※爆豪目線
デクがオールマイトの所に飛び出してからの時間が妙に長く感じたが、実際はそんなに時間なんか経っちゃぁいなかった。そして敵(ヴィラン)共もあっという間に退散しちまって、まるで今までの時間が嘘みてぇに辺りが静かになった。
俺達はただ立ち尽くしていた。オールマイトが見せたプロの力に俺達なんてまだまだだと実感してしまったからなのか…実際の所、俺もまぁ良く分からねえ。
「緑谷ぁ!!大丈夫か!?」
そんな中、まず動いたのは切島だった。呆然と立ち尽くすアイツの横を通り過ぎて、デクの方へ走って行くのが見えた。立ち昇る砂煙で良くは視えないが地面に倒れ込み、上体だけを起こして此方を見ている無様なデクの姿。…ハ、勢いよく飛び出してった割にはざまあねぇな。
だが俺は一番に違和感を覚えた。切島だけがデクに向かっていくその光景に。そうだ。いつもならアイツが一番に向かって行くはずだ。…チッ、考えるだけで胸糞悪りい。しかしアイツは動かない。否、動けないでいるように見えたっつう方が正しいかもしれねえ。
安否確認の為、バラバラにならず一旦集まれという事でセメントス?とか言う先生がデクに駆け寄って行った切島の目の前に壁を作って道を塞いでいるのが見え、その後すぐにセメントスの言葉通り此方に踵を返して戻ってくる切島が見えた。以前として、アイツは動こうとしない。
他の連中は踵を返して帰ってくる切島を待つことなく、ゆっくりとゲートに向かって歩き出している。なのにやっぱりアイツは動かねぇ。微動だにしねぇアイツの背中にその時の俺は何を思ったか気づけば声を上げてた。
「おい、いつまで突っ立ってんだ『あ、』…よ」
カクン。まさにそんな感じでアイツが視界から消える。否、消えたんじゃねぇ。そのまま真下に崩れ落ちるようにして地面に座り込んでいた。
「………」
『…………』
「………」
突然声を上げたのが悪かったのか?否、俺は何も悪いことしてねえだろ。待て待て、マジかこの女。まさか腰ぬけたとか言うんじゃねぇだろうな。え?そしたら俺はどうすりゃいいんだ?何だ、担げってか?コイツもコイツで何も言わねえし、こっち見上げたまんま疲れ切ったような、泣きそうなツラしてるし…。ん?泣きそうなツラ…?
何とも言えねぇこんな時間が延々と続くかと思われた矢先、戻って来た切島が無言のまま見つめ合ってる俺とコイツを見てギョッとしていた。
「…何してんだ、お前等」
『は、はは……なんか、力入んなくって』
「おいおい、大丈夫かよ」
『だ、大丈夫…』
地面にすっかり座り込んでるコイツと俺を交互に見る切島。するとコイツは俺に見せていたツラとは打って変わって少し困ったようなツラで切島を見る。大丈夫とか言ってるけどよ…それが、大丈夫なツラかよ。
「ほら、肩かしてやっから腕回せよ」
『あ、ありがとう、切島くん。面目ない』
「何言ってんだ」
「………チッ」
思わず舌打ちが零れる。踵を返し、切島にアイツを任せてゲートに向かって歩き出す。クソ。俺に出来ない事をなんでそう平然としやがるんだ。そもそも俺は何で声を掛けたのだろうか。そして、どうして何も言わずにアイツを置き去りにしなかったのか。そうだ、アイツを置き去りにしてあのまま直ぐにゲートに向かったって良かった。でも、実際俺は出来なかった。…嗚呼、そうだ。俺はアイツに対して、何も出来なかった。
―あの時と同じだ。