ゾロゾロと雪崩れ込むように現れた統一されたデザインの制服を着た女性たち。一目見れば分かる。中王区の言の葉党だ。そしてその先陣を切って現れた女性こそ、内閣総理大臣補佐官および警視庁警視総監、行政監察局局長の―…。


「あ、あぁ…無花果様…どうして此処に」


先ほどまでの威勢はどこに行ったのか、弱弱しく声を上げる玖藕女 麗久(くぐめ うらく)の視線の先に立つ女性、勘解由小路 無花果は周りに居る者たちに目を向けることなく前へと歩み出ると鋭い眼差して玖藕女を見つめる。


「玖藕女 麗久。貴様…以前から随分と好き勝手していたそうじゃないか」

「そ、そんなことありません…」


綺麗に並ぶ党員たちを背に、無花果はすっかり怯えきっている玖藕女へと距離を詰めていく。するとどこから数人の党員が無花果の周りに歩み寄ると紙の束…何かの資料らしきものを手渡した。それをペラペラと捲りながら内容を確認する。


「中王区に提出した書類内容、および報告内容の虚偽にデータの改ざん…以前、お前の部下として働いていた者数名からもお前が行っていた研究についてはっきり証言は取れている」

「な…」

「そして今回。模造品とはいえヒプノシスキャンセラーの無断製造、人体実験や改良ヒプノシスマイク製造…さて、どう言い逃れするつもりだ?」

「私は、私は…そんな、」


今まで玖藕女が中王区内で研究・開発していた頃から行ってきたことが、ついに勘解由小路 無花果の元にまで届いたということらしい。中王区が調べ上げたのか、はたまた別の密告者がいるのか定かではないが玖藕女のついてきた嘘と人道を大幅に外れたその言動に振り回され傷ついた少女が居ることも、きっと無花果の耳に届いている。
全てが無許可であり、自分への自己満足で行ってきた研究・開発だ。増してや中王区内部で出来なくなって壁の外で逃げ隠れしながら続けていたのだ。許される訳がない。それは理解しているのか玖藕女は声を震わせ否定の声を上げるが、いきなり後退し踵を返して走り出す。


「逃がすな!全員捕らえろ!!」


無花果の声と共に一斉に党員たちが動き出す。相変わらずヒプノシスマイクは起動しない。麻天狼やMAD TRIGGER CREWに襲撃にあった挙句に中王区まで現れたとあっては勝ち目はない。玖藕女側についていた者たちがマイクを放り投げて一斉に逃げ出していく。その後を追うようにして何十人もの党員が追いかけ、散っていく。


「おい、おい、しっかりしろ」


周りで伸びている玖藕女の部下たちを回収している中王区の党員たちの間を縫って、一番近くにいた左馬刻が床に倒れたまま動かないXXXに駆け寄りゆっくり抱き寄せる。何度か小さく呼びかけてみるが彼女の意識はない。左馬刻の腕の中でぐったりとしたまま。しかし微かに息をしている事は確認できて少しだけ安心する。


「そいつが御厨 コウスケ―…いや、御厨 XXXか」

「………」


あちこちで党員の声が飛び交う中、静かに聞こえたその声に左馬刻が顔を上げる。いつの間に近くにいたのか、無花果を顔をしかめながら睨み上げた。自然と腕の中に居る意識のない彼女を抱きしめる力を強める。


「彼女を、捕らえるおつもりですか」


左馬刻の腕の中で意識を失っている1人を見下ろしたまま立ち尽くす無花果に、後方から神宮寺寂雷が投げかける。理由はどうであれ、彼女も世間を騒がせた本人である。過去に起きた事件を含め、中王区が彼女を強制的に捕らえる為の条件は揃っている。
寂雷の問いかけに反応したのは無花果や党員でない。彼女を抱えている左馬刻を始め、銃兎に理鶯、一二三、そして撃たれた脇腹を抑えながら上体を起こした観音坂独歩だった。その場に居た皆が険しい顔をしたまま無花果を見つめていた。ことを荒立てたくはないが、彼女を連れて行こうというのなら…と、強い意志が垣間見えたぐらいに最悪の事態になるのではないかと思えるほど緊迫した瞬間だった。


「…フン。我々がこの場に赴いたのは玖藕女麗久の粛清の為だ」


ありがたく思え、下郎共と吐き捨て無花果はゆっくりと歩き出す。そして去り際に少しだけ左馬刻の腕の中に納まる彼女を振り返って小さく呟くように言葉を投げる。


「貴様との話はまたいずれ、な」


カツカツカツ、とヒールの音が遠のいていく。その後を追って数人の言の葉党員が、立ち尽くす皆を避けるようにして施設を出て行った。静まり返る施設内に取り残され、皆が小さく吐息した。どうやら今回は全員見逃して貰えた、ということらしい。玖藕女の事は気になるが、中王区が動いたとなればこれ以上我々が深追いする必要はない。今はそれよりも急いで彼女を病院に連れて行かなければ、と寂雷は彼女を守るように抱きかかえたままの左馬刻の元へと駆け寄った。





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