時は流れ、六月最終週――……
期末テストまで残すところ一週間を切っていた。


全く勉強してねーーー!!


頭を抱え悲鳴交じりに声を上げる上鳴くん。いや、そんなことをこんな公の場で宣言されても。「ああああああ!!」と絶望した表情で悩んでいる上鳴くんの横では成績的にはあまり上鳴くんを楽観視出来る立場ではない筈の芦戸ちゃんが何故その表情なのか、彼とは反対にあっはっはっはと笑っている。


「体育祭やら職場体験やらで全く勉強してねーー!!」

「確かに」

「こらこら、行事に罪はないよ」


とは笑顔で言っているものの、実際行事に大幅な時間を割いてるので上鳴くんの言う通りだったりする。でもこんな行事盛りだくさんの中でも上手く勉強できている人は居るし、成績もそれなりにとれていたりする。だから勉強できないのを行事のせいにしたくなるのは分かるが…少々苦しいところだ。
頭を抱え未だに苦しそうな声を上げている上鳴くんは1-Aの21人中/21位であり、この期末テストまで残り僅かという現実に流石に絶望を感じ始めたのだろう。ちなみにその横に居る芦戸ちゃんは20位で2人の意見に納得している常闇くんは15位だ。


「中間はまー入学したてて範囲狭いし特に苦労なかったんだけどなー…行事が重なったのもあるけどやっぱ期末は中間と違って…」

「演習試験もあるのが辛えところだよな!」


皆の悩みを代弁するかのように言う砂藤くんの呟きに便乗するかのように言う峰田くん。だが、その態度はあからさまに偉そうで上から目線だ。脚を組み、頬杖をつく峰田くんに上鳴くんと芦戸ちゃんがピタリと動きを止め、彼を見る。


「あんたは同族だと思ってた!」

「お前みたいな奴はバカではじめて愛嬌あるんだろが…!どこに需要あんだよ…!!」

「"世界"かな」


峰田くんが2人にこんな態度がとれるのは他でもない。彼が21人中9位という実力を持っているからだ。ちなみにいうと私よりも順位が上だけれど、その態度はさすがに腹が立つ。きいいいい!!と峰田くんに対して悔しそうに表情を歪める芦戸ちゃんと上鳴くんにすかさずまぁまぁと出久が宥めるように声を掛ける。


「芦戸さん上鳴くん!が…頑張ろうよ!やっぱみんなで林間合宿行きたいもん!ね!」

「うむ!」

「普通に授業受けてりゃ赤点は出ねえだろ」

「言葉には気をつけろ!!」


出久と飯田くんの優しい応援も、すべて悪意も無くボソリと言った轟くんの一言によって絶望している上鳴くんの更に心を抉る。というのも2人に声を掛けたこの3人、5位・2位・6位と上位を制している3人なのだ。余計嫌味にしか聞こえないだろう。
上鳴が膝から崩れ落ち現実逃避でもし始めるんじゃないかと思うぐらい酷く落ち込み、芦戸ちゃんの表情も徐々に曇り始めたのを感じていると、そこにそっと手を差し伸べる人物…いや、女神がいた。


「お二人とも、座学なら私、お力添えできるかもしれません…演習の方はからっきしでしょうけど……」

ヤオモモーーー!!!


絶望に落ちていくだけだった2人に手を差し伸べたのは他でもない、成績トップ―…つまり1位の八百万ちゃんだ。演習はともかく、座学の方であれば何とかなるかもしれないと優しく2人を絶望の淵から引きはがしたのだ。
しかし、八百万ちゃんが引き上げたのは2人だけじゃなくて、「お二人じゃないけど…ウチもいいかな?2次関数ちょっと応用つまずいちゃってて……」と成績7位の耳郎ちゃんを始め、「わりィ俺も!八百万 古文わかる?」と18位の瀬呂くんと8位の尾白くんまで「俺も」と次々八百万の元へと集結する。


良いデストモ!!!!


頼られるのが嬉しいリーダー気質である八百万ちゃんが拒む訳もなく、集まってきた人たちも「わーい」と大喜びだ。今度うちで勉強会を開きましょう!と提案する八百万ちゃんの張り切りようといったらもうそれはそれは…。
わいわいとお互いに苦手な分野や教えられるものなどの意見交換をし始めるあちらのグループを横目に、前の席に座っている勝己の傍に居た切島くんがボソリと呟く。


「この人徳の差よ」

「ぶふっ!!歴然すぎ…!」


勝己は成績3位という上位組でありながらありながら八百万と比べて全く持って彼に声を掛けてこない…まぁ、そもそも教えてといって教えてくれるとは思われていないのかもしれないがあまりにも切島くんの言う通りに人徳の差があり過ぎて思わず吹き出して笑ってしまう。


「俺もあるわ てめェ教え殺したろか」

「おお!頼む!」

「教え殺したら駄目だからね」


ぐぬぬぬぬぬぬ…と歯を噛みしめながら怒りをどうにか堪えようとしているのか体を震わせながら言う勝己に、16位の切島くんがちゃっかり勉強を教えてもらう約束を取り付けているのを聞きながら教え殺すってそもそもどうやんのよ、とか思いながら笑みを零した。



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