あちこちから一体何人居るんだとばかりに雪崩込んでくる敵、敵、敵…。戦っていて分かったが、どうやら私たちはあの黒い靄の男によってUSJ内の倒壊ゾーンに飛ばされたらしい。倒壊しかけたコンクリートビルの一室で戦闘を繰り広げた。


『ハァ、ハァ…』

「これで全部か、弱ぇな」


敵の雪崩れ込んでくる流れが止まった頃、少し肩で息をしている私を横目に軽く息を吐きながら爆豪くんが声を上げる。2人の個性の強さに加え、2人自身の素早さによって敵の殆んどは白目を剥いて床に伸び、最早戦闘不能どころか意識不明と化している。この人数を病院送りとか…。やっぱり敵に回したくないな、この2人。


『ハァ、ハ…ハァ…』

「大丈夫か、眞壁」

『う、うん…ゴメン…2人に頼って、ばっか、私、あんま…戦って、無かったんだけど…』

「おおお落ち着け、深呼吸しろ。な?」


時にバリアを張って2人を援護するように心がけたが、結局自分に向かってくる敵を跳ね返したり、逃げまわったり、時にはどうにか体術で応戦している内に体力をごっそり持って行かれてしまったようだ。
心は元気なんだけど体が付いてこない感じ。話したいのに上手く言葉が続かないのを見て、切島くんが慌てて背中をさすって深呼吸を促してくれる。前も彼が摩ってくれたっけ、なんて思いつつも落ち着いて呼吸を繰り返せばゆっくりと体が楽になって行く。


『体力、付けなきゃ…』

「いやいや、眞壁の援護ホント助かったぜ?な、爆豪」


意外とバリアを張るにも集中力だったり、とっさの判断をしなければいけないので脳が疲れるのだ。座り込むまで行かないにしろ、この程度で息が上がっているようでは今後持久戦になった時辛いのは自分自身だ。まるで疲れを見せない2人に習って少し体力付けよう。
立ったまま前屈みになり、膝に手を添えて支えていれば切島くんが背中をさすっていた手を止めて爆豪くんに同意を求める。周りに敵がいないか見回していた彼の視線が此方に向いたのを感じた。


「……別にコイツの力なんて無くたって俺は何ともねえよ」

「おいおい」

『ありがと、切島くん』


良いの、といって切島くんの手を掴む。切島くんが助かったって言ってくれただけで十分だからと笑えば、そうかと返してくれた。動けるか、と聞かれたから大丈夫と答える。切島くんのお陰で呼吸も楽になったし、戦闘も一段落ついた為に少し脳の休憩が出来た。何より、此処で音を上げてる暇はない。


「っし!早く皆を助けに行こうぜ!俺らがここにいることからして皆USJ内にいるだろうし!攻撃手段少ねえ奴等が心配だ!」


切島くんの言う通り、まだきっと他のエリアで戦ってる人達がいる筈。私の場合、攻撃に特化したと言っても過言では無い爆豪くんと切島くんと同じエリアに飛ばされたから何とかなったが、きっと私一人で敵のど真ん中に放り出されれば何も出来ずに殺されていただろう。バリアだけで戦闘に対応するのには限度がある。
似た状況に陥ってる人が他にもいるかもしれない。なら一刻も早く皆と合流するのが得策だ。1−Aのメンバーが1人でも欠けて堪るか。


「俺と爆豪が先走った所為で13号先生が後手に回った。先生があのモヤ吸っちまえば、こんなことになってなかったんだ。男として責任取らなきゃ…」


どうやら切島くんは自分達が先に飛び出したせいで13号が対応できなかったことを悔いているらしい。
13号の個性はブラックホール。下手したら敵どころか切島くんたちまで巻き込んでしまう為に行動できなかったのだろう。それを言うなら、私もとっさに前に出た癖にバリアを張る事無く飛ばされてしまった。上手く張れていれば状況が変わっていたかもしれない。まぁ、今その事を反省しても仕方ない。起きてしまった事は起きてしまった事だ。


『男の責任はともかく、合流は賛成。あちこちに態々散らされたって事は敵も此方の個性を把握してる訳じゃないと思う。生徒とは言え私たちが集結して攻撃してくるのを恐れたって事じゃない?』


そう、切島くんの言う男の責任は兎に角。散り散りに飛ばれた事から考えて、相手は此方の能力を分かっていないと見てもよさそうだ。それに、此方の力を恐れているととっても良い。でなければ、こんな子供相手に大勢の敵の居るエリアに少人数ごとに振り分ける訳ない。一か所に集めて、一斉に倒せば楽な事は無い。しかしそれをしなかったのだから。
これがヒーローの卵の強みといっても良い。まだ世間に出ていない分、自分自身でしか個性の強みと弱点を知らない生徒が多い。可能性を秘め過ぎていて、相手に恐れられているのだ。なら、バレるより前に敵を倒してしまうのが得策だろう。


「行きてぇなら2人で行け。俺はあのワープゲートぶっ殺す!」

『え、』

「はぁ!!?」


今まさに皆を助けに行こうという方向性が見えてきた所で、爆豪くんがその道を真っ二つに折った。思わず驚きの声を零してしまう私と切島くん。切島くんに関しては、何言ってんだお前、ぐらいの勢いである。


「この期に及んでそんなガキみてぇな…それにアイツ攻撃は…」

「うっせ!敵の出入口だぞ。いざって時、逃げ出せねぇよう元を締めとくんだよ!」


そう言えば、あの黒い靄を纏った男が靄を広げた事で敵がこのUSJになだれ込んできたし、私たちも散り散りにされた。オールマイトに息絶えて頂きたいとかなんとか言っていたし、恐らくヤツは敵の主犯の1人であることは間違いない。
私たちが無事合流出来て、皆で大勢の敵を倒せたとしてもアイツが残っていれば、主犯たちは恐らく逃げられてしまう。折角倒してもそれでは意味がない。それを爆豪くんは懸念しているのだ。流石、喧嘩を売ってきた相手の逃げ道を塞ぐ作戦か…。そして何より、アイツの個性が靄だとすれば恐らく通常の攻撃は無効に近いだろう。それを爆豪くんが分かっていない筈ない。なのにそう言い切るのにはきっと訳がある。


『…爆豪くんの事だし、何か考えが無いわけじゃないんでしょ?』

「…ったりめェだ」


そこまで言いきって、何も考えてねえとか言われたらそれこそ唯の戦闘狂である。ぶっきら棒ながらにも"考えがある"と返事を返され内心ホッとする。と、不意に爆豪くんの背後に見える影。傍に居た切島くんもそれに気づいたのか、ピクリと反応した気がしたが私は何も動かずに冷たい視線でその影を見ていた。


「つーか、」


BOOOM!爆豪くんの背後から迫っていた1人の敵。しかしその気配を逸早く気づいた爆豪くん本人が振り返る事無く敵の突進を避け、敵の頭を掴み爆破した。


「生徒(おれら)に充てられたのがこんな三下なら大概大丈夫だろ」

『…だね』


焦るでも無く、また1人と病院送りを決定させた爆豪くんに私は同意するしかなかった。皆の事は心配だし、主犯の男達は油断ならないがこの三下と呼ばれても仕方ないような、寄せ集めのような敵たちに皆が負ける訳ない。
戦闘に関してセンスの塊と謳われた爆豪くんとだけあって、色々と考えているし皆の事もそれほど心配していない。信頼、はしていないのかもしれないがこれぐらいの相手が倒せなければ雄英に入ってねえだろと言わんばかりだ。そのブレない姿勢に思わずこちらまで不安が吹っ飛んでしまうのだから不思議だ。そんな冷静に物事を判断している爆豪くんが珍しかったのか、あれ?と頬を掻く切島くん。


「つーかそんな冷静な感じだったけ?おめぇ…」

「俺はいつでも冷静だクソ髪やろう!」

「ああ、そっちだ」

『そこでホッとするのも可笑しくない?』


いつも怒鳴り散らしているイメージが強いのか、切島くんにいきなり冷静さについて指摘されると爆豪くんが声を張り上げ、しまいには中指まで立ててみせる。それに対し、切島くんがホッとしているのを見て思わず私は苦笑する。どんだけイメージ偏ってるんだ。


「じゃあな、行っちまえ」

「待て待てダチを信じる…!男らしいぜ爆豪!ノッたよオメぇに!」


さっさと行けとばかりにガコッと腕の装備を弄る爆豪くんに、待ったをかけながらガチインと硬化した拳と拳をぶつけて笑う切島くん。これで私たちの方向性は決まった。私一人で皆の元に合流しても仕方ない。なら、2人が前だけ見て突っ走れるように私が2人の背後の守りをしっかりしなければ。


『はぁ…仕方ないなぁ』


取り敢えず飛ばされる前の広場に向かう。確か、ゲートを潜る前に見たこのUSJの全体図によればこの倒壊ゾーンから広場までは遠くない筈…寧ろ近い方だ。そこに爆豪くんが言う黒い靄の男とあの体中に手が付いている男…つまり主犯格たちは居る。連中の狙いがオールマイトなら、彼がまず駆けつけるであろうゲートの前で待ち構えている筈だ。それにまだ相澤先生があそこで戦っている。生き残った皆もそこを目指すだろう。



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