切島くんに支えられながら、ゲート前に集合するとすぐにUSJ内の別の場所に飛ばされていた八百万さんとか尾白くんたちも無事に集まって皆の無事を喜び合った。皆、それぞれの修羅場を乗り越え、無事に生きて会えたのだ。喜ばずに居られる訳がない。
皆でそれぞれ戦った敵との戦闘の状況などを聞いている内に私も徐々に回復してきたようで、歩くのはまだ少しふら付くけれど独りで立てるまでになっていた。そんな時、揃った私たち生徒の数を数えている声に皆、自然と静かになった。


「16…17…18……両脚重傷の彼を除いて………ほぼ全員無事か」


私たちの人数を確認した刑事さんのその言葉を聞いて、奇跡に近い事を今まさに実感した。実戦経験も無い、況してや入学してそれ程立って居ない生徒がぶっつけ本番でほぼ無傷の状態で戻って来れたのだ。…それも3人の先生たちが身を挺して敵と対峙してくれたお陰である事をこの場の誰もが痛感している事だろう。
きっと、生徒たちだけではやられていた。下っ端を倒して調子に乗るぐらいの私なんかじゃ、きっとあの主犯格たちとの戦いを挑めば一瞬だっただろう。逃げる事も出来ず、まるで弄ばれるように殺されていたかもしれない。そう思うだけで背筋が凍りそうだった。


「とりあえず生徒らは教室に戻ってもらおう。すぐに事情聴取って訳にもいかんだろ」

「刑事さん、相澤先生は…」


遠慮気味に蛙吹ちゃんが、一歩前に出て刑事さんに問いかける。そうだ。第一に私たちに逃げろと言って、敵に挑んで行った相澤先生。能力も未知数の敵を何人も相手にしながらあの戦況の中突き進んで行った先生はどうなったのか。蛙吹ちゃんの問いに、刑事さんは嫌な顔一つせず、ちょっと待ってね…と携帯を取り出し何処かに繋いでくれた。


「≪両腕粉砕骨折、顔面骨折…幸い脳系の損傷は見受けられません。ただ…眼窩底骨が粉々になってまして…眼に何かしらの後遺症が残る可能性もあります≫」

「だそうだ…」

「ケロ…」

『相澤先生…』


刑事さんの携帯から聞こえる恐らく医者の声。命に別状はないにしろ、眼に何かしらの後遺症というのが自棄に私たちの胸に突っかかった。なにせ、先生の個性は眼が見えなければ役割を持たないに等しいからだ。見えなくなる、とは限らないが何かしらと言われると気が気じゃなくなるのは私だけじゃない筈。


「13号の方は背中から上腕にかけての裂傷が酷いが命に別状はなし。オールマイトも同じく命に別状なし。彼に関してはリカバリーガールの治癒で充分処置可能との事で保健室へ」


敵のワープの能力によって自分で自分をチリと化した13号先生もどうにか一命を取り留めたと聞いて安心した。そして何より、皆、オールマイトの現状には驚いただろう。あれだけの力を使っておきながら保健室で充分とは一体どんな体してるんだ…。まぁ、教師3人が無事だった事が何よりだが。


「デクくん…」

「緑谷君は…?!」


ポツリ。横でお茶子ちゃんが一言を零してハッとする。続けて飯田くんが更に私の記憶を呼び起こすように彼の安否の確認に声を上げる。そうだ、出久。オールマイトの元へと飛び出して行ったとき、足を折ったらしいと聞いていたがどうなのだろう。
そもそも、どうして出久は飛び出して行ったのだろう。今だ微かに残る出久の腕を掴んでいた感覚。それがフッと消えたあの瞬間の感覚を思い出すだけで何とも言えぬ感情に襲われる。恐怖というか、哀しさというか寂しさというか…まあ、何にせよ良い感情でないことは確か。


「緑…ああ、彼も保健室で間に合うそうだ。私も保健室の方に用がある。三茶!後 頼んだぞ」

「了解」


病院では無く保健室で済むという事はそれほど大きな怪我では無かったようだ。その点では一安心である。刑事さんは一通り私たちの無事と状況を説明し終えると、近くにいたネコ顔の刑事さんに後を託し、去って行った。
「イヌじゃないんだ…」と零すお茶子ちゃんの横で、私は「そうだね」と力無く笑って返す。しかし上手く笑えていなかったようで、大丈夫?と心配もされたがちょっと疲れてるだけだよとか何とか言って言いくるめるとお茶子ちゃんも早く帰って休もうという結論で終わってくれた。


『(…はぁ)』


それから三茶さんの指示で皆バスに乗り込みひとまず学校に帰ることになった。皆も疲れているのかいつもよりは大人しく、来た時と同じバスに乗り込んでいく。
…それにしても、恐ろしい敵だった。3人の教師…プロヒーローたちが身を挺して戦って居なければ勝つことも、私たちも無事では済まなかったほどに。しかし、


『(私たちも、少しは強く―…)』


皆それぞれの個性と知識を使い、生き残ったのは確かだ。私たちも全力で、身を挺した。だからこそ今此処に立って居るのだ。今までにこんなにも早く、実戦を経験し生き残り、大人の世界を…恐怖を知った1年生などあっただろうか。…否、少なくとも私の知る歴史の中では前代未聞だ。


『……敵も、馬鹿な事したなぁ…』


思わず口をついて出てしまった独り言にお茶子ちゃんと飯田くんが少し驚いたような表情で此方を振り返る。その表情にとっさに笑いながら「ううん何でも無いよ」と零すと、2人はそのままバスに乗り込んで行った。


1-A(私たち)は強いヒーローなる。


そう思うと、本当に敵も馬鹿なことしたなぁとシミジミ思う。私たちに成長のチャンスを態々持ってきたのだから。そう思うと、今日の経験も悪くないなとか思いつつ早く帰って寝たい気持ちが徐々に勝っているのを感じながらバスに乗り込んだ。…そこからは良く覚えてない。



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