※爆豪目線



「ハハ…すげぇ…なあ?どうしたデク。来いよ、まだ動けんだろぉ!?」


まさか此処までとは。自分で要望を出したとはいえ、こんなに威力が上がるもんなのか。デクもデクで何とか避けたみてェだし、まだ動けそうだ。さっさとデクの個性ってヤツを引き吊り出して、それを更に上の力でねじ伏せてやる。それで終いだ。


「麗日さん状況は!?」

「無視かよ、すっげえな」


俺の本気を見た癖に、冷静にもう一人の女に通信を入れるデク。最早怒りを通り越して呆れだ。まだだ。まだコイツの目が死んでねェ。昔っからこのデクって生きもんは俺の前に立ちやがる。


「≪爆豪少年、次それ撃ったら強制終了で君らの負けとする。屋内戦に置いて大規模な攻撃は守るべき牙城の損壊を招く!ヒーローとしてはもちろん敵としても愚策だそれは!大幅減点だからな!≫」


通信機越しにオールマイトの警告が飛ぶ。嗚呼、ウルセェ。ウルセェ…。どいつもこいつもウルセェ。だが、こんなデクを早くぶっ潰してェ状態の俺でも意外にも冷静な部分て言うのが辛うじて残ってたみてぇだった。これ以上しょっぱなから退学の危機に瀕したくねェし…。


「〜〜〜ああ〜じゃあもう」


そうすれば、俺に残った手段は1つ。


「殴り合いだ!」


未だ通信機で何やら話しているデクに向かって一気に間合いを詰め、目眩ましを兼ねて爆破で軌道変更、そして即座にもう一撃を喰らわせる。ガハッと息を吐いてよろめいたデクに思わず笑みが零れた。


「ホラ行くぞ!てめェの大好きな右の大振り!!」


さっきは読まれて避けられたが、今のデクには分かってても避けられねェ。否、考える暇を与えたら駄目だ。何が何だか分からない内に叩き潰しちまわないと。アイツが―…


『いずくをいじめないで!』


…チッ。今、何を考えてたんだ俺は。脳裏を過ぎったあの女の姿がこっちに向かって叫んでくる。ハハ、笑っちまうぜ。もう此処にアイツが割って入ってくるわけないのに。一度瞬きすれば、過去の亡霊のようなその女は居なくなる。その向こうに居るのはデク唯一人。ボロボロになりながらもこっちを見つめてくるデクの目を見て、つい笑みが零れる。どうせ今頃、モニターの向こうで今にも泣きそうな顔してデクを見てんだろ。そうだ、もうあの時みたいに此処に邪魔は入らねえんだ。


「どうしたよ、デク。今日はお前を守ってくれる"盾女(アイツ)"は居ねェんだぜ!?」

「ッ!?」

「自分の身は自分で守らねェと、なぁ!!」

「ガハッ!」


俺の言葉に少し反応したデクの顔ったらねェ。昔はよく助けて貰ってたみてぇだが、今は居ねえ。入って来れねえ。また一気に間合いを詰めて、回し蹴りと拳を叩きこんでやる。嗚呼?何も叩き潰す方法で勝たなくても此処まですりゃあ捕獲テープ使えば終わりだろ、って?…冗談じゃねェ。


「デク、てめェは俺より下だ!!」


デクの読みの更に上を行って、読まれてもそれを速さで補う。さっきまでの勢いを失ったデクに…流石のデクも此処までくれば、個性を使わねえともう勝つ見込みなんてねェ。そうだ戦闘能力において、俺はセンスの塊だ。お前より、誰より俺は上だ。なのに、なのに何で、


「何で"個性"使わねぇんだ!俺を舐めてんのか!?ガキの頃からずっと!!そうやって!!!」

「違うよ」


ずっと隠してたんだ。スゲエ個性持ってる癖に、無いふりして。いつも周りにばっかり気ぃつかって、俺には怯えてるくせに楯突いて。嗚呼、嗚呼もうウゼェ。本当にウゼェ。コイツはずっと腹の底で思ってたんだ。本気を出せばお前(俺)なんて楽勝だ、とか。
だから、アイツも―…


『出久は、出久の力で此処に居る。アンタと同じ土俵に、今は出久も立ってんの…今日のを見てもまだ分かんない?』


あんな事を言ったんだろ?何だよ、俺だけ馬鹿みてェじゃねえか。ああもう…全部、全部全部全部デクのせいだ。俺のこの胸の奥のモヤモヤも、この苛つく衝動も、この攻撃性も。全部、全部デクとアイツの―…!!


「俺を舐めてたんかてめェはぁ!!!」

「君が凄い人だから、勝ちたいんじゃないか!!」


嗚呼、その面!その面だ!!いっつも俺の前に立つたびにビクビク怯えてる癖に目は死んでねえ!!なんでだ。何でこの状況でそんな面が出来る!何でそんな事を言う!!


勝って超えたいんじゃないかバカヤロー!!!

その面やめろやクソナード!!!


どんどん余裕がなくなって行く自分を認めるのが嫌だ。目の前のデクに余裕を奪われていくのを実感するのが嫌だった。ついこの間まで、その辺の石ころだっただろうが。ただのモブだったろうが…!ソイツがこの入試1位の俺と渡り合ってるだと?ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな…!!コイツは俺と同じ土俵になんて立ってねえ!

「DETROIT(デトロイト)…」と微かな声が聞こえた遂にデクが個性を使う気になったらしい。大きく振りかぶられたその細っせェ腕に閃光が走るのが見えた。嗚呼、良いぜ。来いよ。てめェのその個性とやらねじ伏せてやんよ。
思いの丈を右手に集中させ炎を纏う。真正面から向かってくるデクにこっちからも突っ込んで行き、大きくその腕を振りかぶった。その時だった。


「≪双方…中止…≫」

麗日さん行くぞ!!!

「≪!≫」


僅かにオールマイトの制止の声が聞こえた気がしたが、何よりもそのオールマイトの声を掻き消すようにデクが俺から視線を外して声を上げた。この状況で俺から目を離すなんて馬鹿か、と思ったがそれも一瞬の出来事で、刹那。

SMASH!

BOOOM!

デクと俺の拳がぶつかったような感覚。だが、舞い上がる煙で良く見えない中で衝撃波が真上に伸びていくのだけは視えた。ドゴッドゴッと次々にフロアの天井に穴が開いて行き、最上階まで届いて静かになった。一体、どういうことだ。デクに向けて放った俺の攻撃は当たっている筈。なのにデクの攻撃が俺に届いていない。上に昇って行った衝撃波がそれだというのなら、本当にコイツは馬鹿か―…と、そこまで考えて気がついた。


「………!!そういう………ハナっからてめェ…やっぱ舐めてんじゃねえか……!!!」

「使わないつもりだったんだ。使えないから…体が衝撃に耐えられないから…相澤先生にも言われて…たん…だけど…」


コイツ、上にいる同じチームの女の援護に衝撃を上に飛ばしやがった。俺と、真正面から対峙していたあの状況で他の事を考えていた、だと…ふざけんな。ふざけんじゃねェ…。徐々に晴れていく煙の向こうで苦しそうに息をしながら声を発するデクを睨みつける。


「これしか…思いつかなかった」


晴れた煙の先、俺の拳を受け止めた衝撃の跡の残る腕を構えた状態のまま、フラフラながらに立っているデク。衝撃を衝撃で受けたってかこの馬鹿。反対の腕も個性の影響からかボロボロになっていて、そっちの手で上に衝撃波を撃ったのだろう。
なんて、馬鹿な事を…と呆然と立ち尽くす俺の無線機に「回収!!!」「ああーー核ーーー!!」という上の連中の声が飛び込んでくる。デクと同じチームの女に核が回収されたらしい。コイツ、此処まで見通して…否、俺との対決よりチームの勝利を優先したっていうのか。


「≪ヒーロー…≫」


カクリと糸の切れた人形のようにその場に倒れ込むデクの姿がやけにスローモーションに見える。無線機の向こうでオールマイトもこの状況に驚いているようだった。


なんで、


ふと脳裏に過ぎるアイツの姿。俺には見せた事無いような笑顔で『ほらね』と俺の事を笑っていた。『出久は凄いんだから』なんて聞こえる筈も無いアイツの嬉しそうな声が脳裏を木霊する。高らかに放たれたオールマイトの声も最早耳に入ってこなかった。


「≪ヒーローチーム…WIIIIIN!!≫」


なんで俺、こんなデクに負けてるんだ。



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