※独歩視点
「≪―…続いてのニュースです。連日起きている"マイク狩り"の事件ですが、本日新たにイケブクロディビジョンで確認されました≫」
繰り返します、とキッチリと着込んだスーツの清潔感のある若めのアナウンサーが手元のニュース原稿を再び読み上げる。ここ数日の間立て続けに起きている恐ろしい事件の内容に、朝食を用意してくれた一二三が苦い顔をしてテレビを見つめる。
「うひー。今度はイケブクロかよ」
「犯人もあっち行ったりこっち行ったり大変だろうな」
「どっぽちん観点違くね?」
"マイク狩り"。色々なディビジョンで違法品だろうが正規品だろうが関係なくマイクを所持していた連中が襲われ、マイクを奪われるという事件が起きている。しかも警察が発見した時には記憶が曖昧でどんな犯人だったのか覚えていないという被害者(違法マイクを所持している時点で違法者なのだが)の証言から何の手掛かりもない状態が続いている。違法マイクを使って暴れていた連中が減って喜ぶ者も居れば、無差別に変わりないことから恐怖に怯える一般人まで世間の人達の反応は様々だ。
「俺らも気を付けねーとなー」
「嗚呼…」
「こういう犯人ってさ、実は強いヤツと戦いてー!とかそんな理由でヒプノシスマイク狙ってたりすんじゃね?」
「そうか?」
「ぜってーそうだって!」
マイクコレクターか。いや、マイクに恨みを持っている者…今の世の中(情勢)に不満を持っている者の犯行も疑われているが、容姿も何も情報がない上に目撃者も居ない。加えて、一つのディビジョンに留まらずあちこちのディビジョンに移動して犯行に及んでいるようで、警察も予測できないというか対応しきれないようだ。
「こんな中年のオッサンのマイク狩ろうって気にはならないだろ」
「独歩ちん分かってないなー!俺らはシンジュク代表"摩天狼"っしょ?狙われない訳ないって」
「だったら他のディビジョンだって―…」
「≪連日続くこの事件にヒプノシスマイク所持者間では警戒度が増し、警察だけではなく中王区も動きを見せ始めているようです…≫」
一二三が焼いてくれた焼き鮭を箸で取りながらニュースの画面を見つめる。自分の問いに応えるようにしてニュース原稿を読み終えたアナウンサーの横で中王区のあの人にコメントを貰おうと群がるメディアを映したワイプが表示されていた。
「警戒してない訳ない、か」
「当たり前っしょ」
パクリ、と焼き鮭と白米を頬張りながら呟くと呆れたように一二三が返してくる。と、ピコンと俺と一二三のスマホと携帯にLINEの通知音が届く。流れるように2人して画面を開くと寂雷先生から摩天狼のグループLINEに「2人ともニュース見てると思うけど気を付けて下さいね」と優しいコメントが届いていた。無言のまま2人で一度アイコンタクトを交わし、先生のコメントに対し「了解っス!!」「先生もお気をつけて」と返信した。
「一二三も気を付けろよ。帰り道とか」
「独歩こそ。何かあったらぜってー呼べよ」
唯でさえいつどこでラップバトルを仕掛けられるかとひやひやしているのに、そのいきなり仕掛けてくる連中のマイクを奪うほどの犯人だ。相当の手練れか、複数人なのか、はたまた愉快犯なのか何も分からない。自然と警戒感も高まるというモノだ。
もう一口と朝食を口に放り込みながら不意にそういえばコウスケも各ディビジョンでバイト掛け持ちしてるって言ってたけど大丈夫かなぁ?この事件含め、変なことに巻き込まれたりしてなければいいが…なんて思った。