皆の目が、マジだ。自分自身がその立場でなくともプレッシャーの重みを考えるだけで耐え切れなくなりそうだ。明らかに今、"出久"はほとんどの人を敵に回したようなもの。まさかの展開に出久自身も驚いているのだろうが、そんな暇も許されない。


「制限時間は15分。振り当てられたPの合計が騎馬のPとなり、騎手はそのP数が表示された"ハチマキ"を装着!終了までにハチマキを奪い合い保持Pを競い合うのよ」


淡々とルールを話していくミッドナイト。P数の表示されたハチマキは騎手が首から上に装着する事、またハチマキはマジックテープ式で取れやすいとかなんとか…いけないいけない。大事なルール説明なのに、私がそれ所じゃなくなってどうする。私のポイントは高いわけでも低いわけでもないんだから大丈夫、大丈夫…。


「そして重要なのはハチマキを取られても、また騎馬が崩れてもアウトにはならないってところ!」


騎馬が崩れてもOKともなれば最早どんな攻撃を仕掛けられても可笑しくない。これは本当に騎馬を組むメンバー選びは重要になってくる。守りで固めるか、はたまた攻撃性で固めるか、バランス型やらなんやら…選び方1つで勝率も変わる。
更にこのルールではハチマキを全部奪われて0Pでも、生き残れる。つまりずっと]10〜12組ほどがステージ上に残るということ。人数が減らない分、色々な騎馬に狙われることにも邪魔される事にも変わりはない。結局これも持久戦ということか…嗚呼、まずいなぁ。


「"個性"発動アリの残虐ファイト!でも……あくまで騎馬戦!!悪質な崩し目的での攻撃等はレッドカード!一発退場とします!」


そう。それはキチンとしてくれないと困る。でなければ本当に会場が惨劇の海に成りかねない。まさに本選となった今、皆それぐらいガチで勝ちを取りに来るだろうから。頼むよミッドナイト先生。


「それじゃこれより15分!チーム決めの交渉タイムスタートよ!」

「15分!!!?」


短いのか丁度良いのか長いのかその辺の判断は人それぞれだろうが、私にとってみれば短いように感じる。けれど皆目当ての人を決めているようでその人の元へと一斉に群がっていく。…わぁ、普段人気が無い筈の爆豪くんがほぼA組メンバーに囲まれてる。
言うまでも無く中途半端なポイントの私の元へなんて誰も来ない。まぁ、明らかに避けられている様子の出久とは訳が違うが。私も急いでメンバーを探さなきゃ。単に余り者同士で組んでも仕方ない。出来る限り、希望の通る子を。自分の個性と相手の個性の相性やお互いに活かせるような子と組まなければ。そう考えれば考えるほど、脳裏に過ぎるのはやっぱり馴染みの顔2つ―。


「帷、ちゃん」


徐々に周りで騎馬のメンバーが固まって行く中、A組にも取り残された私は他の組でも良いから兎に角メンバーをと探し回っていた時だった。フワリ、と焦る自分を宥めるように優しい声が飛んでくる。小さく息を吐き、ゆっくりと振り返ると底に立っていたのは脳裏に過ぎった顔の内の1つだった。


『出久』

「その…良かったら僕と組んでくれないかな?」


この状況でなければ喜んで彼と組んでいただろう私の目には彼の後ろに見えない筈の1000万Pの文字が映り込む。嗚呼、本当に優しいんだから。けれど素直に「うん」とは言えない自分に嫌気がさす。
別に出久と組むのが嫌な訳じゃない。彼のPも左程私に問題は無い。ただ、そのPを守り切れる自信が無い。私のせいでPを奪われた時が怖い。自分独りならそんなリスクなんて無理にでも突破していくだろうけれど、これはチーム戦。チームの1人がしくじればチーム全員の失点になるのだ。…それが怖い。


『………私、』

「分かってる。みんな僕のPを狙いに来るだろうし…それが合理的だって事も。帷ちゃんもきっと僕なんかじゃなくて別の人と組んで僕のPを取った方が明らかに色んな企業にアピールできる。帷ちゃんの事だからチャレンジしたいって気持ちもあるんだと思う。…でも、こんな僕じゃ組んでくれる人も少なくて、況してや個性を把握できてる人も少ないから、だから―…」


少し言葉を詰まらせながら言う出久に私は思わずキョトンと驚いてしまった。違う。違うんだよ出久。私、弱虫だから。君が考えているような、そんな立派な考えで返答を困っている訳じゃない。見当違いも良いところ。いざって時に自信が持てない私に、どうしてそんな言葉をかけてくれるの。


「僕たちの力になって欲しいんだ」


そう言って真っ直ぐに私を見つめる出久の後ろで、恐らく彼の騎馬戦チームに加わったのであろう2人の見覚えのある顔がひょっこりと此方を覗き込んでいるのが見える。その内1つの顔がへにゃりと笑ってこっちに手を振るものだから思わず肩に籠っていた力が一気に抜けていく。嗚呼、本当敵わないな。


『…フ、フフ。暫定1位の緑谷出久様にそこまで言われちゃぁ断れないなぁ』

「え、」

『誘ったからには私を上手く利用してよ?出久』

「え、いや、利用だなんて、そんなつもりは―…」

『分かってる分かってる』


こうなったら全部出久のせいにしてやる。私の個性を把握している出久ならきっと考えがあるのだろう。そうだ、彼は私の弱点を知っている。なのに声を掛けて来たのだそれも考慮してくれている筈。とことん利用されてやろう。もう、私に他の考えなんて無かった。


「やったね!デクくん!帷ちゃん!頑張ろ!!」

「よろしく頼む」

『こちらこそ』


へにゃりと笑った癒し顔が目の前に迫る。私の両手を手に取って声を上げる彼女はいつになく嬉しそうだ。嗚呼、やっぱり癒される。その横でクールな彼が手を差し出してくれたから素直にその手を取って握手した。なんだか、断然やる気がわいてきた。


「≪さぁ起きろイレイザー!15分のチーム決め兼作戦タイムを経て、フィールドに12組の騎馬が並び立った!!≫」

「……なかなか、面白ぇ組が揃ったな」


本当に寝てたの先生。というツッコミを心の奥で呟きながらグッと彼の足を乗せた手を2人と息を合わせて持ち上げる。ザワザワとフィールドに出来上がった騎馬戦の組み合わせを見て会場中がどよめき合っている。
相澤先生の言う通り、私自身もフィールドを見回して見てこれは面白い組が揃ったと思った。意外な組み合わせもあれば、成程そう来たかと思う騎馬。はたまた他の組だとどんな個性で固まっているのか想像もつかないのでこれも油断ならない。さて、誰がどうしかけてくるか…。


「≪さァ上げてけ鬨(とき)の声!!血を血で洗う雄英の合戦が今!!狼煙を挙げる!!!≫」


その声と共にワアアアアと会場中が一斉に盛り上がる。その盛り上がりに合わせて一気にフィールド上の生徒たちの士気も高まる。…ってか、血を血で洗うってなんて物騒な事を。


「麗日さん!!」

「っはい!!」

「常闇くん!!」

「ああ…」

「帷ちゃん!」

『はいよ!』


キュッと出久の額に締められるこの騎馬みんなの合計Pの表示されたハチマキ。意気込む出久の声に各々が元気に返事を返す。嗚呼、何か、今何も怖くない。このメンバーならきっと大丈夫、大丈夫。私も出来る事はなんでもするから。


よろしく!!!


さあ、皆で勝ちに行こうか。



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