―良く晴れた6月最後の日曜日。

期末テストに向け、日頃の演習科目では思いきり個性を駆使して出久や皆からアドバイスをもらったりして技術を磨き、学校が終わった放課後は走り込みを続けしばらく経った。以前よりも持久力は付いたし、自分でも分かる位に個性も使いこなせるようになってきているとは思う。だが、此処で満足してはいけない。


「あ、眞壁」


よいしょと両手に持ったスーパーの袋を持ち直していた時に聞こえてきたその声に思わず足を止めて顔を上げる。昼食を挟みつつ朝から始めていたテスト勉強に一度キリをつけて、私は近所のスーパーの買い出しに来ていた。


「お、切島くんだ」

「よお!偶然だなー!」


人ごみの中、目立つ赤色の髪が駆け足で近づいてくる。学校以外で会う事なんてそうそうない予想外の人物に驚きつつも思わず笑みが零れる。嗚呼、クラスメイトに出会うのならもっとちゃんとした服着てくればよかったとか思ったのは秘密だ。


「どしたの?こんなとこで。切島くんの家ってこの辺じゃないよね?」

「あー…まぁ、な…」


そもそも切島くんが此処にいること自体珍しい。これと言って遊ぶ場所がある訳でもない…どちらかというと住宅街の方が多い地域に何か用でもあったのだろうかと首を傾げる。と、彼は少し言葉を濁しながら視線を自分の後方の方に向ける。自然とその切島くんの視線を追ってみて、彼の態度の原因を何となく察した。


「……あー…」

「んだよ」


そこに居たのは間違いなく不機嫌そうに表情を歪め、両手をズボンのポケットに突っ込んだままこちらを見つめているあの爆豪勝己の姿。…そういえばこの前、期末テストに向けて勝己が切島くんに勉強を教えると何とも言えない流れで約束していたのを思い出す。それが今日だったのか、と視線を静かに切島くんの方へと戻す。


「なるほど?…で?順調に勉強は進んだ?」

「それがよー!!聞いてくれよ眞壁!」


突然声を張り上げながらグイっと顔を近づけてくるほどの勢いに押されそうになりながら涙目に訴えてくる切島くん。話を聞けば、当初勉強会は図書館で行っていたがそこに現れた子供の一言に爆豪がキレ、子供を泣かし、慌てて図書館を飛び出した。次に駆け込んだファミレスでも中学の時のダチと偶然に遭遇。色々話している最中出久の話題になり、またもや爆発寸前まで騒ぎ出し追い出されて今に至ると言う事だ。公共の場ぐらい落ち着けないのかこの男は。
切島くんが今までの経緯を話している中ちょくちょく反論の言葉を挟んでくるが、何をどうしたってことの発端は勝己だし、切島くんを困らせているのも勝己だ。勉強会って言ってた時から薄々心配はしてたけど、まさかこんな事態になっていようとは。


「それに爆豪のヤツ、教え方が大雑把過ぎてよー」

「テメエの理解力が足りねえんだろうが!」

「あー、何となく分かる」

「んだとコラァ!!」


勝己は地頭が良い。きっと理解力が良すぎて、他人の分からないという感覚が分からない人なんだと思う。勉強で苦労をしていない…そんな人が自分の頭の中を他人に教えようとするなんて難しいことこの上ない。勝己も勝己なりに教えようとはしてみたのだろうが、やはり無理だったようだ。そもそも勝己が誰かに何かを教えるなんて見たことないし、想像もしたことない。いや、ホント参った…と頭を掻く切島くん。ご苦労様です。


「そもそも勝己の家か切島くんの家でゆっくり勉強会すればよかったじゃん」

「今日はババアが居んだよクソが」

「俺んちは遠いから面倒なんだとさ」

「我が儘か」

「嗚呼?!!」


いや、本当にただの我が儘じゃないか。親が居るから嫌とか遠くまで行くのが嫌とか。どっちかを我慢すれば何の問題もなく、2カ所の公共の場からも追い出されずに済んだのに。嗚呼、でもどの道このままでは切島くんがあんまりだ。しっかりとテスト勉として苦手なところを教えてもらえると思って今日一日を勝己に預けたというのに、話を聞く限りではこの半日が経過した今でさえも勉強出来ていないようだし。


「…ウチでよければ来る?」

「はっ?!!マジで?!!」

「親も居ないし、勝己の家は近いし、周り気にしないで勉強できるでしょ」

「眞壁、もう一度聞くぞ?ほ、本当に良いのかッ?!!」

「うん。切島くんと勝己なら全然良いよ」

「おおお!ありがてえええ!!」


昨日掃除もしてあるし、自分の座学に関するテスト勉強はある程度ヤマを張って復習を兼ねてちょこちょこ合間にやっているし、クラスみんなで合宿に行く為にも協力し合わなければ。それにこのまま勝己だけに預けてたら本当に切島くんが可哀想だ。勝己は不服かもしれないし、彼よりも全然順位が下の私だけど切島くんに教えられることがあるかもしれないし…。私自身の勉強にもなるかもしれないし…とプラス思考を繋げる。目の前で喜ぶ切島くんを見て、嗚呼よっぽど困ってたんだな、と察した。


「………」

「あれれ?爆豪様は不満ですか?」

「…んなんじゃねーよアホが」


切島くんのテンションとは裏腹に急に静かになった勝己にちょっかいを出すように声を掛ければ、彼は眉間の皺を更に深くして吐き捨てながらポケットにしまっていた手をこちらに差し出してきた。一瞬何かと思ってその手を凝視していたら小さく「貸せ」と更に手を差し出すどころか半ば奪われるようにして私の手からスーパーの買い物袋を奪い去った。どうやら家まで持ってやるよ、の意だったらしい。


「あら。優しい」

「テメエ、からかうのもいい加減にしろよ」

「からかうなんてとんでもない。感謝してますよーホント」

「………」


さっさと行くぞ、と私と彼の家の有る方向へと歩き出す勝己の背中に思わず笑みを零しながら付いて行こうと足を踏み出す。勝己の行動に関心したように声を零しながら切島くんが私の持っているもう一つのスーパーの袋に手をかける。


「流石爆豪だな!ならもう1個は俺が持つ!」

「ありがと切島くん」


幾ら近所とはいえ、安いからとそれなりに買ってしまったこの量を運ぶのは少々辛い分男手があると助かるーなんて零しながら徐々に天辺から傾き始めている日の下、勉強が何時までかかるか分からないし夕飯も作りながら勉強会かなー…とか、カレーでも作るかー…とかぼんやり今夜の献立と男士2人が食べてくれそうなメニューを考えながら家路についた。



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