――人は、


また、彼に泣かされている子が居た。彼は素晴らしい個性を持ったことを良い事に、自分が一番―…つまりこの齢にすればガキ大将という位置に居て、誰も彼には勝てなかった。


「ひどいよ、かっちゃん…!泣いてるだろ!?これ以上は…僕が許さゃなへぞ!」

「…"無個性"のくせに…ヒーロー気取りか?デク」


況してや僕は、彼の言う通り、力どころか個性すらない。相手も相手で彼を入れて3人でこっちに向かってくるものだから、勝敗なんて最初から在って無いモノだ。


――生まれながらに平等じゃない。


そう。この世界は、酷く残酷で。頬に走る鈍い痛みがそれを現実だと突きつけていた。生まれた時から、人の有能無能が決まっているなんて、ホント酷い世界だ。


「ぐえっ!」


3対1。なんて酷い絵面。こういう時に限って、大人も居ないし誰も自分の味方なんてしてくれない。何たって、相手は"彼"だ。将来も有望で、彼の力に魅かれてついている子も沢山居る。僕独りでなんか太刀打ち出来る訳ない。
僕が無個性なんて関係無い。彼の個性で恐怖を煽られながら兎に角殴られ、蹴られ…あちこちが痛い。僕が庇った後ろで泣いていた子もいつの間にか僕が絡まれている内に居なくなっていた。嗚呼、あんまりだ。


――これが齢四歳にして知った…社会の現実。そして"僕"の、最初で最後の挫折であり、


これはまた母さんが泣くな。「ゴメン、出久。ゴメンね…」って。そう言いながら僕を抱きしめるんだ。その温もりが嫌いな訳じゃない。でも、でも、本当に母さんに言って欲しい言葉は別にあって、泣くにしても嬉し涙を流してほしい。
…まぁ、そんなの今の僕には到底無理だ。いつまで殴られて、蹴られるんだろう。僕、独りで帰れるだろうか。下手したら、今日が命日じゃなかろうかと幼いながらに思ったほど、世界は冷たかった。…でも、


『こ、こら!』

「あ?」


不意に飛んできた凛とした声。その声に運ばれてきた温かく、優しい風がフワリと頬を撫でた気がした。彼と彼の手下たちの手足の動きが止まり、飛んできたその声の方へと視線を向けていた。


『い、いずくをいじめないで!』


微かに震えているような声色の言葉に、身体のあちこちが痛くて地面に伏したままだった僕もようやく首を動かし、僕を囲って立っている彼らの足の間からその声の主の方へと視線を向けて目を見開く。視線の先に見えた1つの影に、無意識の内に僅かに口が「―――ちゃん」と動いた。


――初めて僕を救ってくれたヒーローの頼もしい姿を知った日だった。



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