― 翌日。


無事に職場体験を終え、久々の学校生活再開の日。今日も職場体験前と変わらず教室内はあちこちでお互いの職場体験について語り合い、賑わっていた。


「「アッハッハッハ マジか!!マジか爆豪!!」」

「笑うな!クセついちまって洗っても直んねェんだ、おい笑うなブッ殺すぞ」

「やってみろよ8:2坊や!!アッハハハハハハハ!」


切島くんと瀬呂くんの大笑いが響く。チラリと視線を移せば、いつものツンツンヘアーは何処へやら。どうやら職場体験先で見事に髪型を弄られ8:2分けが染みついてしまっている勝己を指さし、お腹を押さえて笑う2人。そんな2人に怒りを爆発したと同時に元の髪型に戻った勝己が居た。
他にもちらほら視線を移せば敵退治や密航者の確保、女性ヒーローの本性を見てしまった者など色々だが、みんなお互いに体験したヒーロー活動について話をしている。中でもお茶子ちゃんはどうやら武術に目覚めたように、そのいつも纏っていた麗らかなオーラとは全く別の力強いオーラを放っている。無事、みんなも色々なヒーローと共にそれぞれの現場で多くの事を経験できたようだ。


「ま 一番変化というか大変だったのは…お前ら4人だな!」


ん、と声の方へと振り返る。上鳴くんの声と共に数人の視線の的となる私と出久、轟くん、飯田くんの4人。何の事だか、なんて言わなくても分かる。


「そうそうヒーロー殺し!!」

「命あって何よりだぜ マジでさ」


元の髪型に戻った勝己に捕らえられたまま声を上げる切島くんと瀬呂くん。あの後ヒーロー殺しの件は世間に大きく報道された。テレビだけではなく、新聞からネットまで色々なメディアによって拡散されたヒーロー殺しの存在は今現在も熱を持ったまま世間を賑わせている。それほどまでに世間に傷跡を残した存在と対峙した私たちだが、色々な助力のお陰で私たちは事件に"巻き込まれた被害者"として公表された。この事件の真実を知る者は限られているので皆、口々に大変だったな。と声を掛けてくる。


「心配しましたわ…」

「ありがと百ちゃん。でもすぐにヒーローが来てくれたから大丈夫だったよ」

「そうそう!エンデヴァーが救けてくれたんだってな!さすがNo.2だぜ!」


困ったような表情で歩み寄ってきた八百万ちゃんにニコっと笑って見せる。実際この通り学校にも普通に通えるほどに回復したし、心配するほどの怪我はない。そして、世間的には私たちを救ったのはエンデヴァーと言う事になっており、私たちが戦闘に関与している全てなかったことになっている。実際、エンデヴァーが駆けつけてくれたのは事実だしプロヒーローたちも駆けつけてくれなければあの後どうなっていたことか。


「…そうだな "救けられた"」

「うん」


実の父であるエンデヴァーの名が出て、少し間が空いたものの静かに伏せ視がちに轟くんが肯定する。その言葉に少し微笑んで出久と共に小さく頷く。


「俺ニュースとか見たけどさ、ヒーロー殺し 敵連合ともつながってたんだろ?もしあんな恐ろしい奴がUSJ来てたらと思うとゾっとするよ」


ぞろぞろと私たちの周りに集まり始まるクラスメイトたちの中で尾白くんが言う。彼の言う通り、あのヒーロー殺しが敵連合と共に生徒(わたし)たちを本気で殺すつもりで現れていたのなら被害は―…考えるだけでも恐ろしい。下手をしたら怪我人どころじゃ済まなかっただろう。


「でもさあ 確かに怖えけどさ、尾白 動画見た?アレ見ると一本気っつーか執念っつーか かっこよくね?とか思っちゃわね?」


上鳴くんの口から不意に出たその発言に私は思わず声を詰まらせ目を見開いた。傍から見たら凄い顔をしていたと思う。それは出久も同じのようで慌てて「上鳴くん…!」と声を掛ける。


「え?あっ…飯…ワリ!」


その出久の声に上鳴くんも気づいたようで慌てて自分の口を塞ぐ仕草をするが遅い。その発言は本気で殺されそうになって、しかも腕を負傷した飯田くんにとってみればどれほどキツい言葉だろうか。気まずい雰囲気のまま視線が自然と飯田くんの方へと向けられる。


「いや…いいさ。確かに信念の男ではあった…クールだと思う人がいるのもわかる。ただ奴は信念の果てに"粛清"という手段を選んだ。どんな考えを持とうともそこだけは間違いなんだ。俺のような者をこれ以上出さぬ為にも!!改めてヒーローへの道を俺は歩む!!!」

「飯田くん…!」」


静まり返る室内で、冷静さを保ったままの飯田くんの声が響く。確かに、上鳴くんのようにヒーロー殺しに対してそう言った見解を持つものも世間には居るのかもしれない。それに、あの狂気にも似た信念に感化された敵も少なからずいるかもしれない。危険が去ったわけではない。ビシィッ!といつも通りに腕を振り下ろす飯田くんに自然と表情は緩んだ。


「かっこいいなぁ…」

「ん?」

「私もあんな風にかっこよくなりたいなぁ…ってさ」


芯の強さを持つ飯田くんはいつ見ても真っ直ぐだし、曲がらない。そんな彼の強さといつも通りのテンションに安心と共に少し憧れに似たものを感じる。いつだって私の周りに居るのは真っ直ぐに前を見て真っ直ぐに突っ込んでいく人たちばかりで正直羨ましい。そんな思いを込めながら呟けば、傍にいた轟くんが反応した。


「眞壁が…飯田みたいに…?速くなりたいのか?」

「いや、直球に繋げないで」


違う。違うのよ轟くん。いや、確かに飯田くんの個性みたいに足が速くなったら困ることはないけれど、私が憧れているのはそこじゃないの。と手を振って否定すれば「そうか」と不思議そうな顔で返された。


「さァそろそろ始業だ席につきたまえ!!」


あの事件で一番傷ついたであろう彼が一番元気で一番いつも通りだった。いつものように声を張り上げ一日の始まりを告げる飯田くんにこっそり常闇くんが「五月蠅い…」と呟き、自分が失言したことを悔いているのか「なんか…すいませんでした」と密かに謝罪している上鳴の声をかき消すように予鈴が鳴って、みんな静かに席に戻っていった。



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