「ってな感じでやってきました!」


電車とバスを乗り継いで無事に皆と合流し、辿り着いたそこは見回す限り人・人・人。服や靴を始め食べ物や日用雑貨からアウトドア用品のお店などあらゆる種類の店が立ち並び、家族連れや学生、子供から大人なまで色々な年代の人たちでごった返している。


「県内最多店舗数を誇るナウでヤングな最先端!」

「木椰区ショッピングモール!」


昨日の約束通り、合宿に必要なものを揃える為に皆とやってきたのは大型ショッピングモール。必要なものを探して地元のお店をあちこち回るよりもこのショッピングモールなら一度に揃えられるだろうし種類も豊富だ。そして何より皆と買いに来た事で色々と相談できるし買い忘れもなくなるだろう。
ショッピングモール内を「腕が6本のあなたにも!ふくらはぎ激ゴツのあなたにも!きっと見つかるオンリーワン!」なんていうアナウンスが流れてその内容にぴったりと当てはまる障子くんと飯田くんが僅かに反応する。


「"個性"の差による多様な形態を数でカバーするだけじゃないんだよね。ティーンからシニアまで幅広い世代にフィットするデザインが集まっているからこの集客力―…」

「幼子が怖がるぞ。よせ」


ブツブツと出久の悪い癖である分析・解析の呪文を傍らに居た常闇くんが制する。彼の言う通り、小さい子が見たらまず第一に恐怖するタイプだ。テンションが上がっているのは分かるが、いつも上がり方が変なんだよなぁとか思いつつそんな出久と常闇くんのやり取りを見つめながらゾロゾロと皆で歩いていると不意に後方から飛んでくる声。


「お!アレ雄英生じゃん!?1年!?体育祭ウェーイ!!」

「うおお まだ覚えてる人いるんだぁ…!」

「あ〜ビックリした〜」


この大人数がゾロゾロと歩いていれば幾ら大型ショッピングモールといえど、流石に目立つようでこちらに気づいた若者グループが声を掛けてきたのだ。驚くお茶子ちゃんの横で思わず私も驚いて胸元を押さえてしまった。


「とりあえず ウチ、大きめのキャリーバック買わなきゃ」

「あら、では一緒に回りましょうか」


ある程度ショッピングモール内に入った所で耳郎ちゃんがジェスチャー付きで欲しいものを提示すると八百万ちゃんがニコやかに微笑む。バックはとりあえず旅行用兼引っ越し用でお父さんのお下がりが家にあるし大丈夫。私が欲しいのは―…


「俺アウトドア系の靴ねぇから買いてぇんだけど」

「そうそう!私も靴見たい!」


上鳴くんが発した単語に思わず食いつくように手を上げて主張すると、傍にいた葉隠ちゃんも「あー私も私もーー!」と見えない腕を上げて小さく飛び跳ねている。
そう、私が今日此処に来た一番目の理由は靴が欲しかったのだ。実際学校に通うための通学用の靴と既にボロボロになりかけている運動靴とちょっとしたお出かけとかに合わせる余所行きの靴ぐらいしか持っていなくて流石に今回は新しいものを買おうと決めた。別に合宿の後でも使えるものを選べばしばらくは学校生活用の靴も買い替えなくて済むし。


「靴は履き慣れたものとしおりに書いて……」

「ピッキング用品と小型ドリルってどこ売ってんだ?」

「あ、いや…しかし、なる程。用途に合ったものを選ぶべきなのか…?!」


靴を買いたいというグループに対し意見を述べる真面目な飯田くんだが、すぐに考え直し更なる真面目さを匂わせる発言を呟いている。そんな中サラリと呟く峰田の発言は最早誰にも相手にされずに空気に溶けていく。


「目的バラけてっし、時間決めて自由行動すっか!」


あちこちで各々が必要としているものを求めて声を上げているのを見た切島くんが提案すると皆一同に「賛成!!」と時間と場所を決めてそそくさと同じ目的の人たちでまとまるとそれぞれ店に向かって散っていった。
私は上鳴くんを始め、葉隠ちゃんと芦戸ちゃんと切島くんと飯田くんと一緒に靴のお店に入った。色んな種類の靴が並ぶ棚をぐるりと眺める。可愛いものからカッコいいもの、スポーツ用や変わったデザイン重視のものまで様々だ。葉隠ちゃんと芦戸ちゃんがこれ可愛い〜!とか燥いでる横で、真剣な顔で靴を見ている飯田くんとその靴に対して意見を述べている上鳴くん。
お洒落な靴も魅力的だが、今回はあくまで合宿用だと動きやすそうな靴が並ぶコーナーに移動する。動きやすそうな1つの靴を手に取って持ってみる。嗚呼、軽いし楽そう。デザインも悪くない。見本を棚に置いて、在庫を探す。自分の足のサイズのモノを見つけて近くの小さな椅子に腰かけ、箱の中の靴を履いてみる。うん、いい感じに足にフィットしているし動きやすい。滑り止めも付いてるし運動に向いているだろう。


「お、動きやすそうだな。それ」

「そーそー。どうせ合宿で動き回るだろうし、合宿の後も使えるかと思って良いかなって」


片足に履いた良さそうな靴を眺めていると、隣に座って自分に足に合いそうな靴を見つけて幾つか履きこごちを試していた切島くんが声を掛けてくる。自分の運動しやすそうな靴と比べてガッシリしていて、男らしいカッコいい靴ばかりだ。


「へぇ…眞壁って足ちっせぇのな」

「え、平均だと思うけど…って切島くん足デカッ!!」

「いやいや、皆こんなもんだろ?」


これにしようかなぁともう片方の靴を箱から取り出し履いてみると、切島くんが私の靴のサイズを見て呟くように言うものだから逆に切島くんの靴のサイズを見て驚いた。隣に置かれた切島くんの足と私自身の足。一回りぐらい…いや、下手するともうちょっと大きいかもしれない。男子って皆これぐらい足が大きいのだろうか…。
なんて思いつつ切島くんの足のサイズに驚いていると不意にその場に居た皆のケータイから通知を知らせる音が鳴る。ほぼ同時に鳴ったと言う事は、1−AのLINEの通知だろう。皆それぞれケータイを取り出し、通知を見た。


「お。麗日からじゃん」

「…え、」


瞬間。その場の空気が一気に変わる。お茶子ちゃんから発信されたそのコメントに、誰もが固まり言葉を失う。鼓動が早い。僅かに手が震え始める。


『デクくんが敵(ヴィラン)に遭遇した!』


とにかくみんな集まろうと続くLINEグループ内の会話に、別の店に行ったグループの皆も安否の確認と了承の返事を返しているのが通知の音と共に増えていく。


「嘘…なんで…どうして…」

「ヴィランって…」

「おいおいマジかよ」

「こんなトコにまで…」

「と、とにかく一旦集まろう!」


半ば放心状態になりかけているメンバーに飯田くんが落ち着いて行動しようと呼びかける。1人だったら確実にパニックになっていただろうが、幸い皆が居る。お互いに顔を見合わせ、頷き合う。悪いとは思いながら試着していた靴たちを店員さんに任せて店を出る。兎に角待ち合わせ場所にしたあの解散場所に向かって駆け足で足を動かした。


「!」


刹那、息が止まるほどの衝撃が走る。前を進んでいく皆の背中を見つめていたはずの視界に突如飛び込んできたそれに、思わず足を止めてしまった。その横をみんな目的地に向かって足を止めずにすれ違っていく。雄英の皆も周りにいる一般人も、誰も、気づいていない。私だけ。今、この場に居る私だけがその異様な存在に気付いている。


「(死柄木 弔…!!!)」


深くフードを被り、両手をズボンのポケットに突っこんだままショッピングモールの出口に向かって歩いて行くその存在。自分のすぐ真横を通り過ぎた相手がこちらに気づいているのかは分からない。でも、コイツが出久と接触したのは事実だろう。今ならまだ間に合う。今なら私が止められ―…


「此処で俺を止めるつもりか?」

「ッ…?!」


相手が通り過ぎてから間を開けず思いきり振り返った瞬間、飛んできたその声に血の気がサアッと引いて行く。振り返った視線の先で相手も足を止め、こちらを振り返っていたのだ。
少しだけ距離を保ったまま深くかぶったフードの奥、鈍い銀色の髪の隙間から覗くその紅い目が私を真っ直ぐに射抜いていた。以前に遭遇した時のように顔や体のあちこちにあの掌は付いていないし、素顔を見るのは初めてだが私に対する反応的に死柄木と見て間違いないだろう。


「緑谷出久同様、その勇敢さにはいつも感激するよ…だが、頭の良いお前の事だ。此処で俺を捕まえようとすれば…分かるよな?」


ゴクリ。と唾を飲み込む。夏の熱さから来るものとは別の嫌な汗が噴き出す。此処は学校でもなければヒーローがすぐに登場する場所でもない。一般市民で溢れかえるごく普通のショッピングモール。
この状況ではまだ左程遠くまで行っていない皆を呼び止めることは容易だ。しかし私が声を上げた瞬間、目の前のこの男は周りの一般市民を容赦なく襲うだろう。彼の個性は未だ不明点が多いがあの襲撃事件の時、相澤先生の腕をボロボロにした個性。下手をすれば命に係わる…非常に危険な個性だ。
幾ら私が法的に許可なく個性を使う事は禁止されているが、罰を受ける覚悟でこの男を捕らえようと自身の個性であるバリアを駆使して彼を捕縛したとしてもプロヒーローや警察が来るまで押さえつけて置けるかと問われれば確実とは言い切れない。
だが、一般市民を巻き込むような危険を冒して相手を捕まえようとするか、大人しくこの男(ヴィラン)を見逃すか…。そんなの相手にこちらの存在が気づかれている時点で選択肢は1択しかないのだ。

脳裏に嫌な記憶が過ぎる。嗚呼、あの時もこんな大型のショッピングモールだったか。パニックに陥り逃げ惑う人々に飛び交う悲鳴。あちこちで紅い色が飛び、助けを求める声でいっぱいになっていた。そんな中で、とても勇敢な母さんは、私の、目の前で―…。


「二度とあんな目には遭いたくないだろう?眞壁 帷」


静かに紡がれたその言葉にハッとする。フードの奥でカサついた唇でニタリと笑う彼としっかりと目が合った。ドクリ、ドクリと高鳴っていた心臓が更に変な脈を打つ。…知っている。こいつは、私の過去を知っている…!!
今、どんな顔をしているだろう。きっと酷い顔をしているに違いない。忌まわしいあの過去を知られているという事実に恐怖を覚える。微かに震えだす体を無理やり押さえつけながら死柄木を睨み付けると、「おーい!眞壁ー!!」「どしたー?!行くぞー?!」と私がついてこない事に気づいた皆の声がする。
このままでは皆がこちらの違和感に気づいて駆けつけてしまう。そうすれば嫌でも死柄木と接触することになる。そうすれば彼も脅した通り一般人を狙って動き出すだろう。ヒーローや警察が駆けつけてくれたとしても、その駆けつけるまでの間にどれだけの被害が出てしまうか…想像しただけで恐ろしい。何も手出しできないことへの悔しさと、競り上がってくる恐怖に押しつぶされそうになりながらも足が後ずさりを始める。


「じゃぁな。勇敢な雄英高校の生徒さん」


踵を返しショッピングモールの出口に向かう死柄木の少し曲がった背中をキッと最後の抵抗とばかりに睨み付けてから、皆が待っている方へと一気に駆け出す。クソ、クソ、クソ。何も出来ない自分への苛立ちに脳裏で悪態を吐きながらも「ゴメン、何でもない」と何食わぬ顔で合流するとそのまま出久とお茶子ちゃんが待っているであろう集合場所に向かって皆と一緒に駆け出した。



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