自分達の戦闘訓練が終わり、その後のクラスメイトたちの訓練も実に順調に進んだ。自分達が終わったからもういいや、ではなく皆きちんと自分自身の反省点を見つけ他の者が戦闘に入れば、次の戦闘にも活かせるようしっかりとモニタリングを行った。こうしているうちにあっという間に初めての戦闘訓練の授業は終わった。


「お疲れさん!!緑谷少年以外は大きな怪我もなし!しかし真摯に取り組んだ!!初めての訓練にしちゃ皆上出来だったぜ!」


全てが無事に終わり、オールマイトが生徒全員を称賛する。その言葉を聞いて心のドオ化で安心してしまったのか初めての実戦ということも重なってドッと疲れが出てきた気がする。


「相澤先生の後でこんな真っ当な授業…なんか拍子抜けというか…」

「真っ当な授業もまた私たちの自由さ!それじゃあ私は緑谷少年に講評を聞かせねば!着替えて教室にお戻り!!」


そう言うや否や、バビューンと物凄い勢いでオールマイトは走り去って行った。そんなに急がなくても出久は逃げないし帰らないと思うが…。その光景を見ていた峰田くんも「急いでるなオールマイト…かっけえ」と零していた。それから皆オールマイトの言う通り、更衣室に向かい着替えてから教室に戻った。


―放課後。



「なあ!皆で今日の訓練の反省会しようぜ!」


ホームルームも終わり、相澤先生が教室を後にするや否や皆自分の鞄に教科書やらを詰め込み帰る準備を始めた矢先、切島くんが声高らかに提案した。帰ろうとしていた者を含め、良いね良いねとその場に残り教室の中心付近に集まり始める。
皆、自分の反省点を改めて見直す事と、他の皆の反省点や意見を聞いて今後の参考にする為にクラスの大半が残った。

そんな中、帰り支度の手を止めずに鞄を乱暴に担ぐように持って出て行こうとする1人が目に止まる。爆豪くんだった。

訓練が終わってからも一言も発することなく無言のまま教室を去ろうとドアに手を掛ける。それに気づいた切島くんたちが爆豪も一緒に反省会しようぜと誘うが爆豪は声を発するどころか、振り返る事もなく教室を後にした。


「アイツ相当凹んでんな」

「よっぽど悔しかったのかなぁ」


ポツリポツリと切島くんと上鳴くんが爆豪くんの背中を見送りながら零す。凹んでいるというか、悔しいというか…きっと今の爆豪くんの心の内は誰も分からないだろう。怒りを通り越したようなあんな顔も出来るのか、と他人事のように彼の背を周りと一緒に見送るとつい口から零れた。


『そっとして置けば大丈夫。その内、ケロッとしてるよ』

「そっか…そうだな!」


言ってからなんでそんな事言ったのか分からなかった。でも、実際そうだと思った。彼の性格上、今日の出来事1つで潰れてしまう彼では無い。何か別の感情で乗り越えてくる。その感情が良いモノか悪いモノかは実際に見てみないと分からないけれど、そうそう悪い方に転がらないだろう。彼はまどろっこしい事が嫌いだ。きっと何かで割り切ってくる。そう思った。
切島くんも私の言葉にすんなり納得してくれて皆がそれぞれ今日の授業の対人訓練の成果や反省点を話し始めるのを私は横で「うんうん」と頷いていた。自分では気づかなかった事も他人の意見によって視野が広がるのを直に感じる。こうして自分の今後に活かしていくんだと思うと少し心が躍った。


「そういや眞壁の敵役、ヤバかったな!」

『え、どういう意味のヤバい?やっぱ無茶過ぎたってコト?』

「その逆!はまり役すぎだし、戦闘も半端なかったぜ!」


あの動きはヤベェ!とか特にあの笑顔…俺、ゾクゾクした!とか何とか声が聞こえて、思わず何ソレと苦笑を零した。盛り上がる男子に加えて女子からもそれなりに好評を頂けた。相手を油断させるとか、訓練時の予測能力とかまぁまぁ褒めて貰えた。まぁ八百万さんには少し無茶しすぎですわ、と怒られたけれど。でもそれすら嬉しかった。皆私の戦闘もしっかりと見ていてくれたんだ、と実感できたし。


「何たって、轟と渡り合ってたもんな!」

『いやぁ…渡り合えては…』


ピョンピョンと飛び跳ねる峰田くんに嬉しそうに言われ、思わず流すように視線を動かす。実際、轟くんの方が上だ。それはしっかり実感した。渡り合えてなどいない。こちらは逃げることだけで精いっぱいだったのに、向こうは此方の弱点を探しながら攻撃を続け、時間ギリギリでも諦めなかった。
反らした視線の先に静かに座っている轟くんと目が合った。困り顔を送り、助けを求めたが彼は微かに笑って目を伏せた。嗚呼、駄目だ。周りに私が弄られてるのを助けてくれる気ないなあの人。

そんな時、スイーとあのバリアフリーの大きな教室の扉が開き1人の男子生徒がひょっこりと顔を覗かせた。私に向けられていた視線が一斉にドアの方へと振り返る。


「おお緑谷来た!!おつかれ!!」


放課後の教室に顔を覗かせたのは、出久だった。保健室から戻り、荷物を持って帰ろうと教室に寄っただけだったのだろう。ホームルームも終わって教室にはもう誰も居ないと思っていたらしく、少し驚いた顔をしていた。


「いや何喋ってっかわかんなかったけどアツかったぜおめー!!」

「よく避けたよ―――!」

「一発目であんなのやられたら俺らも力入っちまったぜ!」


わっと出久に群がり声を上げる生徒たちに出久は「わわっ」と声を零しながら少し狼狽えている。合わせてあまり出久と関わりの無かった生徒たちが自己紹介を始めているのが見える。やはり、今日の一戦で出久に対するみんなの興味がグンッと上がったのだろう。何だかんだ、入試の時から気に掛けていた人もいたようだが。

一方、同じ教室内で有りながらも少し離れた席の机に腰かけていた常闇くんは横目で大勢に囲まれている出久を見て「騒々しい…」と呟いている。coolだなぁなんて思って眺めていると、常闇くんの横から「机は腰かけじゃないぞ!」と飯田くんが注意している。相変わらずブレないな飯田くん。否、寧ろもうブレちゃいけない気までしてきた。


「麗日、眞壁、今度飯行かね?何好きなん?」

「おもち…」

『ずんだもち…』


そんな出久に注目が集まっている中、遠目にその光景を眺めている組。どちらかと言うと私は眺めている組で、たくさん友達出来たね〜とまるで母親か!と突っ込まれそうな視線で出久を見つめているとフと声を掛けられる。上鳴くんだった。
傍に居たお茶子ちゃんと並んで無意識に応える。本当、頭の中で深く考えて無かったからなんとなくお茶子ちゃんと似た解答が零れてしまった。でも本当にずんだもちは好きだ。嘘はついていない。…ん?あれ?今さらっと私とお茶子ちゃん、上鳴くんにナンパされてなかったか?

そんな考えも浮かんですぐに消えた。傍に居たお茶子ちゃんが出久の姿を見て何か気づいたらしく慌てて出久の元に駆けて行く。その背中を見つめていた上鳴くんは少し寂しそうだったが、クルリと此方を向いて笑顔で話しかけてくる。


「俺、ずんだ餅がおいしい店知ってるから後で一緒に―…」

『結構です』


ナンパと気づいてしまえば何ら問題は無い。上鳴くんの言葉をニッコリと微笑みながら華麗に真っ二つに切ると「あ、悪魔の笑顔…!」と彼は何とも言えない顔をしていた。そんな思いをしたくなければ二度と私とお茶子ちゃんを誘わない事だ。


「あれ?!デクくん怪我!治してもらえなかったの?!」

「あ、いや。これは僕の体力のアレで…あの、麗日さんそれより―…」

「?」


さて、そろそろ皆も話にキリが付くだろうと教科書を鞄に詰め込み始めると未だ腕を吊ったままの出久とお茶子ちゃんの会話が聞こえた。言い辛そうに語尾をハッキリ言わない出久に、お茶子ちゃんは頭に?を浮かべながら首を傾げている。それを見て、小さく笑いながら吐息した。


『爆豪くんなら、さっき帰ったよ』


出久の視線がハッと此方を向く。出久をそこまでボロボロにした張本人はさっさと帰ってしまったよ。誰にも何も言わずに帰ったって事は、きっと出久にももう今日は会いたく無くて早く教室を後にしたんだろうね。でも、出久は彼に会って何か言っておきたい事があるんでしょ?


『みんなで止めたんだけど、何も言わず黙って…ね』

「!有難う」


聞きたい事はそれでしょ?とばかりに笑うと、出久は力強く頷いて「ゴメンみんな。僕ちょっと行かなきゃ…」と踵を返して教室を飛び出し走って行く。そんな出久の行動にみんな首を傾げる中、自分の鞄に教科書を詰め終えた帷がやれやれと出久の鞄に手を掛ける。帰りの準備もしないで飛び出す馬鹿が居るかね…また態々教室に戻ってくるのも面倒だし、持って行ってやるか。と彼の鞄に教科書を詰め込む。それを見ていた皆もそろそろ帰るかーなんて帰りの準備を始めた。


「…なぁなぁ、俺ずっと聞きたかったんだけどさ」

『んー?』


あ、またオールマイトのこと分析してる。と出久のノートの表紙を見て笑いながら鞄に詰める私を横から眺めていた切島くんが頬杖をつきながら徐に口を開く。


「お前、爆豪の元カノなの?」

『ブフッ?!』

「え、緑谷の彼女だろ?」

『ぐはぁッ?!』


切島くんの爆弾発言に加え横から飛んでくる上鳴くんの爆弾発言。自分でもこんな反応できるのか、っていうぐらい驚いて吹きだす。どこをどうしたらそんな話になるのだ。バッと顔を上げ予想だにしなかったその発言に切島くんを見つめ返す。嗚呼、顔が熱い。


『い、いきなり何を?!!』

「いやーだって入学式の時も爆豪見て相変わらずだねとかなんとか言ってたし、眞壁と爆豪の反応見てると…なぁ?」

「それを言うなら緑谷の事、出久って呼んでるし…緑谷も何か眞壁の前だとのほほんとしてるっつーか…」

「いやいやいや2人ともそんな関係じゃないって…!」


皆そんな事思いながら見てたのか…なんて思いつつ全力で否定。だって生まれてこの方、恋なんてしたことも無ければ告白した事も告白された事も無い。必然的に付き合った事など無いのだ。そんな女が今までに元カノだのなんだのと言われた訳も無く、自然と顔が薄っすら赤くなり熱が籠るのを感じた。女子たちも女子たちで何なに?!恋バナ?!なんて盛り上がってくるし、勘弁してくれ。


『まぁ、簡単に言えば2人と幼馴染なだけだよ』

「あー…そういや緑谷と爆豪は幼馴染だったんだな」


お前もそうだったのか。なぁんだ、と零す声が聞こえた。顔の熱を逃がすように大きく息を吐く。私と彼らに何の関係を期待しているのだ。まず久々に会ったが未だに女子慣れしていない様子の少年と、女なんてまるで興味なし!の凶暴少年とどうやったらそんな関係に見えるんだ。


「じゃぁ、爆豪と緑谷って何か因縁があんの?」

『…へ?』

「いや、幼馴染っていうと何となく仲良さそうなのにさ…」

「訓練時の爆豪…緑谷に対して尋常じゃなかったもんな」


嗚呼、確かに世間一般的に幼馴染っていうと何となく仲が良いか、そこまででも無いが何となく知り合いってぐらいの程度の関係を思い浮かべる。が、出久と爆豪くんはそのイメージからはかなりズレているのは皆から見ても分かるぐらい分かりやすい。
一見見ただけではきっと、虐めっ子と虐められっ子の関係。いや、強ち間違ってはいなかった。今日の戦闘訓練までは。


『あー…うん。そうだね。因縁、って言えば因縁なのかな…』


出久が無個性でなくなった今、きっと因縁とか以上にライバル心に火が付いたんじゃなかろうか。出久は爆豪くんを自分自身の力で超えたい。爆豪くんは今まで虐めていた出久が大きな存在になって気に喰わない。今まで、自分が一番だと思っていたのにそれを超える存在が出久で有る事が気に喰わない…。これは最早互いの"意地"のぶつかり合いだ。


『お互いに意地があるから譲れないんだよ。まったく、男ってのは…』


苦笑しながらそう言えば、俺たちも男だからなんか分かる気もするから男ってのは…って言われちまうと複雑だなぁ。と零す切島くんたちに「あ、ゴメン」と謝ってまた笑った。きっと男の子って複雑で頑固な意地で出来てるんじゃなかろうか。



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