「≪カァウゥンタァ〜〜〜〜〜〜〜!!!≫」


熱のこもった実況中継が会場中に響く。あれからそう時間が立たない内に無事に会場の整備が終り、淡々と試合は進んでいった。飯田くん対B組の塩崎さんの試合では飯田くんが、芦戸ちゃん対常闇くんの試合は常闇くんが勝利をおさめ、次の試合へと駒を進める。


「効かねーっての爆発さん太郎があ!!」


そして今、目の前で繰り広げられている試合は爆豪くん対切島くんの試合。爆撃で攻めていく爆豪くんだけれど、切島くんの硬化に中々ダメージを与えられていないようだった。爆豪くんの爆撃をお腹にモロに喰らってもよろけもしないなんて、きっと切島くんの個性だけの力じゃない。どんだけ体鍛えてるんだ。


「≪切島の猛攻になかなか手が出せない爆豪!!≫」

「早よ倒れろ!!」


オラオラと次々に拳を繰り出す切島くんときたら…その顔はとても生き生きとしていた。そしてその拳を避けながらいつもはそんな顔しないような爆豪くんが少し厳しそうな顔をしているのが見えた。


『切島くんいけえええ!!』

「帷ちゃん生き生きしてるね!」

『うん!私の分まで頑張ってくれるって言ったからその分、私も応援しないと!』

「…なァ俺、眞壁の言葉の裏に爆豪への恨みが見えるんだが」

「奇遇だな上鳴、俺もだぜ」

『ん?なんか言った?峰田くん、上鳴くん』

「「いいえ、なんでもありません」」


会場の応援席から身を乗り出す勢いで声を張り上げて切島くんを応援していれば、傍からひそひそと話す峰田くんと上鳴くんの声がした。2人を振り返って首を傾げながら問いかけると2人ともぶんぶんともげるんじゃないかと思うぐらい首を横に振って静かになった。と、


「≪ああ―!!≫」


プレゼントマイクの驚きの声が実況のマイクに乗って突如飛んでくる。その声に反応して2人を振り返っていた視線を会場に勢いよく戻す。そこに飛び込んできた光景に思わず「あ、」と声を零してしまった。


「って…!!」

「≪効いた!!?≫」


切島くんの左脇腹に決まった爆豪くんの拳。さきほどまで自身の硬化の個性で防いでいた筈の身体にダメージを与え、切島くんがグラリとふらつく。かなり重い一発が切島くんに決まった様子。どうして、と疑問に思うと同時にニヤリと笑う爆豪くんの表情が目に入った。


「てめぇ全身ガチガチに気張り"続けて"んだろ。その状態で速攻し掛けてちゃいずれどっか綻ぶわ」


わあ、なんて楽しそうな顔。引き攣った切島くんの表情に心中お察しする。そこからは爆豪くんの独壇場。BOOOM!!と続けてこれまた重い攻撃を放つ。どうにか耐えようとして苦しげな表情の切島くんに、気付けば「頑張れ!」なんて声をかける事も出来ずにいた。


「くっ…」


BBBBBBBBBBB…BOOOM!!


「死ねえ!!!」


容赦ない連続攻撃。果てにその捨て台詞と共に渾身の一撃をかませば、切島くんはそのままノックアウト。体中のあちこちから煙を上げて倒れ込む。完全に力負けだ。


「まァ俺と持久戦やらねえってのもわかるけどな」


戦闘不能になって倒れ込む切島くんを満足気に見つめながら笑う爆豪くんの楽しそうな顔ったらもう…。一気に勝負が決まってしまい立ち尽くしている私をチラチラと気にしながら横で残念そうに上鳴くんが呟く。


「あー、切島が良い線までいってたのになー」

「残念だったねぇ帷ちゃん」

『…はァ…』


それに合わせるようにお茶子ちゃんが声をかけてくれて、すうっと体の力が抜けたかのように座席に腰を下ろす。そして会場からこちらの方へと戻ってくる爆豪くんを遠くに眺めながら、ふと。


『…せめて死ねえ!!!って掛け声治んないかなァ』

「「え、そこ?!」」


驚く上鳴くんと峰田くんに、え?そこだけど。とキョトンとした表情で振り返る。何か変な事を言っただろうか?いや、切島くんが負けたのは本当に残念だと思うけど、やっぱり爆豪くんは強いんだなぁって思い知らされてる。堂々とした足取りで戻ってくる彼と一瞬だけ目があった気がするけど、きっと気のせいだろう。


「≪爆豪がエゲツない絨毯爆撃で3回戦進出!!これでベスト4が出揃った!!≫」


今の対戦で爆豪くん、飯田くん、常闇くん、そして轟くんの4人が準決勝進出が決定。この4人が雄英高校体育祭1学年の頂点に立つ。誰が勝ってもおかしくない。それほどまでに出場者皆がかなりの実力者だ。
そして何より、残った皆がA組の生徒だ。開始早々例の襲撃事件の件から注目を浴びていたとはいえ此処まで綺麗に残るものなのかと正直驚いている。4人の個性を知っているからこそ、A組の皆はどんなバトル展開になるのか気になるし、観客は出場者の個性はおろかその応用も分からないのだから皆胸を躍らせているに違いない。先生たちだって、どんな動きをするかとかどんな戦略で来るか注目しているだろうし、これは目が離せない。


「≪準決!サクサク行くぜ≫」


運ばれていく切島くんを見ていると、B組の方から「バッキャロー」っていう声が聞こえた気がして間もなくそんなプレゼントマイクの言葉通り、準決勝は長期戦になるかと思えば以外にもサクサクと進んでいった。

準決勝一回戦、飯田くんと轟くんの対戦では開始早々轟くんの氷が炸裂したがそれを飯田くんは個性の脚のエンジンを駆使して交わし、轟くんに重くて早い蹴りをかます。轟くんの動きが止まった瞬間一気に飯田くんが轟くんの服を掴んで駆け出した。ぐったりとしたままの轟くんがそのまま場外へと放り出されるかと思われたが、不意に今度は飯田くんの動きが止まる。
彼の個性である脚の排気筒(マフラー)にいつの間にか氷が詰まっていた。そう、蹴りを喰らったあの瞬間に轟くんが仕込んでいたのだ。俊足が封じられるや否や轟くんに一瞬のうちにピキピキと凍らされてしまう飯田くん。勝負あり、だ。


轟くん、決勝進出。


準決勝2回戦は爆豪くんと常闇くんの対戦。あれほど芦戸ちゃんや百ちゃんの時は攻撃を仕掛けていた常闇くんだったが、爆豪くんの猛攻撃に防戦一方。それもそうだ。騎馬戦のときに教えてもらった常闇くんの弱点の光…爆豪くんの爆発の光に上手く攻撃に転じられなかったのだ。しかしそのまま弱点がバレずにいればまだ逆転のチャンスはある、と踏んでいたのだが…。
やはり勘のいい爆豪くんのことだ。上手く常闇くんの後ろに回り込み閃光弾(スタングレネード)という技を繰り出し、一瞬のうちに常闇くんを地面押さえつけていた。彼は見抜いたのだ。この短時間の内に。
片手で押さえつけられ、もう片方の手を小さく爆発させている爆豪くんの悪い顔。相性が悪いことを同情しつつ「詰みだ」と常闇くんに告げる。そしてそのまま常闇くんが観念したように降参を宣言し、試合終了。

爆豪くん、決勝進出。つまり、



「≪よって決勝は 轟 vs 爆豪 に決定だあ!!≫」


ワアアアアアと沸く観客の声。決勝の前に休憩時間を挟むという案内が流れ、その場に居た誰もがふう…と息をついて口を開く。宿命というべきか、運命というべきか。よりにもよってこの組み合わせ。酷く荒れそうな予感を周りも薄々感じ始めていた。


「常闇くん悔しいな……」

「俺 常闇行くと思ったわ」

「彼も無敵ではないということか」


会場を後にする常闇くんを見つめながらとても残念そうに呟くお茶子ちゃん。瀬呂くんの考察に上鳴くんが知的っぽく返しているのを横目に、さきほどひょっこり帰ってきた切島くんが爆豪くんを見下ろしながら呟く。


「光が弱点か?なるほど…爆豪(あいつ)そういうとこ突くの好きだな…」

『相手は選べないし、本当に運だよこれは。…ってか怪我大丈夫?』

「あ?おおう!これぐらい何ともないぜ!…それよりゴメンな!負けちまった」

『ん。謝んなくたっていいよ。ご苦労様』

「おう」


仮にも仇とってやんよ!と言ってくれた切島くん。負けてしまったことを謝ってくれて、本当つくづく良い人なんだなあと思う。先ほどの試合を見ていれば当然だが、依然としてとれていない頭の包帯と頬のガーゼを見ればわかる。切島くんも全力で戦ってくれたんだもんね、ご苦労様と笑えば切島くんもギザギザの歯を見せてニッと笑ってくれた。


「勝敗はともかく、今年の1年は粒揃ってるよ」

「ドラフト指名が盛り上がりそうだ」


そんな声がチラチラ聞こえてくる。そうだ、勝敗じゃない。いかに自分の全力と最善を尽くしたかをきっと世間は見てくれているだろう。今後に控えているドラフト指名のことを思い出してつい息が漏れた。


「あの2人が…どうなるんだろ……」

『…正直、想像もつかないんだけど』

「しっかり見て、リベンジだな!」

『「「 うん!」」』


ヴヴヴヴヴヴヴヴヴ…


『「「 うわあ何だ!!? 」」』


改めて傍に座っていた飯田くんの気合を入れ直した出久とお茶子ちゃんと私だが、突如小刻みに振動を始めた飯田くんに思わず3人声を揃えて叫んでしまう。恐怖だ。


「電話だ」

「電話か」

『飯田くんがどうかしちゃったのかと思った』


ホッと息をつく出久。どうやら電話の着信を知らせる振動だったらしく、決して飯田くん自身が小刻みに振動していたわけではないようだ。本気でなんか個性とか、酷使しすぎて可笑しくなってしまったのかと思った。


『(さて、と)』


この休憩の後、どのような展開が待って居るのか。2人がどのような戦闘を繰り広げるのか、全然想像もつかないし予想もできない。2人とも成績も1位と2位を争うほどに優秀だし、此処まで上り詰めてきた実力者だ。本当に結末は分からない。しかし、どちらかが勝ち、どちらかが負ける。それは避けられないし、どちらが勝っても負けても不思議ではない。これから始まる今日最大の山場に不安を募らせると同時に胸を躍らせるしかなかった。



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