マスコミ騒動の翌日。午後の授業の開始を告げるチャイムが鳴り響く。本日の午後の授業はヒーロー科の皆が大好きなヒーロー基礎学だ。いつも通り、皆それぞれの席に着き授業に備えていればチャイムが鳴り終わるとほぼ同時に相澤先生が教室に入ってきた。


「今日のヒーロー基礎学だが…俺とオールマイトそしてもう1人の3人体制で見ることになった」


なった、という事は前は違うカリキュラムだったのだろうか。そんな考えが一瞬、頭を過ったがまぁ色々と先生たちの方にも事情があるんだろうしと特に気にしなかった。それよりも気になったのは、相澤先生とオールマイトと一緒に教えてくれるというもう1人の先生だ。


「ハーイ!なにするんですか!?」

「災害水難なんでもござれ。"人命救助訓練"だ」


瀬呂くんが挙手し質問すると先生は徐にRESCUEと書かれたカードを取り出し、掲げる。その文字にクラス中がざわめく。無理も無い。何たって人命救助はヒーローの醍醐味だ。ヒーローになる以上、必ず関わってくる重要な事なのだから。


「レスキュー…今回も大変そうだな」

「ねー!」

「バカおめーこれこそヒーローの本分だぜ!?鳴るぜ!!腕が!!」

「水難なら私の独擅場ケロケロ」

「おい。まだ途中」


苦笑する上鳴くんに芦戸さん。それに対し、明らかなやる気の意志を見せる切島くんと梅雨ちゃん。ついに人命救助の訓練が出来るとあって、盛り上がり始めるクラスにピシャリと相澤先生の声が制止をかける。


「今回コスチュームの着用は各自の判断で構わない。中には活動を限定するコスチュームもあるだろうからな。訓練場は少し離れた場所にあるからバスに乗っていく。以上準備開始」


説明を一通り終えるや否や、先生は移動の準備の為なのかそそくさと教室を後にした。先生も出て行き、自分達もさっさと準備に取りかかろうと委員長になった飯田くんがテキパキと皆を急かし始める。
コスチュームの着用は自由と言っていたが、クラスの殆んどが教室の壁に収納されていた自分のコスチュームのケースを取り出し、更衣室へと向かって行く。私も特に場所を限定するようなコスチュームでもないし、体操服よりは動きやすいかと自分の棚からコスチュームを取り出し、皆の後を追った。

コスチュームに着替え、校舎を出た皆が玄関前に止まっているバスに向かって歩き始めるのに習い、お茶子ちゃんの横に並びながら足を進める。どんな所で訓練するんだろうねぇなんて他愛ない会話をしていると、フとお茶子ちゃんの視線に出久の姿が留まった。


「デクくん体操服だ。コスチュームは?」


お茶子ちゃんの言う通り、前を歩いていた出久は装備しているものはコスチュームの装備のようだが、服自体は体操着だった。周りがコスチュームな分、少し浮いて見える。


「戦闘訓練でボロボロになっちゃったから…」

『…嗚呼、どっかの誰かさんのせいでねー』


今現在出久のコスチュームはサポート会社に頼み、修復待ちとのことだ。困ったように言う出久に帷は斜め前を歩く出久のコスチュームをボロボロにするまで戦闘訓練を行った張本人の背中を見つめながら態と聞こえるか聞こえないかの声量で言い放ってやった。すると、前を歩いていた彼に聞こえたらしく静かに首だけ動かして此方を振り返った。


「…んだよ」

『別にー』


ムスッとした表情で振り返った彼に、傍に居た出久がドキリと肩を跳ね上げていたがその不機嫌さを真っ直ぐに向けられていた帷本人はこれといって動じる事無く、平然と言葉を返すと意外にも彼はそれ以上何も言わず視線を前に戻し、バスに乗り込んで行った。
そんな後姿を眺めていれば、バスの前で2列に並んで乗り込もう!とテキパキ指示を出す飯田くんが見え、横で出久が飯田くんフルスロットル…と呟いているのが聞こえた。取り敢えずまだバスに乗り込んでいない皆が飯田くんの指示通りに並んでバスに乗り込むんだ。

しかし、いざバスに乗り込むと座席が予想していたものとは違いクラス全員を乗せたバスが目的地に向かって動き出すと、そのバスの中では「こういうタイプだったかくそぅ!」と意気消沈している飯田くんの姿があった。
まぁまぁそこまで落ち込まなくても、と周りが少々困り顔ながらも笑いながら飯田くんを宥めている。本当に真面目だなぁと向かいの席に腰を下ろした私もその光景に小さく微笑んだ。


「私思った事を何でも言っちゃうの、緑谷ちゃん」

「あ!?ハイ!?蛙吹さん!!」

「梅雨ちゃんと呼んで」


右隣に座っている梅雨ちゃんが、更に右隣りに座っている出久に何の前触れも無く声をかけた。突然声を掛けられた事に驚きながらも彼女に返事を返す出久に、梅雨ちゃんはもう何度聞いた事か苗字呼びの人には必ず言うその一言を呟いてから徐に出久の方へと真っ直ぐ視線を移した。


「あなたの"個性"、オールマイトに似てる」

「!!!!」


あ、そういえば。なんて思うと同時に出久が尋常じゃないほど驚いた表情を浮かべたものだから此方の方が驚いてしまって言葉を失う。そんなに驚かなくても。


「そそそそそうかな!?いや、でも僕はそのえー」

「待てよ梅雨ちゃん。オールマイトはケガしねぇぞ。似て非なるアレだぜ」

『あー…確かに』


憧れの人と似ていると言われた事に興奮しているのか、明らかに落ち着きを無くした様子の出久。しかし梅雨ちゃんに言われた時は確かに似ているような気もしたが、切島くんの意見を聞いて納得する。彼の言う通り、オールマイトは怪我なんてしない。
誰一人として"個性"がまったく同じという事はあり得ないのだ。皆、似ている能力は世の中に居たとしてもそれがまったく同じ能力では無い。例えば火を使うにしても、爆豪くんのように汗から発火や爆発させたりする個性もあるし、単純に口から火を吹くなんて個性もいる。まぁあくまで例えだが。


「しかし増強型のシンプルな個性はいいな!派手で出来る事が多い!」


左隣に座っている切島くんが徐に自分の腕をピキピキと硬化させ、あっという間に肘あたりまでガチガチに固くなった片腕を軽く掲げて見せる。


「俺の"硬化"は対人じゃ強えけど、いかんせん地味なんだよなー」

『そんな事無いよ!切島くんの個性ならプロにも十分通用できると思うし、私好きだなー』

「そうか?」


硬化させた自分の腕を見ながら地味という切島くん。しかしその個性は地味なんて事は決してない。攻撃に特化していない私にとって、切島くんの能力は憧れる。何たって、硬化する事で守りも攻めも出来るのだ。憧れない訳がない。ニッコリと笑いながら私がそう言うと切島くんは少し複雑そうな顔を浮かべながらも「あんがと」と笑ってくれた。


「プロなー!しかしやっぱヒーローも人気商売みてえなとこあるぜ!?」


切島くんの能力はきっとプロの世界でも通用する。しかし、実際のところ実力がどうのというよりも個性の派手さやキャラの濃さで人気が出ているヒーローも世の中に居るのは確かだ。ただ単に能力が優れていればいい、という訳でも無いのだから難しいところだ。


「派手で強えっつったらやっぱ轟と爆豪だな」

「ケッ」


私たちの座る座席とは違い、バスの後部に当たる位置にある座席は普通のバスの座席の形になっており、私の左側…切島くんを挟んだ向こう側に座る爆豪くんが自分の名が話に出て、一瞬表情を変える。だが直ぐに気に喰わなそうに視線を逸らす爆豪くん。
きっと轟くんと並べられたのが気に喰わなかったのだろう。切島くんに悪気はないだろうが爆豪くんと並べられた当の本人である轟くんは視線を逸らした爆豪くんの後ろの席で眠っている。疲れてるのかな、と彼の顔をマジマジ見つめていると不意に視界に爆豪くんの顔が映り込んだ。


「爆豪ちゃんはキレてばっかだから人気出なさそ」

「んだとコラ出すわ!!!」

「ホラ」


私の隣から梅雨ちゃんがまた何の前触れも無くそう言うと、視線を逸らしていた爆豪くんがいきなり此方を振り返りかなりの声量で怒鳴り散らすものだから、思わず目を丸くしてしまった。まさか、思った事を正直に言っちゃうとは言え、爆豪くんにまで言えるとは…流石梅雨ちゃんである。


「この付き合いの浅さで既にクソを下水で煮込んだような性格と認識されるってすげぇよ」

「てめぇのボキャブラリーは何だコラ殺すぞ!!」


更に梅雨ちゃんの言葉に怒りを憶えている爆豪くんに追い打ちをかけるように私の向かいに座っていた上鳴くんがニヤニヤと笑いながら言う。と、案の定火に油を注ぐが如く、爆豪くんの怒りのボルテージは上がって行く。
皆あの戦闘訓練で暴れていた爆豪くんを見てたくせによく弄れるなぁなんて思いつつそのやり取りを眺めていると、いつも虐める側だった爆豪くんが弄られている事が信じられないのか、横で小さく頭を抱えながら震えている出久が見えた。確かに、これは新鮮で面白い。


『プ、フッ』

「…おいお前、今笑ったな…!」

『え?何のこと?爆豪くん』

「ッ!こんのっ!!」

『キャー、タスケテ切島くーん』

「おおぅ!?ちょ、眞壁!俺を盾にすんな!」


思わず笑みを零せば、繊細になっているのか爆豪くんはすぐさま反応した。座席を乗り越えてまで絡んできそうな爆豪くんにとっさに隣に居た切島くんの背に隠れながら棒読みで助けを求めると、私と爆豪くんの丁度間に位置するところに座っていた切島くんは、明らかに困っていた。


「おいおい爆豪、落ち着けって!」

「コイツ…前から色々と気に喰わなかったが、何より全部棒読みなのが気に喰わねぇ…!」

『(そこ…!?)』


嗚呼、爆豪くんってからかうと面白いんだなぁなんて、すっかり雄英のノリに溶け込み始めている自分に驚きながらも「んべー!」と切島くんの背中の影から舌を出して見せる。すると、更に爆豪くんは怒ったように目尻を吊り上げていた。終いには表出ろと言われそうな勢いである。


「低俗な会話ですこと!」

「でもこういうの好きだ私」


こんなくだらないやり取りですら傍の座席に座っていたお茶子ちゃんは楽しそうに笑っていて、八百万さんは少し不機嫌そうに表情を歪めていた。


「爆豪くん。君、本当口悪いな」


今にも暴れ出しそうな爆豪くんに、いつも冷静な飯田くんが呆れたように口を開く。本当、飯田くんは入学当初から爆豪くんの口の悪さに縁があるというか…寧ろ彼の口の悪いところしか見ていないんじゃないかとすら思う。


「もう着くぞ。いい加減にしとけよ…」

「≪ハイ!!≫」


そんなこんなで騒がしかった車内に、ふと今まで居たのかと思うぐらい大人しかった相澤先生の声が響き渡り、車内は自然と静かになった。


―――…


それからそう時間も経たない内にバスは目的地へと到着した。学園内をバスでこれほど移動しなければならないとか、本当にこの雄英の敷地はどうなっているんだ。
静かに停車したバスから相澤先生を筆頭に飯田くんの指示で順番に並びながら降りると、その目の前に広がる光景に男子たちは異様な興奮を覚えたらしく、目をキラキラさせる。


「すっげーーーーー!!USJかよ!!?」


バスから降りて広がる光景。まるでテーマパークのような演習場だった。あちこちにアトラクションのようなものが見える。あちこちに目を引くモノがあり、目が足りない。最早演習場というより、本当にUSJに来てしまったのではなかろうかと思わざるを得ないほど広い。これほど早く授業したいなんて思った事が今までにあるだろうか。


「水難事故、土砂災害、火事……etc. あらゆる事故や災害を想定し僕がつくった演習場です、その名も……ウソ(U)の災害(S)や事故(J)ルーム!!」

『(USJだった!!)』


テーマパーク並みの演習場の入口。ゲートの前で皆がすげーと声を上げていると不意に横から飛んできた声。しかもその声の説明を聞いて、此処が本当にUSJだったことを知る。
そんな説明をしてくれた声の主の方に視線を向けると、まるで宇宙服のようなコスチュームに身を包んだ人が立っていた。否、見覚えのあるヒーローがそこに立っていた。


「スペースヒーロー"13号"だ!災害救助などでめざましい活躍をしている紳士的なヒーロー!」

「わーー!私好きなの13号!」


出久の相変わらずなヒーローヲタクの説明に、傍で嬉しそうに飛び跳ねるお茶子ちゃん。そう、彼は現役ヒーローであり教員の13号。性格がとても紳士的で世間からも愛されるヒーローの1人だ。その活躍は時折ニュースで取り上げられている。
そんな有名ヒーローの1人が教えてくれるとあって皆盛り上がる中、相澤先生と13号が密かに話し始める。撃ち合わせかな?とその様子を見ていると、フと13号が3本指を立てているのが見えた。3?3、3…あれ?そう言えば、今日は3人の先生で授業するって言っていた筈だが、事前に聞いていたオールマイトの姿が無い。
遅れているのかな?まぁ朝のニュースでもあちこち走り回ってたみたいだし、世間の悪も休みなんて無いのだからオールマイトも忙しいのかもしれない。先生で有る前に、彼はヒーローなのだから。


「えー始める前にお小言を一つ二つ…三つ…四つ…」

『(増える…)』


帷の予想が当たっていたのか相澤先生が仕方ないと呟くのが聞こえ、此方に向き直ると13号先生が此方に歩み寄ってくる。そんな13号の増えて行く指の本数に誰もが良い顔はしていなかった。


「皆さんご存知だとは思いますが、僕の"個性"は"ブラックホール"。どんなものでも吸い込んでチリにしてしまいます」

「その"個性"でどんな災害からも人を救い上げるんですよね」

「ええ…」


そう、13号の個性…何でも吸い込みチリにしてしまう能力。その名の通りブラックホールだ。出久の説明からも分かるように、そのブラックホールの吸引力を利用して離れた所からでも救助を行う事が出来る。
好きだと言っていたお茶子ちゃんが出久の説明に尋常じゃないほどの速さで頷いているのが見える。彼の力によって今までどれだけの人が助けられてきたことだろう。素晴らしい力だ。だけど、彼の声色は決して自分の個性を高評価しているようには聞こえなかった。


「しかし簡単に人を殺せる力です。皆の中にもそういう"個性"がいるでしょう」


その言葉を聞いてゾッとした。今まで忘れていたわけでは無い。けれど改めてそれを思い出した。今となっては個性なんて珍しくは無いけれど、それはその個性の持ち主の思考と使い方によっては人を殺せる道具にもなりうるということ。だから、世間で事件が無くならないという事を13号のその一言でハッと思い出した。


「超人社会は"個性"の使用を資格制にし、厳しく規制する事で一見成り立っているようには見えます。しかし一歩間違えれば容易に人を殺せる"いきすぎた個性"を個々が持っていることを忘れないでください」


本人に意志が無くとも、ちょっとした弾みで…なんて事故も無いわけじゃない。そう、世間も所詮は見せかけ。一人一人の意識が成り立たなければ一瞬にして世間は崩れ去るだろう。
誰だって強力な力を持っている訳じゃない。けれど、危険が決して無いとは限らない。時には自分で制御が利かないときだってあるだろう。一昔の人間なら持っている事自体が奇跡だったような力が当たり前になってしまった今だからこそ、気を付けなければいけない。


「相澤さんの体力テストで自身の力が秘めている可能性を知り、オールマイトの対人戦闘で人に向ける危うさを体験したかと思います。この授業では…心機一転!人命の為に"個性"をどう活用するかを学んでいきましょう」


それを聞いてようやく最初の授業の意図を知る。体力テストは唯の体力テストじゃない。自分の持つ力がより伸びることを肌で感じた。対人戦闘では今まで人に向けることを禁じられてきた自身の個性を存分に発揮し、その危険性を肌で感じた。
今までは個性についての危険性を教えられてもそれは唯の文字の羅列にすぎなかった。しかし、今は文字では無く実際に体験する事でその危険性も、可能性も、更なる課題も見つけることが出来たのだ。それが今日の授業に繋がっていたのかと思うと若干鳥肌が立った気がした。


「君たちの力は人を傷つける為にあるのではない。助ける為にあるのだと心得て帰って下さいな」


話し始める前、13号はお小言なんて言っていたけれどこれはそんな小言で片付けて良いような話では無い。そうだ。私の個性は人を助ける為に使うんだ。誰かを傷付ける為でも個性を見せびらかしたり自慢したりする為じゃない。幾度となく、この個性に悩まされた事もあったけど、目を逸らす訳には行かない。これが私の個性で、私自身なのだと改めて認識できた気がした。


「以上!ご静聴ありがとうございました」

「ステキー!」

「ブラボー!!ブーラボーー!!」


最早これだけで本日分の充実した授業を熟したような気分だ。丁寧にお辞儀する13号に周りからは拍手と歓声が上がる。現役のヒーローはやっぱり違う。その個性に対する意識も姿勢も全て。これからそれらを私たちは学んで、受け継いでいかなければならない。
そう思うとお茶子ちゃんが彼を好きだと言っていたのも頷ける。こちらまでファンになりそうだ。盛り上がる周りに交じってやんわり微笑みながらパチパチと拍手していると、13号の説明が終わったのを見計らい、相澤先生が動く。


「そんじゃあ、まずは…」


早速、演習を始めようと相澤先生が口を開き指示を出しかけたその時―、



一かたまりになって動くな!!

「え?」

「13号!!生徒を守れ!」


相澤先生の尋常じゃない叫びに辺りはピタリと動きを止め、固まる。指示を受けた13号は相澤先生のその異常さに気づいたのか静かに、そして素早く臨戦態勢に入ったように見えた。しかし私を含め、生徒皆は状況に着いて行けない。寧ろ何がなんだか分からない。


「何だアリャ!?また入試ん時みたいなもう始まってんぞパターン?」

動くなあれは――


切島くんの言葉に振り返って見えたのは、USJ入口…つまり私たちの居る所から少し離れた広場のような所に浮かぶ黒い渦を巻くように現れた靄の中果からゾロゾロと人が出てくるところ。何が起こっているのかは理解できなかったが、分かった事がある。その靄から出てくる人たちは明らかに生徒でも無ければ、先生でも無いという事。


敵(ヴィラン)だ!!!!


相澤先生の口から飛び出したその一言に、ガツンと頭を殴られたような衝撃がやってくる。え、という声が漏れる前に競り上がってくるのはどうして此処に?という疑問と未熟な自分への不安。そして何より、ギロリと此方を見上げる1人の敵(ヴィラン)と目が合った気がして"恐怖"が今の自分の感情の全てを攫って行った。


「13号に…イレイザーヘッドですか…。先日"頂いた"教師側のカリキュラムではオールマイトが此処に居るはずなのですが…」

「やはり先日のはクソ共の仕業だったか」


以前として靄の中から現れる敵の姿。敵の行進(マーチ)が止まらない。徐々に増える敵の数。あっという間に此処にいる生徒以上の数が揃う。非常にマズい。今まで実感していなかった周りの皆も今、自分達が置かれている状況を理解したのか顔を引き攣らせている。


「どこだよ…せっかくこんなに大衆引きつれてきたのにさ…。オールマイト…平和の象徴…いないなんて…」


そうだ。これは、ただ机に向かって知識を蓄える授業じゃない。いつも先生たちが見守ってくれる優しい演習なんかじゃない。競り上がってくる今までに感じた事の無いほどの悪寒に吐き気すらしてきそうだ。無意識に握りしめた拳に汗が籠るのを感じながら奥歯を噛みしめる。そして、此方を睨み上げる体のあちこちに手が張り付いた1人の敵から感じられるのは唯一つ。



子どもを殺せば来るのかな?



それは、途方もない悪意。



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