―初めて彼の名前をフルネームで呼んだ気がする。


『…相変わらずやってるね。"爆豪勝己"くん』


息を吐くように自然と言って見せると彼の目がハッと見開かれる。ようやく此方の事を思い出したようだ。「てめ、」と短い声が聞こえて、彼が立ち上がろうとしてガタッと椅子が音を立てた気がする。しかしそれを遮るようにガラッと背後のドアが開き、「あ!そのモサモサ頭は!!」なんて声を上げながら1人の少女が入ってきた。


「地味めの!」


出久を見るなりこの子なんか凄い事言った。なんて思って見ていれば、可愛らしいその少女はふんわりと笑いながら「受かったんだねぇ!!」とか何とか出久と話している。どうやら入試試験の時に2人は出逢って、色々とあったらしい。
少女の浮かべる笑顔に不思議とこのクラスでもやっていけそうな気がする。その明るい雰囲気に自然と口元が緩む。と此方の存在にも気づいてくれたようで「初めまして!」と言うものだから、こちらも先ほど彼に向けた笑顔とは違う笑みでニッコリ笑って「初めまして」と返した。横の出久が顔を真っ赤にしているのを横目に。


「今日って式とかガイダンスだけかな?先生ってどんな人だろうね、緊張するよね」

『そうだねぇ』


上手く話せない状態にまで顔が真っ赤になっている出久を横目にその少女とのんびりとした会話を交わす。嗚呼、やっぱりこの子居るだけで何か安心する…このクラスでもやっていける―…。


「友達ごっこしたいなら他所へ行け」


へへへ、なんて笑いあっていれば不意に少女の背後から聞こえた声に出久も私も思わず固まった。視線を反射的にその声の方に向けると、少女の後ろ…廊下に寝袋に包まれた状態で転がっている1人の男が居た。まるで蓑虫のような状態のその男は、スッと10秒チャージのゼリー飲料を取り出し、徐に口に当てると


「此処は、ヒーロー科だぞ」


ヂュッ!!と凄い音を立てて一瞬で吸い尽くした。そして不審者にしか見えないその男は寝袋状態のままムクリと起き上がる。その男の容姿と言い、雰囲気に誰もが言葉を失って同じ事を思っていた。


なんか!!!いるぅぅ!!


ゆっくりと寝袋から出てくる男はどこからどうみても不審者である。未だに眠たそうな表情で男は自分を見つめる教室内の生徒たちを見回し、教室内がシンと静まり返った所でその怠くて重そうな口を開いた。


「ハイ、静かになるまでに8秒かかりました。時間は有限、君たちは合理性に欠くね」

「≪先生!!!?≫」

「てことは…この人もプロのヒーロー…?」


言動と言い、いつの間にか教室内に入り込み教壇の前に立ったあたり、どうやら雄英の先生らしい。不審者と思っていた男がまさかの先生と知り、口には出さないものの驚いている生徒は少なくない。況してや、雄英の先生というのは、世間でもプロとしてしっかり働いているヒーローでもあるのだ。ヒーローマニアの出久ですら覚えが無いと言う事はよっぽどのマイナー枠なのか、若しくは新人なのか…否、後者は無いか…。


「担任の相澤消太だ よろしくね」

(担任!?)


しかも担任だと紹介したものだから、教室中の驚きは最高潮だ。何せ人生を決める新生活の初めの担任がこんな怪しさ満点の今の所黒い印象しかない男だと言われれば、誰もが驚くだろう。しかし、まだまだ驚くのは早かったとこれから知ることになる。


「早速だが、体操着(コレ)着てグラウンドに出ろ」


脱いだ寝袋の中から体育着を引っ張り出しながら言う先生に、その場の誰もが「は?」と頭の上に?を浮かべて一瞬固まった。が、付け足しに早くしろと急かされると複雑そうな顔をしながらも皆、自身の体育着を取り出し更衣室に向かい始める。それに習って、私も自身の体育着を取り出しつつ更衣室に向かう。


『…これから入学式なのに、制服じゃなくて体育着って…』

「それ!私も思った!変だよね!」


つい独り言を呟きながら廊下を歩いていると、いつの間に並んでいたのかあの出久に地味の!と言いながら教室の扉を開けた少女が居た。私の言葉に共感するかのように真剣な面持ちでうんうんと頷いている。


「学校の特色?でもやっぱり変だよね〜」

『………うん』

「あ、ゴメン!自己紹介がまだだったね!わたし、"麗日 お茶子"!」


まさか独り言に返事を返されるなんて思っても見なかったので、一瞬ポカンと固まってしまっているとハッと何かに気づいたように少女は自分の名を名乗った。更には名前も名乗ってないのにベラベラ喋ってゴメンね。なんて謝られてしまった。
そんな事無いよ、と思わず慌てて首を振る。こっちこそ名前も名乗って無かった。っていうより、こういった自己紹介を兼ねた出席確認もガイダンスも無く、いきなり現れた担任を名乗る不審者に体育着に着替えろと言われているのだから名前が分からなくて当然だ。


『私は"眞壁 帷"。宜しく』


じゃぁ帷ちゃんだね!私の事はお茶子で良いよ!これから宜しく!なんて笑顔で言われれば、こっちも笑顔になる他なかった。…お父さん。入学初日で素敵な女の子の友達が出来ました。



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