時間って言うのはあっという間に過ぎ去るものだ、と改めて実感した。いつものように朝起きて、授業して、帰って、寝てを何度か繰り返している内に気付けば、もう体育祭当日なんだから。


「皆 準備は出来てるか!?もうじき入場だ!!」

「コスチューム着たかったなー」

「公平を期す為着用不可なんだよ」


1-A控え室と書かれた一室の中、時刻を確認したクラス委員長こと飯田くんが声を上げる。嗚呼、もうそんな時間か。ペットボトルの水を一口飲んで息を吐く。ヨシ、気合を入れて頑張ろう。時間が戻る訳でも進むわけでも無い。この日が来てしまったらもう全力で頑張るしかないのだから。


「緑谷」

「轟くん……なに?」


お茶子ちゃんが緊張する〜と言いながらどうにか緊張を解そうと水を飲んでいるのを眺めていると不意に出久を呼ぶ声が聞こえて、自然とそちらに視線が動いた。別に私が呼ばれたわけじゃないのに。


「客観的に見ても実力は俺の方が上だと思う」

「へ!?うっうん…」


振り返った先居た人物。出久を呼んだ声の主である轟くんの言葉に、その会話が聞こえたのであろう何人かが反応して私と同じようにそちらに振り返った。そしてその誰もが驚いていた。勿論私自身も、更に言えば出久自身も。


「おまえオールマイトに目ぇかけられてるよな」

「!!」

「別にそこ詮索するつもりはねえが…おまえには勝つぞ」


なんて大胆なのだろう。聞いていた誰もがそう思った。そして遂には上鳴くんが「おお!?クラス最強が宣戦布告!!?」などと声を上げる。その横であからさま不機嫌そうな顔をしている爆豪くんと一瞬だけ目があって慌てて視線を出久と轟くんに戻した。


「急にケンカ腰でどうした!?直前にやめろって…」

「仲良しごっこじゃねえんだ。何だって良いだろ」


そんな2人の不穏な空気を悟ったのか切島くんが轟くんの肩に手を掛けるが、轟くんは切島くんを見る事無く彼の腕を振り払う。嗚呼、本当に不穏な空気。でも、それと同時に私は妙な違和感を覚えていた。私自身、轟くんの事を全て知っている訳じゃない。でも、それでも絶対にとは言えないけれど、いつもの轟くんじゃない。そう思った。


「轟くんが何を思って僕に勝つって言ってんのか…は、わかんないけど…そりゃ君の方が上だよ…実力なんて大半の人に敵わないと思う…」

「緑谷もそーゆーネガティブな事言わねえ方が…」

「でも…!!」


ポツリ、ポツリと出久が言葉を紡いでいく。クラストップ直々からの宣戦布告に以前の出久ならメンタル的にもやられていたかもしれない。でも、今目の前に居る出久は、昔の出久じゃない。ネガティブチックな言葉を並べる出久に切島くんが困り顔で諭すが、それを振り切るかのように力強く出久が言葉を続ける。


「皆…他の科の人も本気でトップを狙ってるんだ。僕だって…遅れを取るわけにはいかないんだ」


頭を過ぎるのは以前クラスの廊下に群がっていた人だかりの中で堂々と宣戦布告してきたあの普通科の少年。クラス編入…否、将来の事を全力で考えて誰もがこの日に向けて本気で準備をしてきたし、万全の態勢で今日を迎えている筈。なら、此処で退く訳には行かない。出久の眼は本気だった。


僕も本気で獲りに行く!


幾ら皆の個性が優れていても1位の表彰台を勝ち取れるのは1人だけ。A組だけじゃない、B組も普通科の人も合わせたこの大勢のライバルの中で勝ち残れるのはたった1人だけだ。


「………おお」

「……っ」


真正面からその宣戦布告を受け取ったとも受け取れるその力強い出久の言葉に聞いていた誰もが何も言えなかった。私も何も言えなかった。けど、改めて皆その大きな覚悟の中でこの体育祭に挑んでいるのだという事を実感した。

緩かった控室の空気も一気に体育祭当日の空気に切り替わってから間もなく、入場準備のアナウンスが流れ始め皆一斉に控室から外へと出る。A組はこっちだ!なんて誘導に従って皆が整列すると、途端に派手な音楽とプレゼント・マイク先生の声が場内に響き渡った。


「≪雄英体育祭!!ヒーローの卵たちが我こそはとシノギを削る年に一度の大バトル!!どうせてめーらアレだろ、こいつらだろ!!?敵(ヴィラン)の襲撃を受けたにも拘わらず鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星!!!≫」


嗚呼、随分と持ち上げられてるなぁなんて、何処か他人事。あの敵(ヴィラン)の一件ですっかりA組を見る目が変わってしまった。しかし、それを知ってA組の活躍目的で見に来ている人たちも大勢居る筈。その人たちの期待を裏切らず、それ以上の活躍をしなければ。


「≪ヒーロー科!!1年!!!≫」


控室から場内に出る通路を抜け、入場した途端に湧き上がる会場。あちこちから聞こえる鳴り響くシャッター音。泣いても笑っても体育祭当日。覚悟を決めた。私自身が此処に存在している事を証明するために。


「≪A組だろぉぉ!!?≫」



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