※出久視点


無事にリカバリーガールのお陰で指も治って、いざ下校していた矢先。ポンと肩を叩きて来たのは飯田くんで、指の心配をしてくれた。今日の相澤先生の個性把握テストについて語り始めた彼は最初は怖い人かと思っていたけど真面目なだけなんだという事が分かった。
そんな飯田くんと何となく並んで歩く構図になった時、「おーい」と声をあげながら駆けて来たのは麗日さん。かっちゃんのせいで僕の事を"デク"っていう名前だと本気で思ってたみたいでデクくんと呼んでいた。まぁ本名の出久(いずく)がデクって読めるから馬鹿にされてただけなんだよと説明すると、ゴメンと素直に謝ってくれた。
でも、「デクって頑張れって感じでなんか好きだ、私」と麗日さんに満面の笑みで言われた時はもういっそ本名がデクでも良いと思った。人生でこんなにデクと呼ばれて嬉しいと思った事があっただろうか。
それでは駄目だ!と飯田くんにお叱りを受けつつも、何だかんだで2人ともクラスメイトであり、友達としても見てくれているみたいで思わず笑みが零れてしまう。そのまま3人で帰る流れになったその時だった、ふと僕の大事な友達が1人足りない事に気づく。


「(…そう言えば帷ちゃん、先に帰っちゃったのかな?)」


久々に会えたし、もし帰りの方向が一緒ならゆっくり語りながら帰りたかったのだけれどずっと保健室に居た自分に、彼女が今どうしてるなんて分かる筈も無いし…この時間ならきっと先に帰ってしまっているに違いない。飯田くんや麗日さんに聞いても仕方ないだろう。そう思った矢先、


「あれ?今の帷ちゃんじゃない?」

「え?」


不意に麗日さんが指差して止まる。その指差した先を見れば、今まさに校門を飛び出して曲がって行った帷ちゃんの姿が一瞬だけ見えた。隣で飯田くんも「嗚呼、確かに眞壁さんだったな」と言っていた。何か急いでいたように見えるが…と付け足すように呟く飯田くんに僕は脳裏で「違う」と冷静に否定した。

だって、帷ちゃん…今にも泣きそうな顔してた。

呼び止める暇もなく、校門を飛び出し姿を消した彼女の背中が変に脳裏に焼き付いて離れない。不意に僕は彼女が走ってきた方向を振り返った。途端、視界に飛び込んできたその光景にまた思わず息を止めた。

玄関から出た先の階段下で立ったまま固まっている、かっちゃんが居た。

その表情は結構何だかんだ傍に居た僕ですら見た事が無いような表情。とんでもない事をしてしまった、やってしまった…そんな後悔しているような、放心状態に近い表情で立ち尽くしていた。まさか、かっちゃんがあんな表情をするなんて。
そこまでで僕は大凡察しがついた。どうして帷ちゃんが泣きそうな顔で走り去って行ったのか、その後ろ姿を見つめたまま固まっていたかっちゃんがクソっと小さく声を吐き捨てたその表情。

…嗚呼、2人とも知らない。分かろうともしてない。お互いのこと。



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