―翌日


対人訓練を行った翌日、未だ新鮮な感覚の残る通学路を歩いて学校へと向かう。此処までは入学してから変わらぬ至って普通の通学だった。だが、今日はちょっと違った。


『…何あれ』


視線の先、というのももうすぐ学校と言うところ。校門の前に群がる人、人、人。遠目から見る限りカメラやマイクを持っている人が多いように見える。嗚呼、報道陣だ。でもなんで?と思っていると校門を潜ろうとする生徒にすかさずマイクを向けて「オールマイトの授業はどうですか?!」とかなんとか聞いているのが聞こえた。
どうやら報道陣は、あのオールマイトが教師になった事をネタに何か記事になるような特ダネを探しているようだ。だが、校門を潜ろうとする生徒にやたら滅多に話しかけているのはどうかと思う。確実にこのままでは私も捕まる事確定だ。でも通らないと学校に行けないし…。抜け道…なんて、只でさえしっかりしてるセキュリティ万全のこの雄英にあるわけない。
ハア、と溜め息を吐きながら仕方なく進む。朝から疲れるなぁと思いつつその人ごみの脇を速足に通り過ぎようとした瞬間、


「あ、すみません!雄英の生徒ですよね!」

『………ハア…』


案の定、捕まった。少しお話を―…とマイクを向けてくるその声を無視して歩き続ける。にしてもどれだけのメディアが集まったものだ。進むにも上手く進めやしな…。


「ねェ!」

『!』


パシ、腕を掴まれる感覚。え、と思うと同時にバッと振り返るとそこには先ほど話しかけてきた報道関係者とは別のニコやかな笑顔でこちらを見ているひょろっこい男の人と、その横でカメラを回す男。


「無視なんてしないで、少しだけお話聞かせてよ」


マジかこの男。しつこくマイク向けて騒いでくるなら未だしも、生徒の腕を掴んで無理やり話聞こうとしてる。普通の報道陣ならあり得ない行為だ。現にこの男たちの他の報道陣は生徒を見つけてはマイクを向けるだけで、逃げられればそれ以上深追いなんてしていない。


『…離してください』

「僕たちね?ちょーっとオールマイトについてインタビューしてるだけなんだけどさ」

『(マジか、この男)』

「彼の授業ってどんな感じ?」

『……離してください』


マイク片手に笑いかけてくる男。ちょっと誰か、と助けを求めようにも他の報道陣はあちこちから登校する生徒たちを捕まえる事に夢中な上に、この男の付き添いで一緒に居るカメラマンが大柄で上手く影になっているらしく、私が腕を掴まれている所は周りから見えていないらしい。
こっちの意見はまるで無視。ネタを掴みたいのは分かるけれど、こんな強硬手段が認められる訳無い。況してや学生を無理矢理捕まえるなんて知られれば学校側も報道側も黙っちゃいない…それを分かっているのかこの男。否、きっと分かってなんかいない。仮に分かっていたとしても、正気じゃない。
軽く振り払おうとしたが男の手は離れない。下手に怪我をさせる訳にも行かないが…大声でも張り上げてやろうか。それともこっそり個性でも使って跳ね返してやろうかという考えも浮かび、指先に集中しようとしたその時―、


「えー、少しぐらい教えてくれても―…」

「すいません、通学の邪魔なんですけど」

『「 ?! 」』


その場に今まで無かった声がして、目の前で笑っていた男も少し驚いたような顔をして声の方へと振り返る。私も釣られて男の視線を追ってみるとそこには見覚えのある彼がこっちをジッと見ながら立っていた。


「報道関係者が、そんな無理やりなインタビューしていいんですか?」


通学鞄を片手に徐にツカツカと此方に歩み寄ってくると私の腕を掴んでいる男の手を掴みながら彼が言うと、報道関係者らしき男は大人しく私の手を離した。するとそのまま彼は私と男の間に割って入るように体をねじ込んで、私の姿を男から隠してくれた。


『と、轟くん…』

「行こう」


ジッと、報道の男とほんの数秒睨み合った彼―…轟くんが男達から視線を外して歩き出す。その背中を見つめたまま「うん」と素直に返事を返して後を追う。他の報道陣にも目もくれず進む轟くんに報道陣も何を感じ取ったのか何も話しかけてこない。お陰でそのすぐ後から続く形で歩く私にもマイクが向いてくることは無かった。そしてそのまますんなりと校門を潜りぬけようとした、その時。


「"エンデヴァーの息子"だからって調子乗ってると痛い目見るよー」


後ろの報道陣の中から聞こえた1つの声。先ほどの男の声だ。一瞬、報道陣がざわめいた気がしたがそんなの関係無く、何故だか飛んできたその一言に私の腹は一瞬にして煮えくり返っていた。


『…ッ!』

「止せ、眞壁」


無意識の内に、その声の方に向けて翳しかけていた手をパシリと止められる。少し熱を持った私の掌に比べて少し冷たい轟くんの手が心地いいと不覚にも思ってしまった。


「学校外で個性使ったらマズい。ほっとけあんな奴等」

『………ん』


静かに轟くんに諭され、大人しく腕を下ろせば轟くんも手を離してくれた。言われたのは彼なのに、つい自分の方がカッとなってしまい少し恥ずかしかった。が、別に後悔はしていない。恐らく彼が止めてくれなければ私は容赦なくあの男に向けてバリアをぶつけていただろう。否、報道陣全員を更に外へと押し出していたかもしれない。
あちこちで報道に捕まってようやく解放されたようすの生徒たちに交じって玄関へと向かう轟くんの後を追って歩き出す。


「ありがとな」

『え、』

「俺の事なのに怒ってくれて」


靴を脱ぎ、上履きに履きかえつつ小さく目を伏せながら言う轟くん。白と赤の髪の間から覗く瞳がこっちを見て笑う。え、お礼言われるような事なんてしてない。ただあの男が許せなかっただけで、学校の外なのに個性を使おうとしてしまった。あの男から助けてくれた上に個性の使用を止めてくれた彼にこそお礼を言わなければならないのは此方なのに。


『…え、いや、こっちこそ…助けてくれてありがと』


早くしないとホームルーム始まっちまうぞ、と歩き出す彼にハッと靴を脱ぎ掛けてそのまま固まっていた事を思い出す。慌てて靴を脱ぎ下駄箱にしまって、入れ替えるように上履きと履き替える。急かして先に歩き出して行った癖に、何だかんだで待ってくれている轟くんがまた小さく笑ったように見えた。あ、そんな顔して笑うんだ。
…それにしても、エンデヴァーの息子かぁ…。世間はそうやって轟くんを見ているのか…。別にそれを知ったところで、だから何?と思ってしまう私は世間とズレているのだろうか。

親は親、子は子という考えは変だろうか。

確かに親子って関係は切っても切れない関係だし、家族って言うのは大事なのは百も承知だ。でも、子供の親がどんな人間だって関係無い。やっぱり轟くんは轟くんだ。なんで親の名を出す必要がある?どんなヒーローの息子だって、彼は優しい轟くん。ただ、それだけの事なのに…。世間って変なの。それとも私が変なのだろうか。



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