『お、お金…?』

「お金が欲しいからヒーローに!?」

「究極的に言えば」


食堂へ向かう途中の階段を降りながら思わず出久と一緒に驚いた声を発してしまう。お茶子ちゃんがどうしてあそこまで燃えていたのか…否、どうしてヒーローになりたいのか。そういう話になって、素直なお茶子ちゃんはすんなりとその理由を話してくれたのだ。


「なんかごめんね不純で…!!飯田くんとか立派な動機なのに私恥ずかしい」

「何故!?生活の為に目標を掲げる事の何が立派じゃないんだ?」

「うん…でも意外だね…」


バッバッとまた良く分からないキレのいい動きで説得する飯田くんの後ろで呟く出久の言葉にコクコクと頷く。お茶子ちゃんの個性なら言ってもいいのか複雑だが、ヒーローとは別の職業だとしてもかなり需要は有ると思うし、雇ってくれそうな所もあると思うのだが。
聞けばお茶子ちゃんの家は建設会社をやっているらしい。なら尚更お茶子ちゃんの個性を使えばコストもかからない。それをお茶子ちゃん自身も親御さんに提案し、そうすると実際に言ったようだがお茶子ちゃんの親御さんはお茶子ちゃんの夢を優先させてくれた方が嬉しいと言ってくれそうだ。


「私は絶対ヒーローになってお金稼いで、父ちゃん母ちゃんに楽させたげるんだ」


うん、良い親御さんにとっても良い子だ。心がじんわりと温かくなる。お茶子ちゃんの言葉に感動したしたらしい飯田くんがブラーボーなんてあまり聞き慣れない言葉でお茶子ちゃんを称えている横で、私と出久は呆然と彼女を見ていた。


『(そっか…お茶子ちゃんは憧れと同時に現実も考えて…)』


夢を叶えると同時に、その後の生活も加味している。そうだ。此処で無事に卒業してヒーローになったって役に立てなきゃ…稼ぐことが出来なければ生活なんてできない。況してやお茶子ちゃんなんて親御さんの事まで考えている。嗚呼、私なんかより全然ちゃんとしてる。


おお!!緑谷少年がいた!!

『「「「 !! 」」」』


突然聞こえてきたハキハキとした大声にその場に居た私を含め4人が同時にビクッと肩を震わせる。声の方へと振り返るとそこに居た人物に誰もが目を見開く。


「ごはん…一緒に食べよ?」

『「乙女(や)!!!」』


ブファと吹きだすお茶子ちゃんと私。それもそうだろう。そこに立っていたのは可愛らしいお弁当を持ったオールマイトが出久をお昼に誘っている光景。あの、オールマイトが…まさかのギャップに吹き出さずにはいられなかったのだ。
そんな私たちを横目に出久が「ごめんね」と謝りながらオールマイトの所へと向かっていく。別に出久のせいで一緒に食べられない訳じゃないし、オールマイトが態々出久を指名してきたのだ。断る理由も無い。それじゃぁまたあとでねと手を振り返して私たちは食堂へと向かった。


「デクくん、なんだろね」

「オールマイトが襲われた際一人飛び出したと聞いたぞ。その関係じゃないか?」

『…うん。勇敢に飛び出して行ったよ』


かなり無謀だったけど。食堂は依然として混んでいた。受け渡し口の前に生徒たちが列となっている最後尾に並びながらお茶子ちゃんと飯田くんが話す横で私は何とも言えない複雑な思いだった。


「蛙吹くんが言っていたように超絶パワーも似ているし、オールマイトに気に入られてるのかもな」


何でだろう。出久はオールマイトに憧れていたのを知っているし、そんな憧れのヒーローとご飯が食べられるなんて出久にとっては夢の様だろう。そもそもこの雄英に先生としてオールマイトが着任したときだってかなり興奮したはずだ。出久が嬉しいと、私も嬉しい。だが、何とも言えないモヤモヤがずっと胸につっかえている。あの敵襲撃事件の時から、出久が危険な方向へ引っ張られているような気がして。


「そう言えば、眞壁くんはどうしてヒーローになりたいんだ?」

『…え?』


茫然としていた私の横でお茶子ちゃんと話していた筈の飯田くんが急に此方に話を振って来た。突然の事に思わず目をパチクリしながら思わず飯田くんを見つめ返す。


「あ、確かに聞いた事無かったよね」

『えー?そんな大した理由じゃないよ』

「それは聞いてみないと分からないじゃないか」

「そうだよそうだよ。私、帷ちゃんの志望動機知りたい!」


長蛇の列もあっという間に無くなっていて、いつの間にか自分達の番になりお昼を受け取るとそのままトレーをもって空いている席へと向かう。笑って誤魔化してはみたものの、どうやらこの2人は一度気になったら聞くまで納得しない性格らしい。
席に着き、互いに向かい合って腰を落ち着かせると「頂きます」と手を合わせて自分のお昼に手を付け始める。嗚呼、白米美味しい。


「ねぇ、それで?何で帷ちゃんはヒーローになりたいの?」

『…えー…ほんと、私の理由なんて子供っぽいから』

「構わんさ」

「夢に子供っぽいも何も無いよ」

『…そんなに聞きたい?』


思わず箸を止め、2人の顔色を伺いながら問いかければお茶子ちゃんと飯田くんはうんうんと深く頷いた。そう言えばここまで私の志願理由を気にしてくれた人なんて居なかったなぁなんて思いつつ、良い機会だしと半ば諦めつつ小さく鼻から息を逃がした。


『…恥ずかしいから最初に言っておくけど…笑い飛ばして良いからね』


笑わないよぉ。なんていつもの癒されるあの表情でお茶子ちゃんが微笑む。飯田くんが僕の夢も麗日くんの夢も笑わなかった眞壁くんの夢を笑う訳ないだろうなんて真剣な表情で言ってくれるものだからいつの間にか力を込めていたらしい、肩の荷が下りたような気がした。



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