『は、はあ〜〜〜〜』


自分がその場にいた訳じゃないのに、生きた心地がしなかった。ヒーローチーム!WIN!というオールマイトの声に帷はモニターの前で盛大に息を吐いた。座り込むまではいかないが、少し中腰ぐらいまで態勢を崩すと大丈夫か?と切島くんが背中をさすってくれた。


「何でお前が疲れてんだよ」

『へ…へへ。何か変に見入っちゃって…有難う』

「おう」


戦ってんのは他人なんだからあんま気張んなよと笑う切島くん。嗚呼、本当に優しいな彼。兎にも角にも訓練は終わったのだ。出久が、あの爆豪くんに勝って。


「負けた方がほぼ無傷で、勝った方が倒れてら…」

「勝負に負けて試合に勝ったというところか…」

「訓練だけど」


モニター画面の向こうで、搬送用ロボによって運ばれていく出久。あの様子では保健室に直行だろう。そして、いつの間に移動していたのかつい先ほどまで目の前に居たオールマイトがその場で立ち尽くしている爆豪くんの肩を叩いているのが映し出されていた。
すると程なくして、初戦の出久を覗いた3人が帰ってきた。爆豪くんは出久にやられた事がよほどショックだったのかすっかり消沈している。そして飯田くんに連れられて戻って来たお茶子ちゃんは少々顔色が悪い。どうやら個性の制約の関係のようだ。
そんなすっかり疲れ切っているような様子の3人がそれぞれの感情を表情に浮かべながら私たち待機組の正面に並んだところで、初戦の講評が始まった。


「まあつっても…今戦のベストは飯田少年だけどな!!!」

「なな!!?」


最初に口を開いたオールマイトの口から飛び出した一言に負けた事で少し残念そうな表情を浮かべて居た飯田くんが驚き、声を上げる。


「勝ったお茶子ちゃんか緑谷ちゃんじゃないの?」


蛙吹さんがオールマイトの放った一言に、口元に人差し指を当てながら将にどうして?というように首を傾げて問い掛ける。確かに結果は飯田くんの居たDチームは負けている。主な原因はどうであれ、評価されるのは出久とお茶子ちゃんだと思っていた誰もが蛙吹さんと同様、首を傾げている。


「何故だろうなあ〜〜〜?わかる人!!?」


オールマイトが挙手と発言を求め、己自身の手を挙げる。あまりの速さで手を挙げる瞬間が見えないほどの勢いだった。どれだけ張り切ってるんだ。と横目で先生を見ていると不意に「ハイ、オールマイト先生」と八百万さんがすぐに手を挙げて発言する。


「それは飯田さんが一番状況設定に順応していたから」

『(順応…)』

「爆豪さんの行動は、戦闘を見た限り私怨丸出しの独断。そして先程先生も仰っていた通り屋内での大規模攻撃は愚策。緑谷さんも同様の理由ですわ」


確かに爆豪くんは私怨が大きすぎて周りが見えなくなっていた為に建物を半壊までとはいかないが、壊した。きっと彼の場合は訓練の間ずっとヒーローチームがどうとか敵(ヴィラン)チームがどうとか核兵器を守らなきゃとか何も考えていなかっただろう。考えていれば、きっとあんな行動はしない。
そんな爆豪くんに対応するために出久も個性でかなり無茶をした。建物を下階から上階にむけ大穴を開けて見せた。本来であれば、核の位置がハッキリとしていない状況でこんな真似は出来やしないだろう。


「麗日さんは中盤の気の緩み、そして最後の攻撃が乱暴すぎたこと。ハリボテを"核"として扱っていたらあんな危険な行為出来ませんわ」


確かに訓練とは言え、緩み過ぎてもいけない。今回は核がハリボテだったから良かったけど、本物であればあんな出久が開けた大穴で壊れたビルの破片をこれまた壊れた柱で野球のバッターが如く打って攻撃するなんて真似出来やしない。


「相手への対策をこなし、且つ“核の争奪”をきちんと想定していたからこそ、飯田さんは最後対応に遅れた。ヒーローチームの勝ちは"訓練"だという甘えから生じた、反則のようなものですわ」

「な…なるほど」


非の打ちどころがないほど的確に分析されている八百万さんの細かな講評に、クラス中の誰もが何も言えなかった。ずっと同じようにモニターを見ていた筈なのに、着眼点が違い過ぎる。否、私の場合出久と爆豪くんに感情移入しすぎていたのだ。
八百万さんからの予想外の高評価を受けた飯田くんはジーンという効果音が目にみえそうなぐらい感動しているようだった。感激のあまり、微かに震えているようにも見える。


「まあ…正解だよ、くう…!」


飯田少年もまだ固すぎる節があったりする訳だが…と付け足しながら、八百万さんの見事な講評にオールマイトもグッと親指を立ててみせる。が、あまりにも八百万さんの講評が的確過ぎたのか予想外だったのか若干冷や汗をかきながら震えているように見えた。


「常に下学上達!一意専心に励まねば、トップヒーローになどなれませんので!」


腰に手を当てて言い切る八百万さん。流石、目指しているのが"トップヒーロー"というだけあって日頃から心がけている事が違う。やはりこれぐらいの心持ちはヒーローになる上で毎回必要となってくるのだろう。正確に分析する事で、今後の自分にも役立つかもしれないし。

出久、大丈夫かな。なんて思いつつ講評が終わってクラスの中に戻って行くお茶子ちゃんと飯田くんを眺めているとふと飛び込んできたのはその場に未だ立ち尽くしている爆豪くんの姿。かなり消沈していて、まだ現実(こちら)にはっきりと戻って来ていないように見える。


『……ばく、』


自分の口から出てきた言葉に驚いて口を閉じる。今、私は何を言おうとしていた?何をしようと右手を伸ばしていた?そこまで考えているとポンッと肩に手を置かれ、びくっと体を震わせながら慌てて振り返ると「おおっ?」と逆に驚いている尾白くんが立っており、その横には手袋が浮いていた。葉隠さんも居るようだ。


「次、俺らみたいなんだけど…」

『…え?』


突然の事に頭が追い付いて来ていないのが自分でも分かった。ほら、と尾白くんが指差す先ではオールマイトがくじ引きの箱から取り出したであろうチームのアルファベットの書かれたボールを掲げている姿。
どうやらBチームがヒーロー、Iチームが敵役…つまり、障子目蔵くん・轟焦凍くんのBチーム対、私・尾白くん・葉隠さんのIチームの対戦だ。


「眞壁さん…大丈夫?」

『え?何が?』

「ちょっと顔色悪いよー?」

『本当?』


尾白くんが心配そうに私の顔を見て言うと、それに続くように葉隠さんの手袋が私を指差す。鏡なんて持ってないし、こんな所に有る筈も無いから自分の顔を見る事は出来ないけれど、そんなに酷いかな?


『大丈夫、大丈夫。ちょっとさっきの戦闘見入りすぎただけだから』

「なら良いんだけど」


2戦目の組み合わせが決まったところで、私たちは敵チーム。つまり先に現場に入って作戦を立てなければ。といっても先ほどのビルは初戦の戦闘で壊れてしまって使えないという事で別の似たようなビルに向かわなければ。
大丈夫大丈夫、とまた呪文のように言いつつニコッと笑いながら駆け出す。2人とも早く配置につかないとヒーローチームが来ちゃうよ!と声を上げれば、困ったように苦笑しながら尾白くんが待ってくれよと駆けてくる。同じく葉隠さんの手袋とブーツも慌てた様子で待ってよ〜と駆けてくるのが見えて、現場に向かってまた走り出した。



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