西暦2205年。

歴史の改変を目論む"歴史修正主義者"によって過去への攻撃が始まった。

時の政府は、それを阻止するため"審神者"を各時代へと送り出すことを発表した。審神者とは、眠っている物の想いや心を目覚めさせ、自ら戦う力を与え振るわせる技を持つ者。
その技によって生み出された刀剣の付喪神と共に歴史を守るため、審神者の力を持つ主、審神者は過去に飛んできて刀に宿る魂を目覚めさせ付喪神として人の姿に変える。


『…で?それが私だと?』

「いいえ。アナタは審神者ではありません」

『……は?』


じゃぁなんでそんな話をしたんだ。と、視線の先に居るぬいぐるみ…いや、確か"こんのすけ"と名乗った狐を見つめる。突然目の前に現れたと思えば、いきなり説明を始め…終いにはその話はまるで私と関係ないというのか。大人しく話を聞いていた私の時間を返せ。


「いえ。そういう反応は間違ってはおりません。アナタに関係してくるのは、此処から先の話でございまして…」


此処から先の話?まだ続きがあるというのか?ただでさえ、"歴史の改変"やら"さにわ"やら"刀の付喪神"やら今まで聞いた話を繰り返しても何も納得できる話が無いし、理解もしきれていない。何たって今の今まで私は極普通の人間として生きてきたのだ。それもまだ成人にもなっていない学生。
更に言えば、私はつい直前まで自宅近所の神社に日課としているお参りに行こうと鳥居がトンネルの如く連なる階段を駆け上がっていた筈だ。確かに、階段を駆け上がる時間はいつもより長い時間に感じた。景色も徐々に変わって行くように感じた。

気付けば此処に立っていた。

階段を登り切り、いつもならそこに有る筈の神社の社。しかし今日は無かった。目の前に広がるのは何十本にも分かれた道に、それぞれの道の入口に置かれた鳥居の門。どれも柱には何が書いてあるのか分からない札が幾つも貼ってあるし、遠くから見れば分からないが、案外その鳥居の赤い色も所々剥げかけている。年季が入っているものだと思わせるソレ。

何だこれはと半ば放心状態になっていれば、目の前に現れたのがこの怪しい狐である。

最初はこの神社の神様の使いとかそういう神聖なものか、もしくは近頃のテレビのキャラクターか何かかと思った。でも違うらしい。唯よらぬ気配と言うか、何とも言えない雰囲気を纏っているけれどこの狐は最初に感じた神聖なものでも、可愛いキャラクターでも無い事は今までの説明で理解できた。


「―…!」


ピクリ。狐の耳が動き、視線が私から全く別の方向に向けられる。何?とそれを見つめていれば、ハッキリとは聞こえなかったが狐が小さく「これはマズい…」と呟いたように聞こえた。


「状況が変わりました」

『え、』

「今すぐアナタにはアナタの刀を救いに向かって頂きます」

『…………はぁ?』


私の刀?いや、ちょっと待て。刀って何。え?今審神者がどうのこうのとか歴史改変者がどうのこうのっていう話しかしていなかったのに、私の刀とはどういう事だ。私、剣道部だけど竹刀なら今背負ってるし、それ以外に私の刀と言える代物は無い。


「説明してる暇はございません!!ささっ!!いざ、戦場へ!」

『え?は?ふ、ふざけっ…!!お、押すな!』


幾つも自分を囲っていた筈の鳥居たちはいつの間にか姿を消し、そこにはたった1つの鳥居しか残っていなかった。見た目によらず、結構な力と結構な勢いで迫ってくる狐に押され、その1つの鳥居に向かって体が動く。視界で捉えられる限り、鳥居の向こう側は真っ暗で何も見えない。
本当にこの先に、狐の言う刀の付喪神やら歴史改変者と呼ばれる者たちが居る世界があるのだろうか。そもそもよく考えてみれば、この目の前の狐と言いなんて夢物語のような設定なのだろう。やっぱりこれは夢だろうか。否、きっと夢だ。夢でなくてはならない。
…だが、もし夢では無く現実で有るならば、と考えれば考えるほど狐に対する疑いが戸惑いに変わり最終的に行きついたのは、この先に踏み入ったとしても此処に帰って来れる保証がないという事。しかしその事実に気づいた時には既に遅く―、


「ほらほら、常にこれは歴史―…つまりは時間の問題です!急がないと!」


手遅れになりますぞ!という声とともにトンッと肩を押され、振り返った瞬間。まるでその鳥居が待ってましたとばかりに体を飲み込むようにして吸い込まれる感覚がした。次に襲ってきたのは足が地についていない気持ち悪い浮遊感とその感覚すら遠退くぐらい、視界が何も映さなくなる。うわあ?!と声を上げたつもりだったが、一瞬の内に何の音も何も聞こえなくなった。






×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -