「それではこれより!!表彰式に移ります!」


POMPOMという可愛らしい音と共に上がるカラフルな昼玉が雄英体育祭会場の上空に打ち上がり、体育祭終了を知らせる。長い一日が終わりを迎え、思い返せばあっという間だったなあと思いつつもそのミッドナイトの高らかな宣言に誰もが表彰台に視線を移した。が、


『…何アレ』

「起きてからずっと暴れてんだと。しっかしま――…」


ワアアアアと歓声に湧く会場の中、ガチャガチャと響き渡る金属音。そう、私たちの目の前に広がる光景は普通の表彰式ではない。明らかに異質を放っているその光景に思わず引き気味で声を零せば、傍にいた切島くんが苦笑しながら答えてくれる。


「締まんねー1位だな」


切島くんの言う通り、表彰台の栄光ある1位の表彰台にはセメントス先生が作ったのだろう小さな壁にガッチリとベルトで固定され、更にはこれまた頑丈な拘束器具にて手と口を固定されている爆豪くんの姿。「ん゛ん゛ん゛!」と声にならない声を上げながら隣の2位の表彰台に立っている轟に向けてガチャガチャと暴れている。決勝戦にて全力を出すことなく終わった轟くんに対して怒りを露わにしているのが丸わかりだ。


「3位には常闇くんともう一人飯田くんがいるんだけど、ちょっとお家の事情で早退になっちゃったのでご了承くださいな」

「飯田ちゃんハリキってたのに残念ね」

『…うん』


カメラ目線で補足をするミッドナイトの言葉に、梅雨ちゃんが残念そうに声を零す。いつになく真剣な面持ちで先ほど出て行った飯田くんの姿が頭を過ぎる。


「兄が敵(ヴィラン)にやられた」


尊敬していると以前言っていたお兄さんが、どうやら任務中に負傷したらしい。先ほど私たちが振動する飯田くんに驚いた時のあの電話がそういった連絡だったようだ。先生たちに事情を話し、早退して行った。せっかく3位になれたのに。…いや、確かに残念なことは残念だが、今はお兄さんの無事を祈るだけだ。


「メダル授与よ!!今年メダルを贈呈するのはもちろんこの人!!」

「私が メダルを持って着t」

「我らがヒーロー オールマイトォ!!」


そうこうしている内に準備が整ったのかミッドナイトが高らかに声を上げると、1人のヒーローが上空から会場に現れた。そう、オールマイトだ。折角の登場に、ミッドナイトと声が見事に重なってミッドナイトが小さく謝っているのが見えた。
そして、オールマイトは準備されていたメダルを3位の常闇くんの首にかけ、何か言葉を交わしながら彼を抱擁してまた何か言葉をかけて2位の轟くんに移る。常闇くん同様、2位の轟くんの首にメダルをかけてまた何か言葉を交わしながら抱擁している。少しばかり、轟くんの表情が穏やかに見えた。
…で、問題の1位だがとりあえず最初にオールマイトは彼の口に嵌められた拘束を外す。途端、凄い形相でオールマイトに向かって何か言ってる爆豪くんの顔が見えた。きっと、気にくわねえだのなんだの文句を言ってるんだろう。しかしそれすらも気にしないとばかりに彼の首にメダルをかけようとするオールマイト。納得がいかないと抵抗を見せていた爆豪くんだったが最終的にオールマイトがセイッと口にメダルをかけ、爆豪くんがメダルの紐部分を咥えて立っている形に治まっていた。


「さァ!!今回は彼らだった!!しかし皆さん!この場の誰にも"ここ"に立つ可能性はあった!!ご覧いただいた通りだ!競い!高め合い!さらに先へと登っていくその姿!!次世代のヒーローは確実にその芽を伸ばしている!!」


メダル授与が終り、クルリと会場を振り返ったオールマイトが高らかに声を上げる。そう、誰しもその表彰台に立てるチャンスはあった。たった少しの差、本当に少しの差だったと思う。その差を糧にこれからも自身の力を高めることで更に先を目指すことが出来る。その小さな差を悔しがるだけではない、そこから学ばなければ。会場の誰もがオールマイトの声に目を輝かせて耳を傾けている。これが、本当のヒーローの言葉の重み。


「てな感じで最後に一言!!」


再び高らかにオールマイトが声を上げ、空に向かって指を差す。誰もがオールマイトがいつも愛用しているあの言葉を脳裏に過ぎらせながら息を飲む。


「皆さんご唱和下さい!!せーの


その掛け声とともに私も私の周りも一斉に息を吸い込み、身を乗り出す勢いで最初の一言を吐き出したその時だった。


「おつかれさまでした!!!」


プルス、プルスウルト、となんとも中途半端な言葉が会場中のあちこちから飛び交う中で響いたオールマイトの一言はあまりにも皆の予想を外していて、会場中からブーイングの嵐。そりゃあそうだ。その場の誰もが彼の固有名詞と言ってもいい「プルスウルトラ」の言葉を期待していたのだから。


「そこはプルスウルトラでしょオールマイト!!」

「ああいや…疲れたろうなと思って……」


思わず声を上げるミッドナイトに困り顔でごめんごめんと謝っているオールマイトを見つめながら、なんだか力が抜けてしまった私は怒られている彼の姿を見つめながらふふっと小さく笑みを零して息を吐いた。

こうして、私たちの雄英1年目の雄英体育祭は幕を閉じた。


時間と言うのはあっという間で、あれほど当日まで長く感じていた時間が嘘みたいにこの1日で消えていくような夢だったんじゃないかと思うぐらい一瞬の出来事のように感じた。うん、まだ実感が無いっていえばいいのかもしれない。
体育祭が終わって一旦各クラスに戻り、帰りのHRを行う。皆やっぱり疲れているみたいでお疲れ様ーとか頑張ってたねーとかぐらいであまり会話も無いまま席に着くと、そう時間を空けずに相澤先生が教室に入ってくる。そして教卓に立つや否やすぐに口を開いた。


「おつかれっつうことで明日明後日は休校だ」

「!!」

「プロからの指名等こっちでまとめて休み明けに発表する。ドキドキしながらしっかり休んでおけ」


そうだ。これから私たちには職場体験というこれまた大きな授業がある。今日の試合の様子や結果を見たプロヒーローの事務所から指名が来るかもしれないし、来ないかもしれない。どちらにせよ、私に出来る事を遣るしかないのだがどうせ頑張るなら今日の事を糧にしたい。
私に足りないものをこれから埋めていきたい。私と他の人たちとの差を、彼との差をどれだけ埋められるか。どれほど理解し、どれだけ工夫し改善できるか…それがこれから試されるのだろうから。



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