ヒーローを目指す若者同士の頂点を決めるこの戦いを中継している大型モニターの前でその結末を見守る人々。2人の登場に湧く会場。熱気はMAXだ。


「≪さァいよいよラスト!!雄英1年の頂点がここで決まる!!≫」


自分達のクラスを始め、他のクラスの生徒や観客、警護のために呼ばれたプロヒーローたちもみな、その結末に息を飲む。湧き起こる歓声、プレゼントマイクの中継もどこか遠い。心臓が煩い。どうしてだろう、私自身が戦うわけじゃないのに。
…ただ、場内に立っている2人のその姿に"何か"を感じていた。雄英体育祭の決勝…という肩書き以上の何かを。


「≪決勝戦!!轟 対 爆豪!!今!!≫」


START!! ズ ア ! !


『―ッ?!』


開始の合図とほぼ同時に私たちの視界を奪ったのは轟くんの氷の壁。瞬時に冷やされる空気に微かに吐いた息が白い。轟くんが、いきなり仕掛けた。その一瞬のうちに張られた氷に誰もが息を飲む。あの僅かな一瞬でこれほどの広範囲を―…


「≪いきなりかましたあ!!爆豪との接戦を嫌がったか!!早速勝者決定か!?≫」


でも、最大規模じゃない。隣で見ていた出久もきっと気づいている。これは、轟くんが瀬呂くんと戦った時よりも規模が小さい。爆豪くんに対して一撃を狙いつつ、次を警戒した…と読むのが正しいかもしれない。
氷の壁のせいで見えなくなった爆豪くん。氷の下敷きになったか、場外に放り出されているか…いや、そんな馬鹿なと自分で立てた仮説を嘲笑う。と、決勝戦という事もあり、熱がこもるプレゼントマイクの実況に混じって何か微かにボゴン、ドゴンというような何か固いものを崩しているような爆破しているような音がした気がした―…刹那、


BOOOM!!


轟くんの目の前で砕け散る氷の壁。その壁から現れたのは言うまでもない。彼だ。鬼の形相で現れた彼に怪我はなさそうだし、轟くんの最初の氷結を上手く避けたようだ。


「爆発で氷結を防いでモグラみてえに掘り進めたのか」

「んなケッタイな!!」


此方側の観客席からは見えないが、どうやら最初に場内に立っていた爆豪くんサイドには大きな穴が開いているようだ。なるほど。避けるでも防ぐだけでも無く、そのまま正面突破…爆豪くんらしいと言えばらしいが、個性が個性故に攻め方が酷く大雑把だ。

氷の壁に大穴を開けて現れた爆豪くんに轟くんがとっさに腕を前に出して反応した。2撃目を与えようと構えた轟くんだったが、それに対しても爆豪くんは即座に反応する。自身の爆風で一気に氷の壁に埋まっていた体が宙に飛び上がって、そのまま轟くんの前髪あたりをガシリと掴んだ。


「右側(こおり)を避けて掴んだ!すごい…!」


驚く出久の声の通り、爆豪くんは氷を発動させることが出来る轟くんの右側ではなく、炎を発動させることが出来る左側の髪を空中で掴んだのだ。身体能力が高いとはいえ、幾らなんでも器用すぎる。


「ナメ……ってんのかバァアアカ!!」


爆豪くんが着地するそのままの勢いを利用して轟くんを放り投げる。ビュンッと風を切るような勢いのまま吹っ飛んでいく轟くん。このままでは場外判定負けになってしまう。勢いは止まらずそのまま場外を表す線が見えたその時、宙を移動し続ける轟くんがブンッと腕を振るい自分の後方に氷の壁を作る。


「≪氷壁で場外アウトを回避―――!!!楽しそう!!≫」


地面を伝って伸びる氷の壁をまるで滑るようにして体制を立て直す。爆豪くんの居る位置まで伸びた氷の壁。爆豪くんが氷の壁を避け再び大きく飛びあがり、腕を振りかぶる。それを見切ったかのように轟くんが、バッと自身に向かって伸びてきた爆豪くんの腕を捕えた。
爆豪くんの腕に触れた左手。瞬時に走る緊張感。誰もが轟くんの炎をその一瞬のうちに警戒した。…だが、次の瞬間には爆豪くんが轟くんの腕を振り払い、一気に距離を取っていた。轟くんは、炎を使わなかったのだ。それどころか爆豪くん同様、バッと氷の壁をけって距離を取った。


『(やっぱり爆豪くんは戦う度にセンスが磨かれてる……でも、それに対して轟くんは…)』


静かに見つめ合う両者。爆発のタイミングと言い、動き全てが戦う度に磨きがかかっている爆豪くん。それに対し、轟くんは先の出久との戦いからどうも調子がおかしい。いつもの轟くんじゃない、といえばいいのか。轟くんとは出久との戦いの前に会ったきり…その時と、今の彼は確実に同じじゃない。きっと、彼の中で何か―…。


「てめェ 虚仮にすんのも大概にしろよ!ブッ殺すぞ!!!」


BOOM!といういつもの爆発音と共に爆豪くんの怒号が響き渡る。その声に意識を会場に戻し、氷の壁に囲まれたままの2人を見つめる。


「俺が取んのは完膚なきまでの一位なんだよ!舐めプのクソカスに勝っても取れねんだよ!」


喉の奥から、絞り出しているような。本当に彼は、彼は、それを望んでいる。轟くんの本気を。出久と戦った際に使ったあの炎を。


「デクより上に行かねえと意味ねえんだよ!!」


完膚なきまでの1位。その怒声は入学してほどなく、出久に負けたあの授業の事を彼はずっと心のどこかで引き摺っていたのかもしれない。そしてその出久に勝った轟くんを、本気を出した轟くんを超えることで彼の望みは叶うのかもしれない。


「勝つつもりもねえなら俺の前に立つな!!!」

『(爆ご…)』


自意識過剰と言われるかもしれない。けれどその言葉は何処か爆豪くんと戦った私と重なって居たような気がした。相手がどれだけ強かろうが、センスに溢れていようがあの時の私は本気で彼と戦って、本気で勝つつもりで彼に挑んだ。そう、だから彼の前に立った。立つことが出来たのだ。それに比べて、今の轟くんは野心に燃えているわけでも、闘争心に燃えているわけでも無い。ただ、ただそこに立って決勝戦を乗り切ろうとしているだけ。例えそうではなかったとしても爆豪くんにはそう見えて仕方が無かったのかもしれない。


「何でここに立っとんだクソが!!!」


大きく振りかぶった爆豪くんの腕が大きく振り下ろされる。再び掌から放たれた爆発の威力を利用して飛びあがえる爆豪くんに轟くんは何も言い返さない。宙に飛び上がり、上手く腕の位置を調整して自身の身体を回転させ始めている爆豪くんを見上げている。このままでは、このままでは…そう思っていると居ても経っても居られなくなって、


「負けるな!頑張れ!!!」

『止まるなあああ!!!』


思わず張り上げた声は隣にいた出久の声と見事に重なった。どちらを応援しようとか、どちらが勝つだろうとかそんな考えは一切なかった。ただ、ただ声が出ていた。周りの声援も話し声も全てかき消すように、打ち消すように少し身を乗り出してただそう叫んでいた。

一瞬、その声に轟くんの顔が見開かれたような気がした。刹那、ボオッと燃え上がる轟くんの左側。出久の時ほどの威力ではないけれど微かに上がったその炎に宙で更に自身の身体に回転を加えている爆豪くんの表情もいつものように怪しい笑みで満たされる。だが、爆豪くんの回転が最高潮まで達し将に今攻撃を仕掛けようとしていたその時、フと轟くんの炎が静かに消えたのが見えた気がした。


榴弾砲着弾(ハウザーインパクト)!!


「≪眞壁戦で見せた特大火力に勢いと回転を加え、まさに人間榴弾!!轟は緑谷戦での超爆風を撃たなかったようだが果たして……≫」


私と戦った時よりもかなりの威力だった。回転と爆風を纏った爆豪くんの放ったそれは、氷を深く抉りかなりの衝撃を与えた。そう、何か別の大きな力とぶつかり合うことなく。


「……は?」


状況を理解した爆豪くんから出た、最初の声。まさにその声の通り、プレゼントマイクの実況通りに轟くんは爆豪くんの攻撃を防ぐでも避けるでもなく、爆豪くんの攻撃を真っ向に受けとめたかのように周りの氷の壁を巻き込みながら場外へと吹っ飛んいたのだ。言葉を失う私。なんで、どうして?


「オイっ…ふっ ふざけんなよ!!」


ぐったりと瓦礫と化した氷の壁の上で伸びている轟くんに向けて爆豪くんが声を上げながら立ち上がって駆け寄っていく。戦闘不能状態の轟くんの胸倉をつかんで更に声を上げる爆豪くん。


「こんなの…こんっ…」


その声には私と同じ、どうして?という感情がどこか混ざっているようだったがそれも不意に小さくなっていてついにはドサリとそのままその場に倒れ込む爆豪くん。一瞬、どうしたのかと思ったけれど彼に近づくミッドナイトの姿を見て、ああ彼女の個性だなとすぐに分かった。今にも戦闘不能になっている轟くんさえも殴りかかってしまいそうな爆豪くんを抑えるのに、彼女の個性は適してる。


「≪轟くん場外!!よって―――…爆豪くんの勝ち!!≫」


バッと掲げられるミッドナイトの片腕。試合終了の合図。勝者も敗者も同じく地面に伏し、立っているものは審判のみ。


「≪以上ですべての競技が終了!!今年度雄英体育祭1年優勝は―――…A組 爆豪勝己!!!≫」


ワアアアアア!!!という会場の歓声と共に私は呆然としていた。いや、力が抜けてしまっていたと言ってもいいかもしれない。言葉を失っている私の横で、出久もなんだか肩の力が抜けたかのように呆然と会場を見つめていた。



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