肝試しコースを出来る限り辿りながら目を凝らし、微かな音にも耳を澄ませる。といっても後ろから迫ってくるその存在の音にかき消されているのがほとんどだが、闇夜の森では目立つものもある。


「見えた!!見えたよ!!氷見えるよ!!」

「交戦中だ!」


闇夜の森の中、見えたのは氷。こんな真夏にしかも巨大な氷が道に沿って置かれている訳がない。人為的―…彼の個性に違いない。その光景に思わず声を上げながら必死に走る。傍で必死に走る障子くんにあっちあっちとばかりに指をさす。


「わああああああ!!!!!!」


森の中を抜け、小道に出るや否や方向を切り替える。居た。見つけた。その嬉しさと間近に迫った存在と後ろの木々が思いきりなぎ倒される音に叫びながらこちらを驚いた表情で見つめる2人…探していた勝己と轟くんに手を振って助けを求める。


爆豪!轟!どちらか頼む――…

「 肉 」

光を!!!

あ゛


視界の先に敵(ヴィラン)が見えた刹那、まるで敵を気にしないかのように彼の個性―…暴走しているダークシャドウは簡単にその大きな掌で押し潰した。思わず固まる勝己と轟くんに向かって足を止めることなく氷を乗り越え突き進む。


かっちゃん!

勝己!!!


勝己の無事を確認した瞬間、思わず声が出た。それも出久とほぼ同時に。少し嫌そうな顔をした勝己の表情に彼らしいなぁと思ったが今はそれどころじゃない。下手をすれば先ほどの敵のように簡単に潰されてしまう。


「障子、緑谷と眞壁…と常闇!?」

早く"光"を!!!常闇が暴走した!!!

「あああああ!!!どっちでもいいから早くうあああ!!!」


依然として状況が読み込めていないらしい勝己と轟くんに急かすように障子くんと共に声を荒げる。ただでさえ動くもの全てに反応するダークシャドウ。障子くんの複製腕で本人たちに直接攻撃が来ないように気を逸らしているものの、いつ自分たち本体に攻撃が飛んでくるか気が気じゃない。


「見境なしか。っし 炎を…」

「待てアホ」


気を失っているB組の生徒を背負っている轟くんが炎を出そうとするが、傍にいた勝己が静かに制す。何事かとその視線の先を追えば、先ほどダークシャドウに押しつぶされた敵がゆっくりと起き上がったのが見えた。


「肉〜〜駄目だぁああ 肉〜〜〜にくめんんん 駄目だ 駄目だ 許せない」


体全体が黒い拘束具で包まれている敵が個性なのだろう、歯を刃のように鋭くそしてグウーという効果音が聞こえるぐらい伸ばして体を支えている。唯でさえ恐怖を感じるその姿に加え、自分の得物を横取りされた挙句、目にも止められていないことに対してなのか目が血走っていた。


「その子たちの断面を見るのは僕だぁあ!!!横取りするなぁあああああ!!!」


地面に突き立てられた鋭利な長い歯が一斉に暴れまわるダークシャドウに向けられ、突き刺さる。が、そこに手ごたえはない。何せダークシャドウは文字通り"影"なのだから。


強請ルナ 三下!!


突き立てられた筈の敵の歯は見事にダークシャドウの体をすり抜けるように突き抜け、敵の体がみるみる内にダークシャドウの大きな手に包まれていく。ミシミシと音を立てる敵の歯や体に私たちは思わずその光景に言葉を失っていた。


「見てえ」


勝己だけが、そのダークシャドウの本当の力に口の端を吊り上げて見つめていた。刹那、ダークシャドウの手中に収まった敵の体が勢いよく振りかぶられ、木々をなぎ倒しながら最後にはぶん投げられた。勢いを失わず物凄いスピードと共に敵が森の奥深く、遠くに吹っ飛んで見えなくなった。その凄まじさに思わず足を止めているとヒョイと障子くんに腕を引かれ、身を寄せられる。


ア"ア"ア"ア"ア" 暴れ足リンゾォア"ア"ア"ア"!!!


依然としてその勢いのまま暴れようとしているダークシャドウにようやく勝己と轟くんが動いた。目にも止まらぬ速さで地面を蹴るとあっという間にダークシャドウの両端を挟むようにして飛び込む。


「ひゃん!」


勝己も轟くんもお互い片手のみに個性を発動させ、爆発と炎でダークシャドウを挟めば先ほどの勢いが嘘だったかのように一瞬の内にダークシャドウは小さくなり、常闇くんの体に戻っていった。息を荒げ、両膝を地面に着く常闇くん。ようやく彼の本体を見れた。


「てめえとの相性が残念だぜ…」

「……?すまん助かった」


BBB…と片手を小さく爆発させながら言う勝己は少し表情を歪めていた。常闇くんと本気で戦えないことが相当悔しいらしい。そういえば体育祭でも言ってたっけな。なんて思いながら障子くんに支えて貰いつつ常闇くんの元へと駆けつける。
傍では「俺らが防戦一方だった相手を一瞬で…」と轟くんが一度下ろしていたB組の生徒を担ぎなおしながら言う。どうやらこのトップ2の2人でも手こずるほどの相手だったらしい。夜の森の奥へと消えていった敵が戻ってくる気配はない。どこかで気を失ってそのままでいてくれればいいのだが。


「常闇 大丈夫か。よく言う通りにしてくれた」

「障子…悪かった…緑谷も…眞壁も……俺の心が未熟だった」

「常闇くん」

「複製の腕がトバされた瞬間、怒りに任せ黒影を解き放ってしまった。闇の深さ…そして俺の怒りが影響されヤツの凶暴性に拍車をかけた…結果、収容も出来ぬほどに増長し 障子を傷つけてしまった…」


確かにダークシャドウは怖かった。傷つけられもした。でも、一番怖かったのは苦しい思いをしたのは常闇くん自身だ。友達を傷付けて、怯えさせてしまっても止められない。自分の個性なのに制御できないもどかしさ。暴走する恐ろしさ。知っている。その怖さも辛さも、分かる。けど、今はその気持ちに浸っている暇はない。


「そういうのは後だ…とおまえなら言うのだろうな」


障子くんが口を開くよりも前に常闇くんが話を切る。やはり常闇くん自身も理解していた。色々と反省するのも話すのもあと。それよりも優先しなければならない事項がまだ残っている。それがとても緊急性を持っていることも。


「そうだ…!敵の目的の1つがかっちゃんだって判明したんだ」

「爆豪…?命を狙われているのか?何故…?」

「わからない…!とにかく…ブラドキング・相澤先生 プロの2名がいる施設が最も安全だと思うんだ」

「私もそう思う!!」

「なる程、これより我々の任は爆豪を送り届けること…か!」


常闇くんは自身の個性の暴走を止めようとマンダレイのテレパスを聞いていなかったらしい。しかし彼の事だ。すぐに状況を理解し、ゆっくりと立ち上がる。出久の言う通り、先生たちの所に勝己を連れていけば取りあえず解決だろう。


「ただ広場は依然プッシ―キャッツが交戦中なんだよね…」

「道なりに戻るのは敵の目につくし、タイムロスだ。まっすぐ最短が良い」

「敵の数分かんねえぞ。突然出くわす可能性がある」

「あ、障子くんの索敵能力あるじゃん!」

「そして轟くんの氷結に帷ちゃんのバリア…更に常闇くんさえ良いなら制御手段(ひかり)を備えた無敵の黒影…」


私と出久だけでは決して考えられなかった事。お互いにお互いの長所を引き出し、短所をカバーできる。戦闘に置いても守備に対してもこのメンバーは―…。


「このメンツなら正直…オールマイトだって怖くないんじゃないかな…!」


とんとん拍子で話が進み、あっという間に打開策を生み出した出久と集まった私たち。本当、このメンツなら先生だって怖くないかもしれない。そんな少しだけ高揚してしまうようなシチュエーションに、そんな場合じゃないのに喜んでいる自分が居た。と、不意に余にもスムーズに進んでいく流れに取り残されてしまい固まっていた勝己がようやく意識を取り戻したかのように鬼の形相に変わる。


何だ こいつら!!!

「お前中央歩け」

俺を守るんじゃねぇ クソ共!!!

「え、手繋ぐ?」

ア"ア"?!!誰が繋ぐか クソが!!!

「行くぞ!!」


冗談半分で手を差し出すと軽く払われた。だよね、と思いつつ逸れないでよと念を押し先陣を切って歩き出す障子くんの後に続いて歩き出す。今は一刻を争う。別の場所では誰かが襲われているかもしれないし、必死に隠れているかもしれない。急いで集合しなければ。バラバラのままでは明らかに不利だ。後ろを常闇くんに任せ、嫌がられるのが分かっているので出来る限り勝己の気配や動きが分かるほどの距離を保ちながら傍を歩いた。


少しでも異変に気付くように、歩いていたはずだったのに。




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