※一郎視点


何だ、あの顔。あんな顔のコウスケ、今まで見た事ねぇ。思わず捕まえていた手を離してしまったが果たしてこれは正解だったのだろうか。未だに残る僅かな温もりが遠のいていくのをただただ立ち尽くして見送る俺。その横をすり抜けていく黒スーツの連中…。
明らかにコウスケの後を追って「待て!」とか「見つけたぞ!」とか声を上げながら走って行ったその連中の腕章に書かれた文字を見て更に驚いた。


「(中王区…だと?)」


何故中央区がコウスケを追って…?嫌な予感が体中を駆け巡る。脳裏を過ぎるのは連日巷を騒がせているあの事件だが、いや、まさか。そんな。コウスケが関わっているとでも?何かの間違いじゃ…?と、色々な推測は出来るが断定はできない。何かの事件に巻き込まれてるか容疑をかけられているだけかもしれないし、一瞬のことでコウスケを追って行った連中が本当に中王区だったのかも正直自信が無い部分もある。
しかし、コウスケは俺を巻き込まないように突き放したようにも感じられた。関わるな、とも言っていた。焦っていた。いつも見る余裕のある顔は微塵も感じられなかった。ふざけて笑い合えるぐらい、気軽に一緒に食事も買い物も行く仲だというのに。あの顔は初めて見た。その衝撃と目の前で起きていることへの理解が追い付かなくて、すぐに俺は動けなかった。
コウスケを信じていない訳じゃ無い。でも、今回ばかりは以前から抱いていた疑問を晴らすいい機会かもしれない。それには万が一中王区にコウスケが捕まることがあればそれこそ俺の疑問は晴らせないし、コウスケとも話が出来ない。そこまで考えてズボンのポケットに突っ込んだままだったスマホを取り出し、グループLINEを開く。1つコメントを落とせばすぐに返事が来た。時間的にも、場所的にも丁度いい。要件をまとめ、伝えると快く了解の返事がこれまたすぐに返事が返ってきた。コウスケの事は2人に任せよう。あとは、


「よう、久しぶりだな」


スマホの画面をスライドさせ1件の電話番号を引っ張り出す。何コールかすると久々に聞いた声がスピーカー越しに返ってくる。出来ればあまり使いたくなかったのだが、思っていた以上に急がなければと確信の無い不安がその連絡相手に俺を導いた。


「至急、調べて欲しいヤツがいるんだが」


お前の腕を見込んで。と持ち上げて、依頼する。以前はよく萬屋関係で依頼があり必要とあらば協力を頼んだ相手だがここ最近は全く連絡を取り合っていなかった分、少し渋っていたが最終的にはまた今後も協力してくれるなら、と乗ってくれた。
持っている情報をくれと言われアイツの名前と年齢を教えたところそこでふと、俺自身コウスケの事を知らなかった事を痛感する。あとはアルバイトしてるとかぐらいか。どこに住んでるのかも知らないし、家族も友達もアイツ自身の事を何も知らない事に気づいてしまった。
情報少ないなとかなんとか少し嫌味を言われながらも分かり次第連絡を入れてもらう約束をし、通話を終えるとスマホをまたズボンのポケットへと押し込む。少しばかりの罪悪感と不安を募らせながら自らも情報を得ようとイケブクロの街中へと歩きだした。





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