※爆豪目線




「リカバリーガールの元へ」


そのミッドナイトとかいう審判やってるヒーローの声に従うように、今回の大会の医療班であろう2台のロボが持ってきた担架にアイツを乗せて連れて行く。腕で顔を隠していたから表情が見えなかったが、とんでもねェぐらい不細工な顔してんだろうな。


「≪ああ眞壁…ウン。爆豪一回戦とっぱ≫」

「≪ちゃんとやれよ、やるなら…≫」


なんて気の抜けた解説だろうか。先生たちの私情たっぷりの解説もそこそこに、兎にも角にも俺の試合は終わったし此処にずっといる意味はねェ。クルリと体を反転させ、何事も無かったかのように入場時とは逆に会場を後にする。


「≪さァ、気を取り直して一回戦が一通り終わった!!小休憩挟んだら早速 次行くぞー!≫」


流石に連続して爆破を繰り返していたせいか腕が熱ちィし、少しズキンズキンと鼓動に合わせたように少しだけ痛みのようなものが走る。…ったく、泣き虫の癖に下手に粘るからだ馬鹿が。


『真っ向勝負で行くよ。"勝己"』


妙にアイツの声が頭に残る。あの、交戦的な目。あの攻撃的な技。今までのアイツだったら考えられないような姿ばかりを見た。試合が始まる前からアイツは目をぎらつかせていた。だからこっちも油断できなかったのは事実。だが、まさかあんな隠し玉持ってるなんて聞いてねェし、知らねェ。アイツが攻撃できるようになっていただなんて、俺は知らなかったんだ。
予想していた動きよりも速く。自分自身を守るだけにバリアを張るだけじゃなくて、それを色々な使い方をして俺を会場から弾きだそうとしていた。まあ、俺には適わなかったが。でも、内心驚いてた。それは認める。俺は、アイツをかなり嘗めてたみてェだ。


「!」

「!」


会場から奥へと引っ込んで次の試合に備える為に応援席に向かう通路の階段を上って居た時、不意にあらわれたその存在と互いに目が合った。


「うわあ かっちゃん…」

「んだてめェ 何の用だ死ねカス」


デクだった。俺が声を発するより前に何とも情けねえ声を上げて、顔を引き攣らせてやがる。何が「うわあ」だ。クソ、それはこっちの台詞だってんだ。お互い、不本意でバッタリと会ってしまったとしても何だってコイツに会わなきゃならねえんだ。


「いや…次 僕だから…控え室で準備…あと…一回戦おめでとう…」


しどろもどろに顔を引き攣らせながらそう言って「じゃあ…」と、階段の上に横切るようにして続いている通路をそのまま進みこの場を去ろうとするデク。てめェなんかに祝われても嬉しかねェよ、阿呆か。


「てめェの入れ知恵だろ。あの捨て身のクソ策は」


その場を去ろうとするそのデクの背中に気付けば声をぶつけていた。きっとそうだ。アイツがあんなに攻撃的に走ったのも、あんだけ無茶して飛び込んできたのも全部、デクの入れ知恵に違いない。俺の攻撃の特徴も、動きも、認めたくはねェがそれなりに経験してきたのがこのデクっていう生き物だ。


「厄介な事しやがって。ふざけんじゃ…」

「違う……」


びくりと肩を震わせて立ち止まっていたデクが真っ向から俺の言葉を否定しながらこちらを振り返った。何が違うんだ?あ?てめェがアイツに色々と教えたんだろうが。アイツが違う中学に行って俺から離れていた期間を埋めるために、俺の技とか俺も気付かねえようなぐれえの癖とか、全部教えたんだろうが。クソ、なんて真っ直ぐな目ェしてこっちを見やがる。


「全部……帷ちゃんが君に勝つ為に考えたんだ。毎日毎日放課後まで訓練して、技を習得する為に努力してた。…さっきの試合で厄介だと思ったんならそれは…」


俺に勝つためにアイツが?全部?デクの力も借りずに?…そういや、体育祭の準備期間に入ってすぐの辺りから授業終了の鐘を合図に真っ先に教室から飛び出して行ってたな。デクが声かけようとしても見向きもしねェぐらいの勢いで教室出て行ったアイツの姿見て、「デクの奴、ザマアみろ」とか思ってたけどまさか奴が体育祭に備えて訓練の為にアイツが毎日教室を飛び出して行ってただなんて。そんな、


「帷ちゃんが君を翻弄したんだ」


デクの言葉に俺は何も言い返せなかった。アイツが、アイツの力だけで俺に挑んできたという事実と、その力に翻弄させられたとは認めたくはねェが自分の腕が熱くなっているという事実だ。そして、あの攻撃的な表情が忘れられないのも否定できなかったからだった。



―――…



「じゃあいくね」とだけ言い残して、俺をその場に取り残して行ったデクの背中を不本意ながら見送った後、デクの向かった方向とは逆の通路を進みA組の応援席に向かう。


「おーう。何か大変だったな悪人面!!」

「組み合わせの妙とはいえ、とんでもないヒールっぷりだったわ爆豪ちゃん」

「うぅるっせえんだよ黙れ!!」


応援席に着くや否や先ほどの試合の感想が投げかけられる。しょうゆ顔もカエル顔もうるせえんだよてめェら。俺がどんな試合をしようが関係ねェだろうが。むしろ、あんだけ本気の奴相手に手ェ抜けとかてめェ等のほうがよっぽど酷ェ事言ってんぞ。


「まァーしかしか弱い女の子によくあんな思い切りの良い爆破出来るな。俺はもー、つい遠慮しちまって…」

「完封されてたわ、上鳴ちゃん」

「……あのな、梅雨ちゃん…」

「フンッ!!」


俺が席に着くまでベラベラと感想を投げる奴もいれば、苦い顔をしている奴もいる。まぁ、さっきの試合は傍から見てみりゃぁ、そりゃぁ酷でェ試合だったに違いねェだろう。だからこそ途中でブーイングも起きた。こいつらA組にとってみれば苦い顔をするほかねェぐらいの試合だっただろう。
…だがな、俺にも言い分ってもんがある。俺があれぐらいしなきゃアイツは止まらねェ。アイツを押さえきれねェ。それぐらい、アイツが突進してきたんだ。全力をぶつける相手を押さえつけるにはそれよりも上の力で対抗しなきゃならねえんだ。


「どこが か弱ェんだよ」


俺を真っ直ぐに見据えた目が、脳裏に焼き付いて離れやしねェ。女だからって嘗めてると痛い目みるのが証明されたように感じた。吐き捨てるようにそういえば、微かにカエル顔の方から小さくケロケロと笑った声が聞こえた。



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