだ戻ってきていない。その理由が、私のスマホにLINEで通知されている。


「先に帰ってて」


私、ちょっと寄るとこあるから。と小さく微笑むと切島くんも砂藤くんもやはり今回の事がかなり効いているのかこれといって深く聞いてくることなく「そっか」「んじゃまた明日な」と力なく返事をして教室を後にする。誰も居なくなった教室で、徐に前の席のカバンを手に取る。重い。何だかんだ勉強家で真面目なとこもある彼のカバンを自分のカバンと一緒に持って教室を出る。LINEを返しながら。



* * *



コンコンと小さくノックする。返事はない。カラカラとゆっくりとバリアフリーなその大きな引き戸を開ける。失礼しまーすと声を掛けてみたが返事はない。部屋の主であるリカバリーガールも出張所からまだ帰ってきていないらしいその静かな保健室にそっと足を踏み入れる。いつぞやの放課後みたいだ。
微かに開いた窓から心地よい風が入ってくる。保健室の奥に置かれたベッドを覆うカーテンの裾が揺れ、ベッドの足元に見覚えのある靴が置かれているのが視界に入って足を音を立てないように静かに近づく。そーっとカーテンの端を持って中を覗く。


「わっ!!!」


目が合った。ギロリとこちらを睨み付けるように鋭い赤い目と。思わず声を上げて一歩退いた私だが、どうにか思いとどまって再びカーテンの中に飛び込む。


「起きてたなら言ってよ!」

「ああん?!知るかボケ!ってかなんてテメエがいんだクソが!!」


実技の怪我が酷くて保健室で寝ていると通知が来ていたからてっきりまだ寝ていると思っていた分、目が合った瞬間死ぬかと思った。ビックリしたー…と胸を撫で下ろす私とは正反対にボケだのクソだの相変わらず暴言を吐き出す彼。
あからさまに不機嫌さを隠そうとしない彼にこちらも少しむすっとしながら持ってきた彼のカバンを見せつけながらベッドの上に置く。此処までしても起き上がらないところを見ると未だ回復しきれていないのだろう。まぁ、相手があのオールマイトだったし。彼の居場所についてLINEをくれた張本人もどうにかリカバリーガールの治療で家に帰れるほどまで回復したと言っていたし。


「また派手にやったねー」

「…っるせえ」

「ま、私も人の事言えないけどさー」

「……テメエ、合格したのかよ」

「残念ながら惨敗」

「ハッ、ざまぁねぇな」

「ホントにね」


苦笑する私に対し、ベッドに寝転がったまま鼻で笑う彼。本当、身体以外はもう十分回復してるんだなぁとか思ってしまうほどに彼は普通だった。ってことは切島も赤点かよとかなんとか呟いていて嗚呼、ちょっと気にしてるんだと思った。


「…でもよかった。合格できたってことは出久と何とか協力でき―…」

「ッ!!黙れや!!!」


バサリと切り捨てられた言葉。彼にとっては地雷だと分かっていても、私の中では嬉しい出来事で声に出さずにはいられなかった。事実、彼とチームを組んだ出久は無事に合格して私たちよりも先に帰っている。2人の相手はオールマイト。2人共強いと事は否定しないが、どちらか1人で平和の象徴と戦うなんて…仮に合格の範囲内にある逃げるという選択肢を選んだとしても出来るはずがない。言う事は2人であのオールマイトに立ち向かったということだ。


「それ以上デクっつったらぶっ殺すぞ」


体が動かせないくせに、その目は私を射殺そうとするぐらい鋭かった。さっきカーテンを覗いた時なんかと比べ物にならない。彼にとってみればあれだけ自分よりも劣っていた、自分よりも弱かった出久と協力した事実が気に入らないのだろう。長年積み重なってきたプライドが受け付けないのだろう。それでも、私は嬉しかった。たったひと時だけでも2人が一緒に居たことが。一緒に共通の敵に立ち向かった事が。


「OKOK。もう言わない。だからそんなカッカしないの」


これ以上言ったら本当に殴られそうだ。目を伏せ、まぁまぁと彼を宥める。とりあえず無事で何よりだ。満身創痍とはいえこれだけ元気があれば何の心配もないだろう。


「…ありがと」

「何がだ」

「ん?言うと怒るから言わない」

「テメッ!!!」

「カバン持ってきてあげたんだから文句言わない」


ニシシ、と笑みを零しながらヒラヒラと手を振る。さっさと回復して暗くならないうちに帰りなよと捨て台詞を吐きながらカーテンを払う。余計なお世話だなんだと騒ぎ始める彼の言葉を遮るようにシャーっとカーテンを引いて彼の姿を隠す。日も傾き、辺りがオレンジ色に染まり始めている。さて、家に帰って反省でもしながらさっさと休みますかね。と保健室を後にした。



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -