昼休み、所変わって食堂。相変わらず昼食を求め生徒たちで賑わっている中、今日は久々にお弁当じゃなくて皆で学食を食べようとお財布片手に列に着く。


「普通科目は授業範囲内からでまだ何とかなるけど…演習試験が内容不透明で怖いね…」

「そうだね、演習は内容が分からないとは言え、ある程度幾つか予想を立てておかないとキツいと思う」

「突飛な事はしないと思うがなぁ」

「普通科目はまだ何とかなるんやな……」


それぞれが自身のメニューを載せたプレートを持ち、空いていた席に着く。悩ましく表情を曇らせながらも手を合わせて「頂きます」と声をそろえる出久と飯田くん。私の席の隣で手を合わせていたお茶子ちゃんが3人とも不通科目は眼中にないんだなと少し青い顔をしていた。


「一学期でやったことの総合的内容」

「とだけしか教えてくれないんだもの、相澤先生」

「戦闘訓練と救助訓練、あとはほぼ基礎トレだよね」

「そうだね」


近くの席に着き、ラーメンを啜る葉隠れちゃんに困り顔でパンを千切る梅雨ちゃん。今まで習った演習の項目を上げるお茶子ちゃん。轟くんと対峙したあの戦闘訓練に…嗚呼、思い出すだけでも変に胸がざわつく救助訓練。不本意でありながらも初めて敵(ヴィラン)達と戦う羽目になったあの救助訓練だったが、後日きちんとした演習を行った。そちらの内容をきちんと復習しておかなければ…と目の前のプレートに乗ったハンバーグを一口大に切って頬張る。


「試験勉強に加えて体力面でも万全に…あイタ!!」


出久が明らかに話の続きとは違う声を上げたのでハッと顔を上げると、その視線の先には見覚えのある一人の姿。確か彼を見たのは…そうだ。体育祭の時、自棄に勝己に突っかかってて勝己がキレてた相手だ。


「ああごめん頭大きいから当たってしまった」

「B組の!えっと…」

「物間くんだよ」


彼の名を思い出そうとしている葉隠れちゃんに彼の名を告げると「そう!!物間くん!よくも!」と何をするんだとばかりに見えない腕を上げる。突如現れた彼はどうやら通り過ぎる振りをして出久の頭にわざと肘をぶつけてきたらしい。謝っているのに悪びれた様子が感じられないその態度に思わず顔を顰める。


「君らヒーロー殺しに遭遇したんだってね」

「!」

「…だから?」

「体育祭に続いて注目を浴びる要素ばかり増えてくよね A組って」


流石は雄英だ。情報が回るのが早い。しかもB組の彼が"私たちが遭遇した"という事まで分かっている所を見るとそれなりに広まっているのかもしれない。表情は笑顔であるにも関わらず口をついて出るその嫌味を感じる雰囲気に思わずみんなの箸が止まる。物間くんに聞き返す私の表情も傍から見たら冷たく、声色も落ちているのが分かるだろう。


「ただその注目って決して期待値とかじゃなくてトラブルを引きつける的なものだよね」

「 !? 」


喧嘩を売る気なら買うぞ、という意思表示のようなものだった。けれど寧ろその物間くんの表情に狂気すら感じるほどにその口調が淡々と早まっている。誰もが言葉を返すことも出来ないままでいる中、何も気にしないとでもいうように更に物間くんの口に拍車がかかる。


「あー怖い!いつか君たちが呼ぶトラブルに巻き込まれて僕らにまで被害が及ぶかもしれないなあ!ああ怖… ふっ!!

「シャレにならん。飯田の件知らないの?」


とうとうこれはマズいと感じるほどに狂気に満ちた物間くんの口が、いつの間に現れたのか1人の女の子が物間くんから昼食の乗ったプレートを奪い取ると同時に彼に素早く手刀を落とした。


「ごめんなA組、こいつちょっと心がアレなんだよ」

「拳藤くん!」


ぐったりと力が抜けて崩れ落ちる物間くんのシャツを掴みながら奪ったプレートを近くのテーブルの上にそっと置いた彼女に飯田くんが反応する。彼女は拳藤さんと言うらしい。「心がアレって…」と思わず苦笑するしかないこちらを申し訳なさそうに振り返る彼女はどうやら良い人のようで安心した。


「あんたらさ、さっき期末の演習試験不安とか言ってたね。アレ、入試ん時みたいな対ロボットの実践演習らしいよ」


片手に物間くんを掴んだまま突如サラリと言う拳藤さんに一瞬思考回路が停止する。しかし彼女が今とてつもなく期末テストに関してとても有力な情報を当たり前のように言ってのけたことに気づき、驚きを隠せないまま少し身を乗り出す勢いで思わず聞き返す。


「…え!?本当!?」

「何でそれ知ってるの!?」

「私 先輩に知り合いいるから聞いた。ちょっとズルだけど」


思わず聞き返す私と出久にちゃんと種明かしもしてくれる拳藤さん。この人、本当にいい人だと直感的に分かった。「ズルじゃないよ!」とフォローを入れる出久が続けてなんで気づかなかったんだ…とかブツブツとオタクモードに入った瞬間、少し拳藤さんの表情が固まっていたがこれが普通だから気にしないでと彼女の不安を打ち消す。


「馬鹿なのかい拳藤。折角の情報アドバンテージを!!ココこそ憎きA組を出し抜くチャンスだったんだ…」

「憎くはないっつーの」


ぐったりとしたままではありながらも明らかにA組に敵意をむき出しにしている物間だったが、再び拳藤さんに手刀を落とされ動かなくなる。「(B組の姉御的存在なんだな…)」と思いつつ、そのまま拳藤さんにズルズルと引き摺られるようにして去っていく物間くんを見送った。
新たに得た有力な情報を手にした私たちは再び箸を動かしつつ、これで演習にも対策が打てると少し盛り上がりながら昼食を続けた。


―――…


HRを終えてみんなが帰り支度を始める頃、食堂で得た有力な情報をすぐさまA組に持ち帰り、クラスメイトの皆と共有する。不透明だった演習内容が見えてきたことにより少し不穏だった空気も明るくなる。


「んだよロボならラクチンだぜ!!」

「おまえらは対人だと"個性"の調整大変そうだからな………」

「ああ!ロボならぶっぱで楽勝だ!!」

「あとは勉強教えてもらって」

「これで林間合宿バッチリだ!!」


成績が宜しくないあの上鳴くんも芦戸ちゃんもその情報を聞いてやったぁと思わず笑顔を零す。障子くんの言う通り、2人の個性を考えると対人関係の内容では難しいかもしれないがロボット相手なら個性の出し惜しみもしなくて済むだろう。
2人だけじゃなく、内容が見えてきた事でみんなもそれぞれ突破口が見えてきたことだろう。策を練るのもよし、力で押すのもよし、予想を立てるのも漠然としたもので終わらずに済みそうだ。


「人でもロボでもぶっとばすのは同じだろ。何がラクチンだアホが」


合宿への道が見えてきたことへの喜びから燥ぐ2人に対し、席を立った勝己がその雰囲気を壊すように声を上げる。


「アホとは何だアホとは!!」

「うるせえな 調整なんか勝手に出来るもんだろ アホだろ!なあ!?デク!」

「!」


上鳴くんや芦戸ちゃんに向けられていたはずの会話が不意にその様子を見ていた出久の方へと矛先を変え、思わず教科書や参考書をカバンに入れていた手を止めて彼を見る。


「個性の使い方…ちょっとわかってきたか知らねえけどよ、てめェはつくづく俺の神経逆なでするな」

「…まさか、あれの事言ってんの…?」

「あれか…!前のデクくん。爆豪くんみたいな動きになってた」

「あーーー確かに…!」


何の事かと一瞬考えこんだが、ふとあの救助訓練レースでの出久の動きを思い出し口に出すと周りも納得したように声を零す。彼もあの動きが自分に似ていると感じるほどにあの時の出久は確かに成長したと不本意ながらも思ったのだろう。


「体育祭みてえなハンパな結果はいらねえ……!次の期末なら個人成績で否が応にも優劣がつく…!完膚なきまでに差ァつけて、てめェぶち殺してやる!」」


また、彼の悪いところが出ている。あまりにも凄い剣幕で出久に重圧をかけている勝己。出久もその勢いに何も言い返せないまま固まっているのを感じ、思わずカバンと教科書から手を離して一歩彼の方に踏み出す。


「ちょ、勝き―…」

「轟ィ…!!てめェもなァ!!」


止めようと声を掛けた瞬間、言葉を遮るようにして今度はその怒りを出久じゃなくて傍に居た轟くんの方にも飛び火し、言いたいことはすべて言い終えたのかそのまままた不機嫌であることを丸出しな歩き方で歩き出すとそのまま教室の扉をガンっとこれまた乱暴に開けて出ていった。


「…久々にガチなバクゴーだ」

「焦燥…?あるいは憎悪……」


まるで嵐が去ったかのような雰囲気のなか呟くように声を出した切島くんと、今までのやり取りを席に着いたまま見ていた常闇くんがそっと口を開く。そんな2人の言葉に私は小さく吐息し、「違う」と肩を落としながら席に戻る。


「ただの負けず嫌いだよ」


勝己が去ってガヤガヤと話し出す教室内でボソリと呟いた声は静かに消え、再びカバンの中に教科書を詰めなおしながらやれやれといった表情で出久を見れば出久も先ほどの言葉がまるで聞こえていたかのようにこちらを振り返って困ったように笑っていた。



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