―期末テスト。最終的なテスト勉強の追い込みも終わりを告げ、まずは怒涛の座学試験。

復習も兼ねて勉強しながらヤマを張っていたが皆はどうだろうか。勝己は大丈夫だとして、切島くんは私の教え方で本当に理解してくれたのだろうか。八百万ちゃん宅に勉強会に行ったチームも各自で自分なりに勉強した子たちも皆、どうなんだろうか。いや、今は兎に角自分自身の事に集中しなければ。幸い復習しておいた所が多いし、応用の問題も何とか対応できているように感じる。最悪、赤点だけは回避しなければ。皆で合宿に行くんだ。皆で互いに己を高め合うんだと必死に問題用紙と対峙し続けた。


―そして座学の試験が終わり、演習試験当日。


私たち1-A組が集められたのは校内の各施設に移動するために利用するバスのバスターミナルだった。ここから試験会場に向かうのかとみんなヒーローコスチュームに着替え、その時を今か今かと待ち望んでいる。が、少なくともクラス内の数人は気付いただろう。異様に教師たちの数が多いことに。


「それじゃあ演習試験を始めていく。この試験でももちろん赤点はある。林間合宿に行きたけりゃみっともねぇヘマはするなよ」


進行をしている相澤先生が居るのは分かる。だがそれ以外にオールマイトを始め、セメントス先生やエクトプラズム先生。13号先生にプレゼント・マイク先生、ミッドナイト先生に…とにかく勢揃いだ。…可笑しい。聞いていた演習内容にしては可笑し過ぎる。心臓がバクバクと脈打ち、嫌な予感を募らせていく。


「諸君なら事前に情報を仕入れて何するか薄々わかってるとは思うが…」

「入試みてぇなロボ無双だろ!!」

「花火!カレー!肝試ーーー!!」


お見通しですよ!とばかりにハイテンションな上鳴くんと芦戸ちゃんが声を上げる。どうやら八百万ちゃんの家での勉強会のお陰で手ごたえを感じ座学を乗り越えたので、残るは演習のみ
と喜んでいるのだろう。この様子から察するに2人は先生たちが多いことに不審感を抱いていないらしい。やれやれと思いつつ、不意に相澤先生の首元に巻かれている捕縛用の布がモゾモゾと動いているのに気づいてジッと見つめるとそこからヒョコっと見覚えのあるネズミが飛び出した。


「残念!!諸事情あって今回から内容を変更しちゃうのさ!」

「校長先生!」

「変更って…」


相澤先生の首元の布から突如飛び出してきたネズミ…校長先生の登場に驚く瀬呂くんに不安げに問い返す八百万ちゃん。その横で"内容変更"の言葉を聞いた瞬間ピタリと固まる上鳴くんと芦戸ちゃん。嗚呼、やっぱり。


「それはね、これからは対人戦闘・活動を見据えたより実践に近い教えを重視するのさ!」


よじよじと相澤先生の首元から地面へと降り立った校長先生が高らかに宣言する。それは明らかに今まで行われてきたロボの戦闘訓練よりも難易度は上がり、今後の学校生活は勿論のこと将来を見据えた試験内容になると言う事だ。今までに無い試験内容…と考えただけでも思わず緊張が高まる。


「というわけで…諸君らにはこれからチームアップで此処にいる教師1人と戦闘を行ってもらう!」


嗚呼、なんて恐ろしい試験内容なのだろうか。出来れば聞きたくなかった、というよりドッキリであって欲しいと思えるほどだ。ピタリと固まるクラスの皆と、思わず「先…生方と…?!」と驚きの声を漏らすお茶子ちゃん。皆の中で一気に緊張が走ったのを感じるぐらい空気がガラリと変わった。


「尚 対戦する教師は既に決定済み。動きの傾向や成績、親密度……諸々を踏まえて独断で組ませてもらったから発表してくぞ」


先生―…いわばプロヒーローとの真剣勝負。いや、単なる戦いによる合否ではない筈だ。きっとこの先生と生徒の組み合わせには意味がある。実践に近い教えと言う事は、先生と生徒の相性や性格、能力もチーム分けに判断されている筈。そこを見分け、試験を突破しなければ何の意味も無いのだろう。


「まず、轟と八百万がチームで俺とだ」


ドキドキと皆の緊張が高まる中、ニヤリと笑った相澤先生の口からチームが発表されていく。基本2人1組らしいが、A組は奇数の為3人組になるのだろう。だが、3人束になったところで先生に勝てるとは限らない。演習とはいえ今回は座学のようにフルに頭を使いながら行動をしていかないと、本当に―…。


「んで、砂藤と切島と眞壁がチームでセメントスと対戦」


次々と先生とそれに対するペアが発表されていく。そんな中何の前触れもなくサラリと言われた3人組の中に自分の名を呼ばれ、思わず小さく肩を震わせる。セメントス先生―…チラリと先生の方に視線を向けると先生もこちらを見てニッコリと微笑んだように見えた。ヤバい。正直、怖すぎる。


「…が、頑張ろうね!」

「お、おうよ!」

「やってやるぜ!!」


思わず傍にいた砂藤くんと切島くんに声を掛け、士気を上げると当時に少し緊張している自分を落ち着かせる。単独ではない分、少しだけ気分が落ち着くが油断は出来ない。何かしらの対策を考えないと…。


「そして緑谷と爆豪がチーム」


続けて発せられた相澤先生の発表に思わず息を飲み、そちらに視線を上げると「デ……!?」「かっ…!?」と互いに顔を見合わせている出久と勝己。これはまた、最悪なチームだ。神様の徒にもほどがある。そして更に追い打ちをかけるように、


「で…相手は――…」

「私がする」


傍から見ていても分かるほどに相性が最悪の2人でチームを組むというだけでもかなり厳しいのだが、2人の前に立ちはだかったのは誰でもない。オールマイトだ。


「協力して勝ちに来いよお二人さん!!」


これ以上に無い大きな壁と、2人にとっての大きな存在。そしてヒーローを目指す誰もが憧れる平和の象徴―…確かに雄英の先生に就任したとはいえ、あまりにも無理難題過ぎる。レベルが違い過ぎるのだ。もし私がオールマイトと対峙する側だったら誰と組んだとしても絶望に心を折られているかもしれない。2人もその大きすぎる存在と対峙しなければならないという事実に声も出ないようだった。


「それぞれステージを用意してある。10組一斉スタートだ。試験の概要については各々の対戦相手から説明される。移動は学内バスだ。時間がもったいない、速やかに乗れ」


生徒の意見は聞き入れられない。チームの変更も、先生の変更も何もない。今、告げられた事実だけが目の前に大きな壁となって立ちはだかっている。これはもう林間合宿とかそんなことを考えている余裕もない。本当に実践だと思って乗り切らなければ。下手をすると大怪我をする。友達を危険に晒す。一般人を巻き込む。すべてを想定しながら立ち回らなければ。そう自分の事で精いっぱいのはずなのに、どうしても出久と勝己の組み合わせが気になって気になって。それでも絶句する出久の引きつった表情を最後に、切島くんに呼ばれてバスに乗り込む。
それぞれが別のステージに向け発車していくのを窓越しに見つめながら不安そうなお茶子ちゃんや皆に小さく手を振る。此処まで来たらやるしかない。お互いに、目の前の壁を乗り越えるしかないのだ。最後にセメントス先生が乗り込み、自分たちの乗ったバスもゆっくりを動き出していく。ドクドクと脈打つ心臓の高鳴りを少しでも抑えようと目的地に着くまでゆっくり深呼吸を繰り返すしかなかった。



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