―グラウンド・β


始めようか、有精卵共!!!戦闘訓練のお時間だ!!!


校舎からグラウンド・βに出る通路を抜けると、そこはグラウンドと言いつつ個性把握テストの時に使用した校庭とは一変し、模擬都市セットのような場所になっていた。既に皆がそれぞれの戦闘服に身を包み、これから行う戦闘に心を躍らせていた。


「あ、デクくん!?かっこいいね!!地に足ついた感じ!」

『ホントだ!うんうん。カッコいいね出久!』

「麗日さん、帷ちゃ…うおお…!!!」


どうやら着替えに時間を食ってしまっていたらしい出久が通路を抜けて出てくるなり、それに気づいたお茶子ちゃんが声を掛ける。その声に振り返って見れば、緑色のジャンプスーツに身を包んだ出久がそこに立っており、帷もうんうんと頷きながらグッと親指を立ててみせる。と、出久が此方を振り返るなりマスクを押さえながら声を上げた。

一見宇宙服を思わせるパツパツスーツに身を包みながら少し恥ずかしいと頭を掻くお茶子ちゃん。出久が声を発したのも分かる。可愛い。それに比べて私は何となく露出部分があるかもしれないがそれ程派手でも無いし、本当にシンプル…まぁ強いて出久が目のやり場に困ると言えばお茶子ちゃんと同様、パツパツスーツの部分だろうか。
お互いにパツパツスーツはちょっと恥ずかしいよね、と慰め合っていればスッと出久に近づく1つの小さな影。


「ヒーロー科、最高」

「ええ?!」


スッと出久に向かって親指を立てた小人…確か"峰田 実"くんだ。これだから男子ってやつは…と傍に居た八百万さんたちが険しい顔をしていたのは言わないでおこう。


『………ていっ』

「うわ、な、何?どうしたの?帷ちゃん」


出久が動く度に揺れる彼のマスクの頭部にデザインされている2つの突起を徐に掴みかかると、出久は物凄く驚いた様子でこちらを見た。そんなに驚かなくても良いじゃん。と笑えば、何も言わないで掴みかかられれば誰でもびっくりするよと言い返されてしまった。


『否、そのうさ耳が可愛いからつい』

「うさ耳って…」


照れているのか、困っているのか上手くマスクのせいで顔が見えない出久が口籠る。でも、帷は本当は知っていた。それがうさ耳でも単なるデザインでも無くて、彼のあこがれの人…オールマイトの髪型を意識してしまった結果だという事を。


「帷ちゃんも、か、かわ…」

『フフ。良いってば。私のは可愛さ求めたスーツじゃないし』

「えー!可愛いよ!帷ちゃんのスーツ!」

「あ…ありがと」


口籠りながら褒めようとしてくれる出久の言葉を制止すると、横でそのやりとりを見ていたお茶子ちゃんが私のスーツを上から下まで見つめてシンプルで可愛い!と言い張ってくるものだから、柄になく照れてしまった。可愛いなんてあんまり言われ慣れてないし。ましてや本当に可愛い女の子から、なんて。

周りもお前のスーツイイねとか何とかザワつく中、その言葉を一掃するかのように「良いじゃないか皆、カッコイイぜ!!」と声を張り上げて褒めてくれたオールマイトに、皆自然と静かになった。すると傍に居たフルアーマーで顔まで見えない為に誰だか分からないが生徒の1人がガッションと音を立てつつ挙手した。


「先生!ここは入試の演習場ですがまた市街地演習を行うのでしょうか?!」

「(あ、飯田くんだったんだ…)」


質問の仕方と言い、聞こえてきた声でそのスーツの中身を察する。スーツによっては正体を隠す意味もあるものもあるようで、やはり皆それぞれの個性が出ているなぁとつくづく思う。


「いいや!もう二歩先に踏み込む!屋内での対人戦闘訓練さ!!」


飯田くんの質問にハキハキと応えるオールマイト。確かに飯田くんの言う通り此処は入試の時の演習場の一つ。私は別の会場でやったのだが、まぁ似たような感じの演習場だ。しかしこれから行う授業は入試とは全くの別もの。


「敵(ヴィラン)退治は主に屋外で見られるが統計で言えば屋内の方が凶悪敵出現率は高いんだ。監禁・軟禁・裏商売…このヒーロー飽和社会…真に賢しい敵は屋内(やみ)にひそむ!!」


要は入試の時のように、ただ単に敵に見立てて現れた障害物を破壊して点を稼ぐものではなく本当のヒーローの現場に近いモノ。しかも外では無く建物内と言う事で個性によっては不向きも出てくることもあるだろう。だが、実際の現場では向き不向きを言っている場面では無い事の方が多い。


「君らにはこれから"敵(ヴィラン)組"と"ヒーロー組"に分かれて、2対2の屋内戦を行ってもらう!!」


そんな実際に世間で起きている犯罪を土台に、訓練も含めた授業のようだ。あ、適役も私たちがやるんだ。という考えは浮かんですぐに消えた。敵だったらどう考える、という予測力や想像力の勉強になるからだ。


「基礎訓練もなしに?」

「その基礎を知るための実践さ!」


傍で説明を聞いていた蛙吹さんが首を傾げながら疑問を零せば、その小さな疑問にすらオールマイトはハキハキとした大声でスパンッと清々しく応える。成程、オールマイトは覚えるより慣れろっという授業方針か。しかし、そうと決まればまだまだ疑問点はいくつかある。


「勝敗のシステムはどうなります?」

「ぶっ飛ばしてもいいんスか」

「また相澤先生みたいな除籍とかあるんですか……?」

「分かれるとはどのような分かれ方をすればよろしいですか」

『個性の使用制限はありますか?』

「このマントヤバくない?」

んんん〜〜聖徳太子イイ!!!


八百万さん、爆豪くん、お茶子ちゃん、飯田くん、私という順での浮上した疑問をオールマイトに向けて一斉の質問攻め。そして全く関係無い青山くんの感想がオールマイトに襲い掛かる。流石のオールマイトもいっぺんに聞かれては説明も出来ない、と何処からか小さなメモのようなカンペを取り出し、順を追って説明していく。


「いいかい!?状況設定は"敵(ヴィラン)"がアジトに"核兵器"を隠していて"ヒーロー"はそれを処理しようとしている」

『随分とアメリカンな設定ですね』

「"ヒーロー"は制限時間内に"敵"を捕まえるか"核兵器"を回収する事。"敵"は制限時間まで"核兵器"を守るか"ヒーロー"を捕まえる事」


私の呟くようなツッコミは深く突っ込まないでくれたまえ、と小さく一掃された。まず一昔前の日本では考えられない…今の日本でもそうそう核兵器とか大がかりな兵器を使った敵の事件は馴染みが無い。否、今まで無くともこれから起こりうることかもしれないし、気は抜けない事に変わりない。


「コンビ及び対戦相手は"くじ"だ!」

「適当なのですか?!」

「プロは他事務所のヒーローと急造チームアップする事が多いし、そういうことじゃないかな…」

「そうか…!先を見据えた計らい…失礼致しました!」

いいよ!早くやろ!!


飯田くんのツッコミには出久がオールマイトの助け舟を出すように細かく推測を話すと飯田くんはハッとその深い意図にようやく気づいて感動していたが、オールマイトにとっては時間が惜しい意外に何も無い。色んな質問をふっ飛ばしてさっさと始めようと皆にくじを引かせる。


A= 緑谷、麗日
B= 轟、障子
C= 八百万、峰田
D= 飯田、爆豪
E= 青山、芦戸
F= 砂糖、口田
G= 耳郎、上鳴
H= 蛙吹、常闇
I= 葉隠、尾白、"眞壁"
J= 切島、瀬呂


人数の都合上、1チームだけ3人になってしまう。それが私たちのIチーム。大きな尻尾を持つ尾白くんと、すっごい簡潔に言うと透明人間の葉隠さんと組むことになり取り敢えず尾白くんと顔を見合わせる。(葉隠さんとは目が合っていたのかは分からないが、取り敢えず手袋が浮いている方は見てみた)


「続いて最初の対戦相手はこいつらだ!!」


そう言ってまたチームのアルファベットが書かれたボールが入ったくじ引きの箱2つに片手と片手を突っ込むオールマイト。右手を突っ込んだ箱には敵(ヴィラン)役、左手を突っ込んだ箱にはヒーロー役と書かれている。誰もが固唾を飲んで見守った。なんたって、演習とは言え自分達と戦う相手が決まるのだから。そして、箱から引き抜かれるオールマイトの手に握られていたボールのアルファベットは、


「Aコンビが"ヒーロー"!Dコンビが"敵(ヴィラン)"だ!!」


ピク、と出久と爆豪くんの2人が同時に反応した。否、私も含めて3人がその組み合わせに同時に反応した。まさか、しょっぱなからこんな組み合わせになるなんて誰が予想できただろう。
別に私が戦う訳じゃないのに、変な汗が背中に拭き出してくる。妙な顔を浮かべてしまっていたのか同じチームになった尾白くんが「大丈夫?」と顔を覗き込んできてハッとする。慌てて大丈夫大丈夫と返せば、なら良いけどと彼は下がって行った。
本当に、大丈夫か大丈夫じゃないかと言われれば大丈夫じゃないかもしれない。オールマイトが敵チームは先に入ってセッティングを…とかヒーローは5分後に潜入開始とかなんとか説明してるけど何だろう上手く頭に入って来ない。


『(出久、)』


嗚呼、神様の悪戯って本当に有るんだな。



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