その後、全ての組の救出レースが終了し、ヒーロー基礎学の授業も無事に終了。教室に戻る前に、各自ヒーローコスチュームから制服に着替える為に女子たちは女子更衣室に集まっていた。


「ふぅ〜 久々に汗かいた〜」

「帷ちゃんの動きも前に比べてキレが増してたよね!」

「そう?」

「ええ、もう少しで1位になれたのに残念でしたわね」

「いやぁ目の前で出久が足滑らせたのが見えたからとっさにバリアで受け止めちゃって」


コスチュームを脱ぎ、持参したタオルで汗を拭く。ワクワクしたような声色で詰め寄ってくる葉隠ちゃんに、自分の事のように残念そうに眉尻を下げる八百万ちゃん。


「緑谷も少し気が抜けたのかな?」

「そのタイムロスがなかったら帷ちゃん1位だったもんね〜」

「あら、でも人命救助と思えばヒーローになるためにも大事な行動よ」

「そういうことにしておくよ」


ニシシと笑う芦戸ちゃんに、八百万ちゃんと同じように残念だったね〜と微笑むお茶子ちゃん。そこに梅雨ちゃんのフォローが入ったので苦笑しながらこれ以上出久を責めるのは止めた。梅雨ちゃんの言う通り、私があのまま通り過ぎていたら出久は地面に叩きつけられていただろうし、これでよかったのだ。
…と、そんな先ほどの授業の評価を色々と交換し合っている中、不意にスカートを履こうとしていた手を止める。微かに聞こえる話し声。視界の中にいる女子たちから聞こえる声ではない。耳を澄まして話し声を辿る。壁の方からだ。しかもその壁の向こうは男子更衣室…ちょうど壁の近くにいた私には聞こえたらしく、他の皆にはどうやら聞こえていないらしい。
よくよく壁に目を凝らすと1つの小さな穴が目に留まった。近くに居た耳郎ちゃんの肩をツンツンと突いて呼ぶ。振り返った耳郎ちゃんと他の女子たちにシーッと人差し指を唇に当てながら今度は声の聞こえる壁に向かって指をさす。と、耳郎ちゃんが「任せて」と個性の耳たぶを壁につけて隣の様子を伺っていた。が、


「峰田くんやめたまえ!!ノゾキは立派なハンザイ行為だ!」

「オイラのリトルミネタはもう立派なハンザイ行為なんだよォォ!!」


今まで微かにしか聞こえていなかったのに、突如その小さな穴の先から皆にもはっきりと聞こえるほどの声が飛び込んでくる。その声に思わずみんなで顔を見合わせる。他でもない、峰田の声だ。…なんて馬鹿なのだろうか。


「八百万のヤオヨロッパイ!!芦戸の腰つき!!葉隠れの浮かぶ下着!!眞壁の臀部から太ももにかけての美ライン!!麗らかのうららかボディに蛙吹の意外おっぱァァァァ――」


ドックン


「あああ!!!!!」


何の迷いもなく耳郎ちゃんはその耳たぶの先を穴に忍ばせ、その穴の先でこちらを覗き込もうとしていたのであろう峰田の眼球目掛けて勢いよく突き刺した。峰田の悲鳴が壁の向こうから聞こえてくる。


「ざまあみろ」

「ありがと響香ちゃん」

「何て卑劣…!!すぐにふさいでしまいましょう!!」


スカートのホックを止めながら今頃壁の向こうで「目から爆音がああああ!!!」とその痛みに悶えているであろう峰田を想像しながら吐き捨てる。本当、欲に忠実というか…まぁ最低だしこれは明らかに自業自得だろう。そもそも臀部から太ももにかけての美ラインって何なんだ。今後も覗かれないようにすぐに八百万ちゃんの個性でその小さな穴を埋めることにした。



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