「≪個人把握…テストォ!?≫」


1-Aの皆が体育着に着替え、外に集まる頃には既に先生はグラウンドで待っていた。そしてその先生の発した第一声に、誰もが思わず聞き返してしまった。


「入学式は?!ガイダンスは?!」

「ヒーローになるならそんな悠長な行事出る時間ないよ」

「…?!」

「にゅ、入学式すら無いなんて…」


お茶子ちゃんが第一に先生に声を上げると、先生は声を荒げるでもなく静かにそう言い捨てる。幾ら自分達がヒーローを志しその覚悟をしているとはいえ、無事に入学した事を実感できる入学式の時間すら惜しいと…この担任は言うのか。


「雄英は"自由な校風"が売り文句。そしてそれは"先生側"もまた然り」


確かに雄英の売り文句は昔から"自由な校風"だ。でもそれは先生も同じ、ってどういうことだ?先生は先生で最低限でも生徒を行事に参加させたり、生徒との交流も兼ねてガイダンスをやるものではないだろうか…。
そんな疑問や不安もまるで気づく気配も無く、先生は「中学の頃からやってるだろ?"個性"禁止の体力テスト」なんて、此方の意見を受け付ける事無く話を進めていく。


「爆豪。中学の時、ソフトボール投げ何mだった」

「67m」

「じゃぁ"個性"を使ってやってみろ」


グラウンドに集合した1-Aの塊の中でも前列にいた爆豪が先生に指名される。個性なんて無くても十分な飛距離だとは思うが、先生は今回は個性を使って計測すると言う。円から出なければ良い、早く。と急かす先生に爆豪は「んじゃぁまぁ…」と手に持った測定機能付きのボールを大きく振りかぶった。


死ねぇ!!!


流石入試一位というだけの事はある。上手く球威に爆風を乗せたようだ。ビュオオオオと凄まじい何かが物凄い勢いで風を切って行く音と共に聞こえたその掛け声とその個性無しの計測時に聞いた飛距離の記録よりも明らかに記録が伸びている光景に、誰もが一瞬固まった。


『……ねぇ、出久?今、爆豪くん…』

「うん。確かに言ったよ」

『…本当、変わってないね』

「うん。逆にかっちゃんらしいよね」


すっごい物騒な言葉が聞こえたんだけど聞き間違えじゃないよね?と全てを問いかけるよりも前に出久が悟って聞き間違いじゃないよと共感してくれる。本当に飯田くんのいう通り彼はヒーロー志望なのだろうか。態度と言い口の悪さと言い、それは敵にも通用しそうだから余計に怖い。


「まず自分の"最大限"を知る。それがヒーローの素地を形成する合理的手段」

「なんだこれ!すげー"面白そう"!」


先生が差し出した小さな計測機には爆豪の記録は705mと表示され、明らかに個性無しの時よりもかなり飛距離が伸びていることが分かる。このテストによって個人を把握し、各々が自分自身の限界を、どのようなものに向いているかを測定する事が出来る。モノは個性の使いよう、とも言われているような気もする。
「705mってマジかよ」「"個性"思いっきり使えるんだ!!流石ヒーロー科!!」と燥ぎだすクラスメイトたち。中学までは外でも学校でもどれだけ優れた能力だろうが個性を出すのは厳しく禁止されていた分、思い切り校内でも自分の個性を使える事に誰もが新鮮な感覚を憶え、誰もが胸を躍らせた。が、先生はそれを良しとは思わなかったようだ。


「…………面白そう…か。…ヒーローになる為の三年間、そんな腹づもりで過ごす気でいるのかい?」


ゾワリ。背筋を駆け上がる何とも言えない感覚と共に先生の纏っている空気が変わる。その空気を逸早く察知してしまったらしい私は先生から目が離せなくなってしまった。面白そう、その一言でプロは此処まで変わるのか。


「よし、トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し除籍処分としよう」

「≪はあああああ?!≫」


クラス中の声が一つに纏まる。え、この人除籍と言ったか?自分のクラスの人間を。これから大事に育てて行かなければならない筈のヒーローの卵と言われる私たちの中から脱落者を出すというのか?…生半可な気持ちでヒーローが出来ると思うな、という戒めとでもいうのだろうか。


「生徒の如何は先生(おれたち)の"自由"」

『(幾ら先生だって…横暴にも程がある…!)』


何処まで先生の自由の境界線が引かれてるのだろう。もしやこれは生徒に自由なんて無いと言われているようなものじゃないか。職権乱用、入学したての私たちは此処のルールなんて最低限ぐらいしか分かっていないし、恒例行事だって知らない。だから、この時期か。


「ようこそ これが、雄英高校ヒーロー科だ」


先ほどの爆豪よりも今の先生の顔の方がよっぽど敵(ヴィラン)顔していて、私たちはその場で表情を歪めながら立っている。


『最下位除籍って…入学初日でも容赦なしって事ですか』

「理不尽すぎる!」


苦笑しつつ私が問えば、その横に並んでいたお茶子ちゃんが再び声を張り上げた。同じクラスの生徒だとしてもまだその能力は知らない者の方が多い。幾ら自分が優れていると思っても、その他の人の個性が自分よりも遥かに上をいっていれば油断なんて出来ない。誰もが最下位になる可能性があるのだ。その場の全員が、先生の決定に納得している訳ない。


「自然災害…大事故…身勝手な敵(ヴィラン)たち…いつどこから来るかわからない厄災。日本は理不尽にまみれてる。そういう理不尽(ピンチ)を覆していくのがヒーロー」


予知できない数多くの災厄。世間で走り回っているヒーローたちは、そんな見えない敵といつどこであろうと戦っている。そう、そんなの分かってる。それなりの覚悟も、根性もないと出来る事じゃない。自分の体よりも他人を優先しなければならない事だってたくさんある。そんなの、良く分かってる―…。


放課後マックで談笑したかったならお生憎。これから三年間、雄英は全力で君たちに苦難を与え続ける


初日から希望の無い新人を潰しに掛かって来るとは、流石名門と言えばいいか。最早、苦情とか呆れとか通り越して苦笑だ。寧ろ徐々に胸の奥が熱くなっていく感覚に溺れそうになる。こういうシチュエーションに密かに燃えているのは私だけだろうか。


「"Plus Ultra(更に向こうへ)"さ。全力で乗り越えて、来い


チョイチョイとあからさまにヒヨっこの此方をおちょくっているように人差し指を動かした先生が、「さて、デモンストレーションは終わり。こっからが本番だ」と測定に入る。
自分自身の限界を知る事で、世間でも通用できるかどうかも知れる…先生の言う事は全て理に適っている。新入生と言えども最早ヒーローになる為の戦いは始まっているのだ。出席番号順だ、早くしろと言う先生に最早誰も異論は唱えなかった。



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -