※爆豪視点




「あ?」


控室のドアを蹴り開ける。まあ少しむしゃくしゃしていたとはいえ行儀が悪いと言われりゃその通りだが、兎に角俺はそのドアを蹴り開けた。その先に居たその存在(ヤツ)に思わず声を零す。


「あれ!?何でてめェがここに…控室……あ ここ2の方かクソが!!」


思わず声を張り上げながら外に置いてある案内板を改めて確認する。俺としたことが、どうやら部屋を間違えたようだ。クソッと悪態を吐きながら本来の控室に戻ろうとフと部屋の中を見る。と、ヤツはこれと言って何の反応も無く、俺が喚き散らしているのを何事も無かったかのように自然と視線を元に戻した。



俺の中で何かの枷が揺らぎ始める。なんだ?なんだ?このイラつきは。なんでコイツは俺の事を見ない?反応しない?何事も無かったかように平然としていられる?何だ。何でだ。


「部屋間違えたのは俺だけどよ…決勝相手にその態度はオイオイオイ…」


ふらりふらりと徐に控室に踏み込んで俺を無視し続けるヤツの傍まで歩み寄る。それでもヤツはこっちを見やがらねえ。嗚呼、そうか。俺は視界に入ってないって?…ふざけんな。


「どこ見てんだよ半分野郎が!!」


BOOM!!思わずヤツの目の前のテーブルに向けて小規模だが爆発を叩きつける。大人気ねえとは自分でも思うが、ヤツの気をこちらに向けたかったんだろう。これぐらいやれば普通のヤツなら驚いたり、怯えた顔しながらもこちらを見る筈……だが、ヤツは違った。
俺のその爆発と共にテーブルに叩きつけた掌を見つめながら、何かを思い出したように小さくハッとした表情をして今まで黙ったままだったその口をゆっくりと開いた。


「それ、緑谷と眞壁にも言われたな」


ギリリ。


「アイツら…特に緑谷は無茶苦茶やって人が抱えてたもんブッ壊してきやがった」


ギリギリ…。


「幼馴染なんだってな。昔からあんななのか?緑谷と眞壁は」


何で、何でだ。何でコイツの口からアイツらの名前が出る度にこう、イラッとするんだ。クソ。何でコイツは目の前の俺じゃなくて、アイツらを見てんだ。何で、今、アイツらの話が出るんだ。この状況、この時に。


「君が助けを求める顔してた」


ギリ…


『真っ向勝負で行くよ。"勝己"』


だが、その言葉で俺の脳裏でもアイツらが今になって騒ぎ出す。あの瞬間のアイツらはいつにも増して俺の心の奥にズカズカと入り込んできて、いつになく俺をイラつかせて、いつになく俺の熱を更に発火させて…。


「あんなクソナード…。あんな泣き虫…」


自然と握られる拳。脳裏で叫んでるデクもあの泣き虫も今は、関係ない。脳裏に焼き付いているその瞬間を振り払うように、


「どうでもいんだよ!!」


声を張り上げて、ヤツの目の前のテーブルを蹴り飛ばす。今までこれと言った感情も見えなかったヤツだったが、流石に目の前で吹っ飛んでいったテーブルには表情に少し驚いたような感情が見えた。


「ウダウダとどうでもいんだよ…てめェの家事情も気持ちも…!どうでもいいから俺にも使って来いや炎(そっち)側」


そうだ。どうでもいい。今は、今はアイツらの事なんか、家の事情も気にかけてる暇じゃねえだろう?雄英体育祭の決勝戦だぞ?此処で勝てば1位になれるんだぞ?雄英1年生の最上位、最強になれるんだぞ?しかも俺はその勝敗を決める大事な試合の対戦相手だぞ?分かってんのか?
…いや、分かってなくたっていい。テメエの中で渦巻いてる色んな事全部考えられねえぐらい、俺との試合しか集中できないぐらい全力でぶつかってやりゃあいい。下手にデクの事…アイツの事も考えられねえように。


「そいつを上から捩じ伏せてやる」


一瞬だけ此方をしっかりと見たヤツの目を睨みつけながら、俺は踵を返して控室を後にする。
体育祭が始める直前、デクに向かってヤツが真っ向から宣戦布告していたのが気に入らなかったんだ。何で成績でも個性でも遥かに上を行く俺よりも真っ先にあんなデクなんかに。…なんでアイツの名前がヤツの口から出るんだ。全てが気にくわねえ。
嗚呼、胸糞悪いし休憩時間を無駄にした感が半端ねえ。でも、これが俺なりの宣戦布告だったのだろう。そうだ、ヤツの全てを捩じ伏せて、


そんで、俺が。


休憩時間も終わって、いざ決勝戦。ワアアアと歓声に湧くステージでヤツと向かい合う。向かい合うヤツは相変わらずポーカーフェイス決めてやがるが、こっちは全てを捩じ伏せて俺の完全勝利を此処で証明する、そう考えるといっぱいで笑みが止まらねえ。どうやって目の前の相手を完封するか、とか戦う事に胸を躍らせている。


だが、脳裏でフとアイツが笑ったんだ。


『…ただ、言ったからには"爆豪様は当然、上に行くんだろうなぁ"って思っただけ』


…そんで、俺が。 トップだ。



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